第5話:結坂の誕生日 プレゼントはどうする? ♯ユキ犬姫拾いました

 突然知った結坂の誕生日。

 すでに日にちは一日過ぎてしまっている。


 でも、何もしないというわけにはいかなかった。




「えっ? 何もしなくて良いよ……」




 結坂自身はこういってくれているが、それでもやっぱり大好きな仲間であり、かけがえのない友達である。


 こういった記念日は一緒に祝って上げたい。


 でも、自分の誕生日は祝ってもらったものの、他人の誕生日をお祝いしてあげたことはない。



 いったいどんなことをしてあげたら結坂は喜んでくれるのか?

 やっぱり何か贈り物をしてあげた方が良いよね?

 結坂の場合は……ゲーム?



 何が好きそうかと考えてもそんなことしか思い浮かばない。

 ただ、こういった時に相談できる仲間が僕にはいる。


 早速ココネとカグラに連絡を取ることにした。




ユキ :[二人に相談したいことがあるんだけど、いいかな?]


ココネ:[どうしましたか? なんでも聞いてくださいね]


カグラ:[配信のことかしら?]


ユキ :[ううん、ユイの誕生日のことなんだよ]


ココネ:[そういえば昨日が誕生日って仰ってましたね。と、いうことはプレゼントのことですね。一緒に観に行きますか?]


カグラ:[それはいいわね。私もユイには何かプレゼントしたいわね。一緒にいきましょうか]


ユキ :[えっ、いいの? ありがとう]


ココネ:[いえ、私たちもユイにはプレゼントをしたいですからね]


カグラ:[同期で仲間だからね。当然よ]


ユキ :[うん、それじゃあ明日でいいかな?]


ココネ:[もちろんですよ]


カグラ:[分かったわ。それじゃあ、十時頃に集合でいいかしら?]


ユキ :[大丈夫。みんな、ありがとう]




 本当に優しい仲間を持つことができて僕は幸せだな。




◇◇◇

『《♯ユキ犬姫拾いました》雑談だよ。三期生の二人とお出かけしたよ《雪城ユキ/シロルーム三期生》』

1.2万人が待機中 20XX/07/09 20:00に公開予定

⤴729 ⤵0 ➦共有 ≡₊保存 …




 雑談枠をとった僕はいつもどおり段ボールに入ってるユキくん、ユキ犬姫バージョンを表示させていた。



[拾ってください]



 この言葉が書かれた段ボールは久々に使ったかもしれない。

 簡単に段ボールの文字も変えられる様になってきたので、その枠に合わせて色々と変えてきたのだが、やっぱりこの文字が一番落ち着く気がした。




【コメント】

:今日こそユキくんを拾って帰る!

:久々な気がする。その段ボール

:三期生の二人?

:ユイっちとココママじゃないか?

:カグラ様……

《天瀬ルル🔧:¥50,000 間に合った》

:今日もルルちゃんがいるw

《:5,000 ユキくん飼育費》




『わ、わふっ!? またルルがいる!? ほらっ、もう投げなくて良いよ。あと、飼育費はいらないよ。でも、ありがとうございます』




 開始前にスパチャに反応してしまう。

 でも、すぐに深呼吸をして気持ちを落ち着ける。




『こんわふー。みなさん、こんばんはー。雪城ユキです。今日もたくさん拾いに来てくれてありがとうございます』




【コメント】

:こんわふー

:わふー

:拾いに来たよー

《:¥500 こんわふー》

:わふー




『えとえと、今日はココママ、カグラさんの二人と一緒にお出かけしたよ。その……、色々とサプライズをしたくてね』




 珍しくいらずら子っぽく舌を出してみる。




『実はユイにいつもお世話になっているプレゼントを贈ろうとひっそり買いに行ったんだよね。内緒だよ』




【コメント】

:ユイちゃんもこの放送を見てるんじゃないのか?w

天瀬ルル🔧:ぼくもユキ先輩からプレゼント欲しいな

:ルルちゃんw




『あっ、えと……。そうだね、ユイが見てるかもしれないからプレゼントの中身についてはまだ話さないよ。今日はね、その買い物に行った話をしようかなって……。僕がどんなプレゼントを買えば良いか迷っていたときに二人が助言してくれたんだよ……』




 僕は今日、出かけた時のことを思い出しながら語っていく。




◇◇◇




「祐季くん、待った?」




 待ち合わせ時間の一時間前。

 僕は相変わらず一人で待っていると、すぐこよりがやってくる。




「待ってないよ。今来たところ」


「むしろ待つ気だったんだよね? 来るのが早すぎるよ。祐季くんは可愛いから遅れてくるくらいでちょうどいいんだよ! 前も草さんに襲われてたよね?」


「あれは別に襲われてたわけじゃないよ? それにさすがに遅れてくるのは悪いよ……。あと、僕はこうやってみんなを待ってる時間も好きなんだよ。こよりさんや瑠璃香さんとどんなところを見て回ろう……とか、ご飯は何食べよう……とか。それを考えてるだけで時間って過ぎていくよね。ってわふっ!?」




