【改稿版】第5話 春のホラー(上)

 配信が終わり、あとは寝るだけの日付が変わったタイミング。

 よく見ると配信中のもの以外にもユイさんからもう一件、チャットが来ていたことに気づく。



【羊沢ユイ】 昨日18:26

 明日はオフコラボなのー



 どうやらオフコラボは明日のようだ。


 うん、明日だね。

 間違いなく明日って書いてあるし。

 うっかり今日行く準備をしちゃうところだったよ。


 しっかりチャットに返事をしておく。



【雪城ユキ】 今日0:12

 明日だね。わかったよ



 送ったあと、すぐに寝ようとしたのだが、ユイさんからすぐに返事が来てしまう。



【羊沢ユイ】 今日0:12

 うみゅ。今日なの!? 迎えに行くの

【雪城ユキ】 今日0:14

 迎え!? 僕がどこに住んでいるのか知ってるの!?

【羊沢ユイ】 今日0:14

 住んでる場所は今度教えてもらうの



 いずれコラボをするときを考えると家は教える必要はあるかな?



【雪城ユキ】 今日0:20

 また今度ね



 それだけ打つと僕は力尽きるように眠ってしまうのだった。




 ◇◇◇◇




 翌日、学校に着くと昨日同様に僕は机に突っ伏していた。

 さすがに連日の配信で精神がゴリゴリと削られていたからだ。



「ユキくんの配信を見て寝られなかったんだよな?」

「開口一番それなの?」

「当たり前だろ? 誰かと語り合いたいんだよ」

「えっと、昨日はその結坂さんと……」

「ちっ、リア充かよ」



 慶太が舌打ちをしてくる。

 僕からしたら男らしい慶太の方が羨ましい。

 慶太の場合は作ろうとしてないだけなのだから。



「そもそも僕と結坂さんはそういう仲じゃないよ。一緒にゲームを買いに行っただけだからね」

「普通はただの友達が一緒にゲームを買いに行ったりとかしないぞ?」

「えっ? 慶太とはよく買いに行ってたよね?」

「異性の友達と……だ!」

「そもそも僕、結坂さんとは昨日初めて話したんだよね……」

「それがどうして一緒にゲームを買いに行くことになってるんだよ!?」

「僕に聞かれてもわからないよ」

「まぁ、それはいい。それよりも昨日のユキくんだ! あれだけ言ってたんだから見てるよな?」

「えっと、見てはいない……かな?」



 さすがに自分の配信を見返す余裕はない。

 むしろ恥ずかしさで倒れてしまう。


 だからこそ僕は編集なんてできる気がしない。

 絶対に悶絶死してしまう。



「絶対にはまるから見た方がいいぞ。今だとぜんぜん追いつけるからな」

「は、はははっ……、わかったよ。今度こそちゃんと見れるようにするよ」

「言ったからな。明日にユキくんの話をするぞ」

「えっと、それよりも僕としてはこよ……ココママが好きだよ?」

「ココママとユキくんの絡みが最高だぞ」

「……三期生の他の人たちってコラボしてないの?」

「そういえば今晩にユキくんとユイっちがコラボだったな。ホラーゲームをするらしいぞ」

「ホラーゲームなんて滅びたら良いのに……」

「相変わらず祐季は怖がりだな」



 慶太が声を上げて笑う。



「し、失礼だね。ぼ、僕だってやろうと思えば……」

「……できるのか?」

「逃げる」

「逃げるのかよ!?」

「だ、だってあぁいうゲームって大抵夜でしょ? 何で怖いところに行くのに恐ろしい暗闇の中を行くんだよ。あんなの怖がってくれって言ってるようなものだよ……」

「そうじゃないとゲームにならないだろ?」

「ゲームでまで怖がりたくないよ……」



 ただ“好き”と“嫌い”の意見が分かれた場合、平行線をたどるのは必然で、結果的に先に授業が始まってしまうのだった。




 ◇◇◇◇




 昼は昨日と同じように結坂さんがお弁当箱を持ってやってくる。



「えへへっ、約束通りに来たよ」

「何の約束もしてないよね?」

「お約束の言葉でしょ?」

「なんのお約束なんだろうね」



 そう言いながらも結坂さんのお弁当もおけるように場所を空ける。



「ありがとう。今日も祐季のお弁当はおいしそうだよね」

「簡単なものだよ? 食べたいの?」

「食べるー!」



 いくつかを結坂さんのお弁当に載せてあげる。



「あっ、でもたくさん食べ過ぎると祐季のご飯がなくなっちゃうね」

「僕、そこまで食べないから大丈夫だよ。残すより誰かに食べてもらえたほうが僕もうれしいからね」

「それなら毎日食べるよ」

「えっ? 毎日一緒に食べるの?」

「ダメなの?」

