【改稿版】第7話 十万人記念凸待ち配信(その3)
さすがの僕も知らない人相手に何度もコラボをしているとそろそろ精神的疲れのピークに達しようとしていた。
もちろんそのことに気づかないこよりさんではない。
『怒濤の一期生の先輩方が続いたから次は馴染みある三期生の二人を順番に呼んでみましょうか?』
こよりさんのその言葉に僕は元気なく手を挙げる。
すでに疲れはピークを過ぎている。
ちょっとでも油断すると段ボールに閉じこもって、一週間は出てこない自信がある。
『むしろこれだけ頑張ったのだからちょっと、一年や十年くらい休憩しても罰は当たらないよね。僕としては百年分くらいの勇気を振り絞ったわけだし』
こよりさんが喋ってくれている横で僕は段ボールの準備を始めていた。
『もちろんそんなに長く休憩をしたらダメですよ。休むのは配信が終わってからで、また明日も配信が待ってますからね』
『ど、どうしてそのことを!?』
『当たり前のように声に出してたじゃないですか!?』
“www”
“十年は長すぎる”
“明日の配信、全裸待機してる”
『えっ!? ど、どこから!?』
『“一年や十年は休憩してもいいかな”ってところですね』
『ほ、ほとんど全部だよ……。わ、わふっ……』
思わず恥ずかしくなって顔を真っ赤にする。
その瞬間に僕の段ボールはすごい速度で蹴飛ばされて、空の彼方へと消えていた。
『えっ?』
『隠れたらダメですよ』
『今、僕の段ボールを……』
『じゃあ、早速繋ぎますね。次はこの方です。どうぞ!』
僕を無視してこよりさんが進行をしてくれる。
むしろこよりさんが一人いれば僕はいらないんじゃないだろうか?
本人不在の記念配信。
うん、中々みないよね。
そんなことを考えていると通話に次の人が入ってくる。
ただその人は僕たちの想像をはるかに超える人だった。
『こんはるー。みんなのかいちょーさんの登場だよー』
えっ!? 誰!?
一瞬戸惑った僕はこよりさんの顔色を窺う。
彼女も口をぽっかり開けて呆然と彼女を眺めていた。
“まさかシロルームのゼロ期生まで!?”
“でもかいちょーさんは事実上の引退をしていなかったか?”
“いや、ちょっと待て。何かがおかしいぞ?”
『えとえと、か、かいちょーさんってことはまさかあの……』
『……何をしてるんですか? 猫ノ瀬先輩』
『えっ? えっ?』
僕一人だけ完全に話には入れずに困惑し続けている。
『あ、あの……、どういう……』
『ユキくん、アイコンを見て下さい』
『……アイコン?』
よく見ると通話のアイコンが猫ノ瀬先輩そのままの姿だった。
『にゃははっ、良くやるんだけどすぐに気づいたのは君が初めてだよ、ワトソンくん』
『だ、誰がワトソンですか!?』
『そっちの君はまだまだだね。おっちゃんの称号をあげよう』
“なんだ、猫ノ瀬先輩か”
“そっくりだったな”
“さすがに本人ではないよな”
その言葉に性別がバレたかと思って一瞬ビクッとしてしまう。
『ぼ、僕はそんな年じゃないですよ……』
『そうですよ。こんなに可愛いユキくんをおっちゃんだなんて私が許しませんよ』
『ほうほう、二人はそういう仲かね。これは
『そ、そんなんじゃないですよ? ねっ、ユキくん?』
『じ、事件? ぼ、僕、殺されちゃうの?』
『そうだねー。おいしく頂かれちゃうかもね』
『えぇぇ。こ、ココママはそんなことしないよね?』
僕の上目遣いを見たこよりさんは息を飲んでいた。
『そ、それは関係各所と応相談ということに』
なぜかこよりさんは回答を保留にする。
『ぼ、僕、食べられちゃうの!? そ、そんなにココママ、怒ってるの? ちゃ、ちゃんとするから許して……』
『それならこれから頑張って配信を続けますか?』
『う、うん』
『“うん”じゃなくて、“はい”でしょ』
『は、はい』
『これからも私とコラボしてくれますか?』
『はい』
『これから――』
『私と一緒の布団で寝てくれますか』
『はい。……あれっ?』
なんか自然と頷く流れができて返事をしてしまっていたけど、おかしな事に返事をしたかも。
『ね、猫ノ瀬先輩!? 一体何を!?』