 突然こよりから抱きしめられる。




「祐季くんは相変わらずの可愛さだね。ギュッと抱きしめたくなるよ」


「抱きしめてる!! もう抱きしめてるから!!」




 必死に手足をバタつかせるけど、こよりから抜け出すことはできなかった。




「でも、出かけるのに今日もユキくんスタイルなんだね」


「あっ……」




 僕の今の格好はいつものワンピースとレギンスと犬耳パーカー。通称ユキくんスタイル。


 こよりからのプレゼントで、意外と落ち着くので家ではこの服装でいることが多かったのだが、最近はこのまま外に出ても違和感を覚えることが減ってきた。




「ぼ、僕は男なのに……」


「祐季くん、いい加減認めよう。祐季くんは可愛いんだよ。可愛いは正義だよ」


「うぅぅ……、そ、そんなことないよ。ぼ、僕だっていつかはみんなから頼られる様な……、ユージさんや真緒さんみたいな大人の男になるんだ……」


「祐季くんは私の妹になるんだよ」


「なれないよ!?」


「もう、二人してなに漫才をしてるの。こんな道の往来で……」




 僕とこよりのやりとりは瑠璃香がやってくるまで続いていた。




◇◇◇




「それで今日はユイの誕生日プレゼントを買うのよね?」




 瑠璃香が確認がてら聞いてくる。




「うん、そのつもりだよ」


「それならせっかくだし、ユイに来てもらって突然プレゼントを渡すのはどうかしら?」


「あっ、サプライズだね。うん、せっかくだしやろう」


「そうだね。一応彩芽ちゃんに来てもらう話だけしておくね。今日は配信はするの?」


「えっと、元々僕は配信枠を取ってて……」


「それならそのあとに来てもらう様に連絡するね。あとは担当さんに彩芽ちゃんの誕生日についての話をしておいて……。ケーキは流石に作る時間ないね。買っていこうか」


「ありがとう……。助かるよ……」


「それじゃあ、早速プレゼントを買いに行きましょうか。そのあとで一緒にご飯を食べて――」


「な、なんで当然のように手を繋いでくるのかな?」


「祐季くんが迷子にならない様にするためだよ」


「まぁ、祐季ならフラッとどこかに出かけていきそうだからね」


「そ、そんなことないよぉ……」




◇◇◇




『そんな感じでみんな一緒に出かけてきたんだよ。でも、僕はフラッと迷子になりそうだからって無理やり手を繋がせられたんだよ? 酷くないかな? 僕、そんなに子供に見えるかな?』




【コメント】

:見える

:むしろ手を繋いでおかないと怖い

:どこかでうずくまって泣いてそうw

天瀬ルル🔧:先輩が迷子になっても僕が探し出します!

:ルルちゃんの本心がダダ漏れw




『まぁ、そのあと、本当に迷子になって迷子センターに連れて行かれたんだけどね。犬耳フードのパーカーを着た小学生くらいの女の子が迷子になってます……、なんて放送されて凄く恥ずかしかったよ……』




 迷子センターではずっと俯いたまま、恥ずかしさを隠すために手はギュッと握って足の上に置いていた。

 きっと顔も真っ赤だったし、涙目だったかもしれない。



 そこの職員さんには何度も「大丈夫、すぐに親御さんが来てくれますよ」って、励まされたけど。




『本当に何で僕が大人だって説明しても聞いてくれないかな。もうお酒も飲めるんだよ……。まぁ、飲んだ次の日、頭が痛くなったから無理して飲まないけど……』




【コメント】

:w

:本当に迷子になってたw

:ユキくんらしいw

天瀬ルル🔧:ぼ、ぼくがその場にいたら拾って帰ったのに!

猫ノ瀬タマキ🔧:ダメにゃ。にゃーが連れて帰るのにゃ!

美空アカネ🔧:私が連れて帰るよ。私がユキくんのママだから

姫野オンプ🔧:ダメなのですよー。ユキくんとココネちゃんは私が保護するのですよー

:ユキくんの取り合いが勃発w

:ヒメノンがユキくん取り合いに参戦しましたw

:そういえば三期生の誰も顔を出してないな




『ちょっ、なんでみんなして僕が迷子になる前提なの!? あとみんなはちょっと別の用で来られないんだよ。だから今日は僕一人の配信だよ……。久々だと少し寂しいよね』




 特にシロルームの面々は暴走……、ううん、ちょっと個性的な人たちが多くて一緒にいると僕まで楽しくなってくる。

 そんな日が続いていると、いざ一人で配信すると寂しく感じてしまう。




『でも、来週からまたたくさんコラボがあるもんね。えっと、四期生こうはいさんたちが考えてくれてる全体コラボに、姫乃オンプ先輩とのコラボ……』




【コメント】

:全体コラボがあるのか

:こっちのひめ姫コラボはほのぼのしそう

:眠くなりそうだな

姫乃オンプ🔧:そんなことないのですよぉ。シューティングゲームでバチバチなのですよぉ




『シューティング、いいよね。僕も好きだよ。あんまり上手くはないけど……』




 ゲーム自体はそれなりにしてきたけど、どうにも反射神経を使うものは苦手だった。

 普段の運動神経も影響してるのだろうけど、どうしてもワンテンポズレてしまったり、隙をつかれて負けることが多かった。




【コメント】

姫乃オンプ🔧:大丈夫なのですよ。私が教えますのですよ

:不安しかないw

:結末が見えるw

:いや、姫を信じろ





『えとえと、他にはツララさんもコラボをするって言ってたな。あとは……動物園だった』





【コメント】

:動物園?