「別にダメじゃないけど、ただでさえ噂されているのに困らないの?」

「別にそんなもの、気にしなかったら大丈夫だよ」

「そういうものなんだね」



 とてもじゃないが僕にはマネできそうもなかった。



「今日のおかずもとってもおいしいね。私のところに嫁に来ない?」

「……普通、逆でしょ?」

「だって、祐季ってなんとなくお嫁さんの印象があるから……」

「そ、そんな印象はないよ!?」

「一度着てみない? 待ち受けにするから」

「着ないよ!?」



 なんか結坂さんなら用意してきそうな怖さがあって、前もって拒否しておく。



「残念。また今度にするね」

「その今度は存在しないからね?」

「残念。見たかったのに」

「いくら残念がっても駄目だからね!」

「むぅ……、どうすれば着てくれるの?」

「どうやっても着ないからね!?」



 結局結坂さんは頬を膨らませて拗ねていた。



「はぁ……、別に服を着なくてもおかずは渡せるでしょ?」

「そうだった。毎日うちに味噌汁を作りに来てよ」

「それ、プロポーズの文言だよ……」

「やっぱりウエディングドレスだね」

「……おかず抜きにするよ?」

「ごめんなさい。ちゃんと着物にするから許して」

「全然変わってないからね!?」



 終始結坂さんに振り回されていたけど、なぜかそこまで不快に感じなかったのは、どこかここ最近三期生のみんなに振り回されていたことが原因なのかもしれない。


 僕も少しくらい人と話す耐性がついてきたのかもしれない。



「ウエディングドレスは諦めるからちょっとコスプレとかしてみようよ」

「僕に服を着させること自体諦めてよ」

「それは無理だよ! 可愛い子を着飾るのは当然のことだもん。やらないと世界の損失だよ!」

「そ、そんなことないよ。それに可愛いというなら結坂さんも……」

「私は着せる係。祐季は着る係。オッケー?」

「全然オッケーじゃないからね!?」

「ちっ、ごまかされなかったか……」

「ちょっ、なんで舌打ちされるの? 僕が悪かったの?」

「大丈夫だよ。犬を射んとするならまずは将から撃たないとね」

「それ逆!! って犬じゃなくて馬だよ!!」

「この場合は犬で合ってるから大丈夫だよ」

「そ、そうだったかな?」



 僕も決して勉強ができる方ではなく、大体平均よりやや下、くらいの成績を取っていた。

 だから結坂さんが言っているような言葉が嘘かどうかの判断まではつかなかった。



「そうだよ。うん、まずはマネちゃんから落さないとね」



 それから結坂さんはスマホを取り出して誰かにメールを送っていた。




 ◇◇◇




 オフコラボのはずなのに結局放課後になるまでユイさんから連絡が来なかった。



 僕、どうしたらいいのだろう?

 もしかして、このままオフコラボは中止?



 そんなことを思ってると昨日と同じように校門のところで結坂さんが待っていた。



「祐季、待ってたよ」

「おっ、今日もデートか?」

「ち、違うよ? それに今日僕は約束が……」

「うんうん、ちゃんと覚えてて偉いよ。私との約束だよね?」



 当たり前のように結坂さんは腕を組んでくる。



「ち、違うよ!?」

「そんな否定しなくていいじゃねーか。若い二人で楽しんでくると良いぞ」



 そういうと頼みの救世主である慶太が手を振って去っていく。



「あっ、待って。本当に約束は……」

「ほらっ、祐季。行くよ」

「ゆ、結坂さんもちょっと待って」



 僕は慌ててユイさんに連絡を入れる。



【雪城ユキ】 今日15:45

 今日のオフコラボ、何時ごろにどこへ行けばいいかな?

 ちょっと友達に誘われてて…



 チャットに連絡を入れると隣にいる結坂さんのスマホから通知音が鳴る。



 ピコンッ。



 一瞬ドキッとしたけど、偶然なのだろう。



「ごめん。ちょっと待ってね」



 結坂さんはスマホを見ていた。

 そして、唸っていた。



「へぇ、こうくるんだ。そっか……」



 なんだか結坂さんの黒いところが見えた気がする。

 でも、笑顔を崩さずに再び腕を組んでくる。



「えっと、大丈夫だったの?」

「うん、大丈夫」

「そ、そっか……」



 なぜかいつも速攻で連絡を返してくれるユイさんなのだが、今日は全く反応がない。


 さすがに不安に思い、今度はマネちゃんの方にも連絡を入れてみる。



【雪城ユキ】 今日15:52

 今日のオフコラボ、何時からやるかわかりますか?