『ふふふっ、ココネちゃんは欲望の吐き出し方がダメ。本当にココネちゃんがやりたいのは
『そ、それはそうですけど……』
『もうユキくんは頷いたからここから反故にされることはないよ。良かったね』
『ぼ、僕、罠にはまったの!?』
『ふふふっ、気づくのが遅かったね、ユキくん』
『で、でも、そうだよね。ココママならわ、悪いことはしないよね……』
一応僕の
そんな恩人に対して僕から何かするなんてそんなことはしない。
こよりさんが僕のベッドを使うのなら、僕は床で寝れば良いだけだしね。
『うっ……』
『据え膳食わぬはママの恥だよ』
『そ、そんな言葉はありません!』
『とにかく、かいちょーさんからのアドバイスは以上だよ。じゃあ、本物の猫ちゃんに変わるねー。あっ、ちなみにかいちょーさんは白のくまさんだからねっ。それじゃあ、まったねー』
『えっ?』
突然通話が切れたかと思うとすぐに次の通話に繋がっていた。
『にゃにゃ? 突然通話が繋がったのにゃ? もう出番かにゃ?』
『あれっ? 猫ノ瀬先輩? えっと、じゃあさっき喋っていたのって……』
『本人……みたいですね。そういえば一度も猫ノ瀬先輩とは名乗っていませんでしたね。語尾もなかったですし』
こよりさんもしてやられた、と頭に手を当てていた。
そんな様子を猫ノ瀬先輩は不思議そうにしていた。
『にゃにゃ。うちはもう喋っても良いのかにゃ?』
『あっ、ご、ごめんなさい。お呼びしたのにお待たせしてしまって……』
『いいのにゃ。他ならぬユキにゃんのためだにゃ』
悪戯好きと聞いていたが、猫ノ瀬先輩は優しい人のようだった。
すごく親しみやすそうだし……。
『ところでユキにゃんはココママとどこまでいったのかにゃ? ここだけの秘密にするからうちにも教えて欲しいのにゃ』
やたらグイグイと笑顔のまま近づいてくる。
その距離感に僕は思わず身じろぐ。
『どうしたのかにゃ? もしかして喋れないところまでいっちゃったのかにゃ?』
冗談っぽく笑いかけてきているけど、その目が冗談ではないと言っている。
『えっと、あの……』
『ユキくんとならいくところまでいってますよ? 当然じゃないですか』
『なっ!?』
こよりさんが突然おかしなことを言いだして僕は思わず目を見開く。
ただ、回答としてはそれが正しかったようだ。
『そうかにゃ。そうだと思ったんだにゃ。きっとリスナーのみんなもココユキがビジネスかどうかを知りたいと思ってたんだにゃ』
“営業で済まない仲だと!?”
“ずっと一緒だもんな”
“親子みたいなところがあるけどな”
『えっと、ココママにはいつも助けて貰ってます』
『にゃにゃ、それならこれからはうちがその役目を貰ってもいいかにゃ!?』
『だ、ダメです!?』
『にゃっにゃっにゃっ、やっぱりそういう仲なのにゃ。安心したのにゃ。あとうちは虎柄にゃ。それじゃーにゃー』
嵐のように去って行ってしまった。
『えっと、色とかを言うのはもはや定番なの? 恥じらいはないの?』
『ユキくんが見本を見せるといいんじゃないですか? ちなみにユキくんの色はなんですか?』
『えっ!?』
思わず視線を下へと向ける。
貰ったユキくん衣装に身を包みながらの配信だけど、その下はさすがに普段通りである。
一瞬で茹で蛸のように顔を赤く染めていた。
『も、もう、そ、そんなこと言えるわけないよ。いくらココママでも……』
ポカポカと叩く仕草をする。
『大丈夫、そんなときのために私がいるんだよ。ちなみに前にお泊まりしたときのユキくんは黒でした。大人ぶりたい年頃なんだね』
こよりさんがニヤリ微笑みながら答えると、コメント欄が見えないほどに爆速で進行するのだった。
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少し短めに毎週更新することを優先しております。
それに伴って7話がまだまだ続きそうなので、“上中下”ではなく“その〇”表記にタイトルを変更しております。
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