猫ノ瀬タマキ🔧:うにゃ、忘れたらダメなのにゃ!?

貴虎タイガ🔧:一撃で粉砕してやる

:犬vs虎の最弱決定戦w




『ぼ、僕は最弱じゃないからね!? きっと貴虎先輩も猫ノ瀬先輩も軽く倒して勝つからね』




 正直勝てる気はしないけど、ここは強く言っておく方が面白いよね?




『あっ、動物園だから他にも誘える人がいるね。やるゲームによっては別の人? 動物? も誘ってもいいかも』




【コメント】

天瀬ルル🔧:ピクッ

:いやいや、ルルちゃん、天使でしょw

狸川フウ🔧:もしかしてふうポコ?

:そっか、フウちゃんは狸だもんね

猫ノ瀬タマキ🔧:フウも参加決定にゃ!

貴虎タイガ🔧:狸もまとめて吹き飛ばす!

狸川フウ🔧:ふう、吹き飛ばされるポコか!?




『あっ……、フウちゃんも加わるということで僕、猫ノ瀬先輩、貴虎先輩、フウちゃんの四人でコラボします。タグは……令和遊び合戦ぽんぽことか?』




【コメント】

:ぽんぽこwwwwww

:ついにユキくんが自分のことをポンだと認めたw

:いや、ユキくんは常識枠だろ?w

:たまきんとタイガは間違いなくポン枠だw

狸川フウ🔧:あのあの、ふうでいいポコか?




『もちろん僕は賛成だよ? 断る理由はないし、フウちゃん、かわいいもんね』



 自然と可愛いといってしまうあたり、僕も随分とシロルームに染まってきたのかもしれない。

 ただ、口に出すまでは自然と出てくるのだが、言った後すぐに顔が赤く染まってしまう。




『わわっ、今のはその……。こ、後輩としてかわいいってことだからね。あのあの……、べ、別に他意はないからね……』




【コメント】

天瀬ルル🔧:むぅぅ……、フウの裏切り者……

狸川フウ🔧:!? ふ、ふうは裏切ってないポコ!?

:ルルちゃんwww

天瀬ルル🔧:ぼくもユキ先輩にかわいいって言われたいよ




『えっ? ルルももちろん僕のかわいい後輩だよ?』




 ルル相手なら別に照れることなくいうことができるので、普通に言う。




【コメント】

天瀬ルル🔧:えへへっ。ユキ先輩に愛してるって言われちゃいました

魔界エミリ🔧:ポコポコ……

狸川フウ🔧:エミリちゃん、それだとふうを呼んでるみたいポコ

:みんな暴走しすぎて草

猫ノ瀬タマキ🔧:にゃにゃにゃ、にゃーには言ってくれないのかにゃ




『も、もうこれ以上はその……配信時間的に厳しいかな。と、とりあえず今日はこのくらいで……。乙わふ――』




この放送は終了しました。


『《♯ユキ犬姫拾いました》雑談だよ。三期生の二人とお出かけしたよ《雪城ユキ/シロルーム三期生》』

4.1万人が視聴 0分前に配信済み

⤴1.2万 ⤵5 ➦共有 ≡₊保存 …


チャンネル名:Yuki Room.雪城ユキ

チャンネル登録者数28.5万人




◇◇◇




 僕の配信が終わるとこよりや瑠璃香がにっこりと微笑む。




「そろそろいいかな?」


「そうだね。もちろん準備はできてるよ」


「祐季が配信してる間にばっちりよ」


「うん、二人ともありがとう」


「祐季くんがいるって言ったらすぐに来てくれましたよ」


「早速中に入ってもらうわね」




 二人が結坂を呼びに行ってくれる。

 その間に僕はクラッカーの準備をする。そして――。




「うみゅ? ゆいはなんで呼ばれた――」




パンッ!!




 結坂が不思議そうに部屋に入ってきたタイミングでクラッカーを鳴らす。




「お誕生日おめでとー!」

「彩芽ちゃん、おめでとうー!」

「おめでとー!」


「う、うみゅ? こ、これはどういう――??」




 困惑する結坂に対して、僕が説明をしていく。




「ほらっ、ちょっと前が結坂の誕生日だったでしょ? だからお祝いしようと思ったんだよ」


「そ、そんなの良いって言ったのに……」


「僕たちがお祝いしたかったんだよ。少し遅れちゃったけどね」


「きっかけは祐季くんだったけどね」


「そうね。こうやって仲間でやっていくのだから当然よね」


「みんな……、うみゅ、ありがとうなの」




 結坂は嬉しそうに笑みを浮かべていた。

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