 するとマネちゃんの方はすぐに連絡が返ってくる。



【マネちゃん】 今日15:52

 もう小幡さんと合流したって聞きましたよ?



「えっ?」



 もしかすると今この近くにユイさんがいるの?



 周りを見渡すが学生がたくさんいるものの他には腕を組んでる結坂さんくらいしかいない。

 結坂さんしか……。



「えっと、結坂さんってもしかして、配信とかしてたりする?」

「……やっと気づいたの?」

「じゃ、じゃあやっぱりユイさ……」



 思わず大声で言いそうになる僕の口を結坂さんが閉ざしてくる。



「リアルバレは厳禁だよ」



 小声で言う結坂さんに僕は何度も頷いてみせるのだった。




 ◇◇◇




 相変わらず僕の腕を掴んだままの結坂さん。


 なぜか嬉しそうに鼻歌まで歌う始末である。



「えっと、本当に結坂さんは僕とのオフコラボでよかったの? その僕、男だし……」

「そうだね。祐季なら平気かな? 配信中は段ボールに入ってユキの格好をするんでしょ?」

「し、しないよ!? だ、誰がそんなことを言ってたの!?」

「こより。何度も自慢してくるんだよ!」

「あー……、こよりさんには何度も助けられちゃったしね。それに緊張しているときはアバターの格好をすると緊張が和らぐらしいから」

「うん、それは嘘だよ」

「……えっ?」



 思えばこよりさんは確かにアバターの姿をしていなかった。



「それにしても祐季、すごくこよりさんと仲いいよね?」

「うん、僕が困ってるときに色々と手を差し伸べてくれたんだよ」

「そっか、でもこれからは私が色々と教えてあげられるね」

「あっ、そうなるね」



 確かに結坂さんなら同じ学校だし、人見知りな僕に対して結構ぐいぐいと来てくれるので、かなり話しやすい。

 これで同じ三期生だとわかったのだから、そちらの相談もしやすくなる。



「それならちょうど相談したいことがあったんだよ」

「任せて。どんな服が似合うかな? 色々と見繕ってあげるよ」

「ち、違うよ!? どうやってゲームを配信するか教えてほしいんだよ」

「そっか。うん、それなら今日の配信は決まりだね」



 結坂さんはにっこりとほほ笑んでいた。

 そして、素早い手の動きでカタッターに打ち込んでいた。



 羊沢ユイ@シロルーム三期生 @Yui_Hitsuzisawa

 うみゅー、今夜20時からユキとコラボでホラー耐久するよー。

 ユキの悲鳴を見にきてねー(੭ु˙꒳​˙)੭ु⁾⁾ばんばん

 ♯羊布団 ♯ユキユイ



「ちょ、ちょっと待って!? ホラー耐久っていったいなんのこと!?」

「祐季、昨日やりたそうに見てたでしょ?」

「全く見てないよ!? むしろ全力で拒否してたよね!?」

「ホラーだもん。怖がった方が楽しんですよ」

「全然楽しんでないよ!? 完全に怖がってるんだよ!」

「私は全然問題なし! むしろ楽しみ」

「僕が怖いんだよ!?」

「でもほらっ、ゲームのつなげ方、教えてほしいんだよね? それなら実際に繋ぐところを見せるのがわかりやすいと思うんだよ」

「そ、それはそうだけど、でもホラーをする必要はないよね?」

「そこは私の趣味だよ」

「ゆ、結坂さんがホラー好きなの?」

「ううん、祐季の悲鳴を聞きたいだけ」

「そのほうがおかしよね!?」



 いくら言ったところで配信内容は変わらない……どころかすでにマネちゃんにも報告してたらしくて、“ホラー配信、がんばってくださいね”なんていう応援メッセージが送られてきていた。



