【改稿版】第4話 リアルバレ!?(上)
終わった……。
ようやく終わってくれた……。
配信終了を押すと僕はようやく人心地付くことができた。
それと同時に僕がシロルーム三期生として正式に動き出した、という実感が湧き、その恐怖から体が震えてくる。
「お疲れ様、祐季くん」
「色々と助けてくれてありがとうございます」
「ふふっ、私も役得だったからね。ただ……」
こよりさんは欠伸をかみ殺す。
「さすがにそろそろ眠たいね。後片付けしたら帰るよ」
「あっ、それなら僕が送って……」
「ダメだよ。祐季くん、かわいいから襲われちゃうよ」
「そ、それはこよりさんも同じだよ」
「でもそう言い続けたら帰れないでしょ?」
「そ、それだとここに泊まっていく?」
言ってから僕はとんでもないことを口にしたことに気づき、顔を真っ赤にしていた。
「ダメだよ、祐季くん。それだと襲っちゃうから」
「えっ? おそ……」
「とりあえず、今日のところは帰るね。でも、何かあったらすぐに連絡するから大丈夫だよ」
こよりさんはにっこり笑みを浮かべると持ってきた荷物をまとめて、最後に僕を抱きしめて帰っていった。
そのあと、突然スマホが鳴り出していた。
「わわっ、こんな時間にいったい誰?」
画面を見るとそこに表示されていたのは“マネちゃん”の文字だった
「えっと、もしもし……」
「小幡さん、今日の配信、すごくよかったですよ」
「えっ? あれでよかったの?」
マネちゃんの耳を疑ってしまう。
だって僕自身の枠の時はまともに喋れずに、コラボの時は何度も脱線。
お世辞にもうまく配信出来たとは思えず、むしろ反省点だらけだった。
「もう、最高ですよ! 小幡さんらしさが前面に押し出されてました!」
「えへへっ……、よかった……」
ここまで褒められるとさすがに嫌な気はせずに照れ笑いをしてしまう。
「あと、私のほうももっとフォローすべきでしたね。すっかり他の人たちと同等に考えていました。小幡さん、配信が完全に初めてでしたもんね」
「そこはこよりさんが色々と手伝ってくれましたから」
「大代さん、面倒見がいいですもんね。上手く三期生の面々をまとめてくれてて助かってます」
「みんなすごい人ばかりですよね……」
「でもそんな中で小幡くんがぶっちぎりのお気に入り数ですよ! もう十万人が見えてるのですよ!」
興奮冷めあらぬ様子なのが電話越しでもわかるほどだった。
でも、僕はきっと、まだ、そこまでのはず……。
「えっと、……まだ八人ですよ」
「わざと“万”を抜きましたよね? 小幡さんの初々しさが逆に良かったのかもしれませんね。あと小幡さんのフォローをしてたことで大代さんも頭一つ抜け出してますしね」
「こよりさんのためになったのならよかったですよ……」
色々と手伝ってもらったからこよりさんの助けになれてるのなら僕も良かったかも……。
「そういうわけで明日こそは小幡さん一人での配信、がんばってくださいね」
「はい。……えっと、やっぱり僕……」
「では、明日も20時からで予定しておきます。それから今後の配信ですけど、ベースは20時から、ということでよろしいですか?」
「よろしくないです」
「では、その時間ということで」
何故か拒否しようとしたのに、承諾したと捉えられてしまう。
「あの……僕の話、聞いてます?」
「小幡さんが本当に嫌なときはもっと大きな拒絶反応を見せるって大代さんから教えてもらってます。“祐季くん取り扱い説明書”っていう全100ページの……」
「な、なんでそんなものがあるのですか!?」
なぜか僕の知らないところで僕の本が作られていたようだ。
「それはまぁ、置いておいて……」
「僕にとっては問題しかないですよ!?」
「とりあえず今週は私の方でスケジュールは作成させていただきますので、とりあえず明日の20時だけ覚えておいてください」
「……わかりました」
「それと明後日の結坂さんとのコラボですけど、詳細等がまったくの未定みたいですね。一応夜は通常通りの配信を予定していますけど、何かわかったら教えてもらっていいですか?」
「きっとコラボは中止に……」
「ならないですね。配信ではのんびりとした感じですけど、結坂さんは結構お気に入り、気にされてましたから。おそらく小幡さんとのコラボを起爆剤にしたいって意図があるのでしょうね」
「全員あげるよ?」
「あげられないですからね。あとはカグラさんの方のコラボですが、一応今週一週間は個々の配信を重視していただきたいので、来週のどこかでやることにしましょう」
テキパキと僕が逃げる間もなく予定が決められていく。
むしろわざわざ電話しなくてもよかったのでは、と思えるほどに。
「一応何回かは雑談で良いと思いますけど、やりたいゲームとかあったら言ってくださいね。小幡さんもその方がやりやすいでしょうし」
「わかりました! たくさん見つけてきます!」
確かにゲームなら無理に喋らなくてもいい分、まだ楽にできそうだった。
「ではよろしくお願いしますね」
こうしてマネちゃんとの通話が終わった。
ゲームか……。そういうのでも良かったんだ。少し気が楽だよね。
最近のゲーム、持ってないかも。
またゲームショップに行かないと。
◇◇◇◇
翌朝になり、昨日の出来事は夢だと思えるようになっていた。
朝食と弁当を作り、学校に行こうとしたその時、スマホが鳴る。
【マネちゃん】 今日07:57
夢じゃないですから今日も配信してくださいね
あと、夜の間に小幡さん用の資料を作っておきました。また見ておいてくださいね
マネちゃんからの個人チャットにPDFが添付されていた。
そのタイトルは【犬でもできる動画配信】と書かれており、丁寧に表紙には段ボールに入ったちびキャラユキくんが描かれている。
まだちびキャラのイラストはなかったと思うけど、いつの間にか準備していたのだろう。
またあとからじっくり見ようととりあえずPDFを保存だけして、学校へと向かうことに。
◇◇◇
学校に着くなり、僕は机に突っ伏していた。
昨日は夜遅くまで配信で喋り、そこからマネちゃんと電話、更には寝る前にカタッターを見てしまったのが最後、やたら僕の書き込みが多くて、評判が気になって寝られなくなってしまったのだ。
残念ながら概ね好印象の語りばかりだったが。
次の配信を楽しみにしている人、ココユキを楽しみにしてる人、ユキユイを楽しみにしている人、多種多様だった。
あとは気になったのは“前世”と言ってVtuberになる前にしていたことを予想して書き込んでいる人とかもいたのだが、三期生の他の面々は色々と書かれているものの、僕に関しては一切何の情報も落ちてないのだ。
いや、当然と言えば当然かも知れない。
“前世”で出されるのは前にしていた配信者としての情報である。
まさか今をときめくシロルームの大トリを、全くのゼロ配信である僕が飾るなんて想像も出来ないよね。
とにかく昨夜、僕は3時間も寝ていない。
普段は22時頃には寝ていることもあり、すごく眠かった。
もはや目を開けていることも痛いほどに……。
「よぉ、祐季。なんか今日は眠そうだな」
「ちょっと夜更かししちゃってね……」
友人の慶太が話しかけてきたのでうつむきながら答える。
「お前がそんなに遅くまで起きているなんて珍しいな。何かあったのか?」
「ちょっとMeeYubeをね……」
「ついにお前も見始めたのか!?」
そういえば慶太は毎日数時間はMeeTubeを見ていると言っていた。思えばVtuberのことを知ったのも慶太の影響かも知れない。
「ちょっとね。ただ気がつくと日を超えていたよ」
「わかるわかる。特に昨日はシロルーム三期生の初お披露目だっただろ!? 気がついたらあっという間に時間が過ぎてたよ」