「うぅぅ……、どう見ても罰ゲームだよ……」

「あっ、悲鳴上げたら罰ゲームね」

「どうして!?」

「その方が盛り上がるから」

「そ、それなら結坂さんがやったら?」

「私だと笑うよ?」

「……なんで!?」

「だって、あんなヨタヨタ歩きで向かってくるゾンビ(笑)だよ? あんなの、撃たれて当然だよ」

「そ、それが怖いんだよ……」

「大丈夫だよ、いざということは……」

「助けてくれるの?」

「笑ってあげるね」

「どうして!?」

「配信は楽しく、がモットーだからね」

「うぅぅ、それはわかるけど……」

「だから私は祐季の人気に乗っかるよ」

「それは……乗っかるだけじゃなくて全部かっさらってくれていいんだよ?」

「もちろんそうなるように頑張るよ!」



 なんだかんだ言って結坂さんも配信のためにやっているだけ。

 そこに水を差すのは同じ配信者としていかがなものだろうか?



「ぐぐっ、わ、わか……」

「罰ゲームは祐季のコスプレショーで」

「今日は体調が悪いからまた今度にしようかな」

「体調悪いと学校来てないよね? 諦めてホラーをやろうね」

「い、いやだよ……」



 結局僕はそのまま結坂さんの家まで引きずられていくのだった。




 ◇◇◇◇




 結坂さんの家は僕が住むマンションの一室だった。

 確かにここならセキュリティーもしっかりしていて安心できるし、防音もしっかりしているとマネちゃんが来た時に驚いていた。



“だれかご家族に配信者がいるのですか!?”



 そんな風に言われたが、当然ながら誰もいない。

 そういえば結坂さんも元々配信をしてたんだよね?

 それなら防音がしっかりとしているここに住んでいてもおかしくない。



 そして、結坂さんのアバター、羊沢ユイといえばのんびり屋のぐうたらさん、という印象が強いのだが部屋は意外にもかなり綺麗だった。


 玄関を入ってすぐに花の芳香剤が良い気持ちにしてくれる。

 更にはさりげなく置かれた可愛らしい小物。


 部屋に入るとぬいぐるみや大きめのクッションが置かれているところも女の子らしい。



「じろじろと見られると恥ずかしいかな?」

「あっ、ご、ごめ……」

「慌てて掃除したからちょっと汚いんだよね。ごめんね」

「そ、そんなことないよ。すごくきれいだよ」

「ありがと。それより配信まで時間あるから練習でちょっとだけ試しておく? その方が夜も余裕をもってできるよね?」

「そ、そうだね。まだ明るいし今の時間なら怖くないかも……」

「それじゃあ準備をするね。あと私は配信の告知をするけど……」

「僕もするよ」

「うん、よろしくね」



 それからしばらくの間、それぞれでカタッターに告知を入れていた。



 羊沢ユイ@シロルーム三期生 @Yui_Hitsuzisawa

 返信先:@Yui_Hitsuzisawa

 うみゅー。ユキくんの生声とっても可愛いの(੭ु˙꒳˙)੭ु⁾⁾はぁはぁ……



 一応僕の方でもユイの呟きを引用して、告知しておく。




 雪城ユキ@シロルーム三期生 @yuki_yukishiro

 えとえと、今日はユイさんに拾われてしまいました。

 そのその……、やっぱり一人でホラーゲームをするのはやっぱり怖いけど二人なら大丈夫かなって。

 だからその……、ぜひ見に来てくださいね。




 僕の呟きを見た瞬間に結坂さんは少し不満そうに言ってくる。




「やっぱりユキ、可愛いね。なんだろう……、負けた気持ちになるよ」

「しょ、勝負してるわけじゃないんだからね……」

「うん、それはわかってるんだけど」



 不服そうな結坂さん。

 すると早速知り合いからリプが飛んでくる。




 真心ココネ@シロルーム三期生 @kokone_magokoro

 二人がいいなら私が行ったのに…


 羊沢ユイ@シロルーム三期生 @Yui_Hitsuzisawa

 うみゅ、ユイが良いって言ったの。勝ったの(੭ु˙꒳˙)੭ु⁾⁾


 雪城ユキ@シロルーム三期生 @yuki_yukishiro

 ご、ごめんね、ココママ


 真心ココネ@シロルーム三期生 @kokone_magokoro

 ユイ、詳しい話はあとから聞くからね!


 羊沢ユイ@シロルーム三期生 @Yui_Hitsuzisawa

 音消して待っておくの(੭ु˙꒳˙)੭ु⁾⁾




 そんなやりとりをした後、僕は練習がてらホラーゲームをするのだった――。




 ――――――――――――――――――――

 更新、遅くなりました。

 完全に風邪で大事を取って遅く寝ました。

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