「へ、へぇ……。僕は最初の二人しか見てなかったよ……」
まさか知り合いに僕の
ボロが出ないように本当のことを交えながら言う。
「なんだよ、一番良いところを見てなかったのかよ。俺のおすすめは断然ユキくんだぞ! とにかくこう、守ってあげたくなる気持ちになるんだ」
「そ、そうなんだ……。で、でも本人は守られたいと思ってないかも知れないよ?」
「そうかもしれないが、あれだけ庇護欲を誘うのは早々出せないぞ? 一度見てみろ。俺の言いたいことがすぐにわかると思うぞ」
わかりたくないのだけど……。
「ま、また今度ね……」
「おう、今度じっくり語り合おうぜ」
屈託のない笑顔を見せてくる慶太。
黙っていたらイケメンと言われているのだが、素を出すとすごく残念だ。特に僕のことについて語り合おうとしている点とか……。
「あっ、もうダメ……。少し寝よう……」
そのまま眠りについた僕は授業が始まり、先生に起こされるまで気にせず寝続けるのだった。
◇◇◇◇
ようやく意識が覚醒してきたのは昼休みが始まる頃だった。
僕は持ってきた弁当を広げて食べていた。
慶太がいつも学食なので、たった一人で教室の隅で食べている。
せっかくだからマネちゃんがくれたPDFを今のうちに見ておこうとスマホを開いていたのだが……。
いつの間にか目の前に知らない少女がいた。
栗色の少し癖のある肩ほどの髪。
僕よりも低い背丈で、中学生と言われても納得しそうな少女。
「私も一緒に食べて良いかな?」
「えっ?」
「よいしょっと」
承諾もしていないのに勝手に目の前で弁当箱を広げる少女。
同じ学校の制服を着ているところから、同級生なのだろうが違うクラスなのかぜんぜん知らない人だった。
そして、二人で黙々とお弁当を食べる。
その様子を見たクラスメートが“あのちみっ子カップル可愛くない?”とか噂をしているが、初対面同士なのにカップルも何もないよね?
でも、どうして突然僕に声をかけてきたのだろう?
怪訝そうな表情を少女に向ける。
彼女はおいしそうにお弁当を食べていたが、しばらくして僕のお弁当箱もじっと見てくる。
「祐季のお弁当もおいしそうだよね? 少しもらって良い?」
「……もちろんいいけど、口に合うかはわからないよ」
「やたっ」
嬉しそうに僕のお弁当からいくつかおかずを持って行く少女。
……あれっ? 僕、名前を言ったかな?
でも直接言わなくても同級生の名前を知ってる人がいてもおかしくないか……。
「んっー。すごくおいしいよ」
「それならよかったよ。僕、今日はあんまり食欲ないからもっと食べても良いよ」
「やたっ。祐季、大好き!」
嬉しそうに残ったお弁当を頬張る少女。
「ところで僕になにか用があったんじゃないの?」
「あっ、それってユキだよね?」
「えっ、僕!?」
スマホを指差しながら僕の名前を呼ばれたと思ったら、少女の指は画面に映ったデフォルメされたユキくんを差したものだった。
「違う違う。雪城ユキ。Vtuberのほうだよ」
「あ……、そうだね。確かにこの絵はユキくんだね」
自分で言うのは少しだけ違和感があるのだが、そうでもしないとこの少女から疑われるかも知れないので、合わせることにする。
そもそも学校でリアルバレしかねないPDFを見ていた僕も悪いのだ。
「もしかして君……、ユキが好きなんだね!!」
「あははっ……、そ、そうだよ。ば、バレちゃったね……」
普通に考えるとそういう結論になるよね。
ただ好きだとしても昨日の今日で絵を準備できてるところとかいくつもおかしなところがあるのだが。
乾いた笑みを浮かべながらなんとか誤魔化す。
すると、少女は目を輝かせながら嬉しそうに顔を近づけてくる。
「やっぱりそうなんだ。ユキ、かわいいよね。私も好きだよ」
「で、でも、まだ昨日初配信したところだから」
「でもトレンド一位だったよね? しかもチャンネル登録者数も三期生だと圧倒的に伸びてるし、このままだとシロルームトップになるんじゃないかな?」
「さ、さすがにそれは大変だよ」
「それもそうか。一期生はもう伝説って言われてるもんね」
今のシロルーム人気を作ったとも言える四人の一期生。
少女は嬉しそうに彼らの話をしてくれる。
一期生の暴走機関車。
ピンクの長髪に星の髪飾り。黄色のワンピースを着たスタイルの良い女性。
頼まれてもいないのにいきなり人を推薦してイラストを描いてVtuberにしてくる、まさにシロルームの顔と言えばこの人
唯一アカリンの手綱を握れる、飼い主。
水色の肩くらいに切りそろえられた髪。魚を基調としたパーカーと白スカートのスレンダーな女性。
シロルーム一の常識人にして、ツッコミ魔王。
クールな外見とミステリアスな雰囲気で女性人気を集めている。白銀の髪に二本の角。スレンダーな体を持っている女性。
百合の間に挟まれたいと豪語する
見た目は完全なギャル。なのだが中身は完全な清楚。
金色の長い髪をしたやや着崩した制服姿の女性。
永遠イリア《とあいりあ》。
シロルームと言ったらまずこの四人が上げられる。
今のシロルームを作り上げたのが彼女たちで僕の大先輩ともいえる人たちだ。
特に朱里お姉ちゃんは僕をこの世界へ連れ込んだ元凶であり、アバターを作ってくれたママである。
感謝したくても複雑な気持ちになるのでなんとも言えなくなるのだ。
「でも、祐季なら軽く超えられるよ!」
なぜか自信たっぷりに言ってくる。
「そ、それよりも君ってVtuberに詳しいんだね。もしかして配信とかしてるの?」
このままユキくんの話題だと何かボロが出てしまいそうだったので、違う話を振る。
すると、少し驚いた様子を見せ、頬を膨らませる。
「
「んっ?」
「私の名前だよ」
「えっと、僕は
「……知ってるよ」
なぜか頬を膨らませて言う。
やっぱり前もって知っていたようだ。
ただ、結坂さんの名前……どこかで聞いたことあるような?
でも考えても出てこないためにおそらくはちょっと聞いただけなのだろう。
「……配信のことだね。もちろんやってるよ。明日もね」
「あっ、そうなんだ。すごいよね。僕も一度やってみようかなって思ったけど中々難しくて……」
「なるほど。だからこの説明書なんだ」
「そうだよ」
「うーん、中々懐いてもらうには時間がかかりそうかな」
「……どうしたの?」
結坂が顔を背け小声で何か呟いていたので聞いてみる。
「な、なんでもないよ。それよりもまた明日も一緒に食べて良いかな?」
「僕は大体ここで食べてるからいつでもいいよ」
「ここも良いけど、明日は屋上で食べてみない?」
「屋上……?」
この学校も他と変わらずに屋上は封鎖されている。
でも結坂は首を横に振っていた。
「実はこっそり入れるところがあるの」
「だ、大丈夫なのかな……」
「もちろん、大丈夫」
「……うーん」
今日会ったばかりの人と突然屋上でご飯。
しかも周りの人たちから既に噂をされてるほどなのに……。
おそらくはそんなところを見られると噂が事実にされかねない。
ただそれでも僕が作った料理をおいしそうに食べてくれた結坂さんが、僕を陥れようと思っている風には見えない。
おそらくは結坂さんも注目されるのが苦手、とかそういう理由なのかな。
「ダメ……かな?」
「わかったよ。明日は屋上で一緒に食べよっか」
「わーい、ありがとぉー」
嬉しそうに声を出す結坂さん。
そうしているうちに予鈴がなり、自分の教室へと帰っていくのだった。
その際にギリギリまで笑顔で手を振っていたせいで、クラスの人たちから更に黄色い声を上げられるのだった。
そんなタイミングで何食わぬ顔で帰ってくる慶太。
「何かあったのか?」
「ぼ、僕にもさっぱりだよ……」
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