第6話:友達の友達は知り合い?

――うぅ……、やってしまった……。



 気を抜いていたわけじゃないけど、予想外だった。男だとバレてしまうと大炎上。

 それが怖くてカタッターとかも見ることができない。




「あっ、そうだ。スマホの通知音、つけておかないと。……あっ!?」




 音を消していたから気づかなかったが、既にいくつかのチャットが届いていた。


 記念配信のこともそうだったが、他にもいくつか来ている。




ココネ:[ユキくん、お疲れ様。今日もハラハラしたね]


ユイ :[ユキくんのパンツの色は黒]


カグラ:[まぁ、一人では頑張ってたんじゃないかしら?]


マネ :[あとからじっくり反省会をしましょうね]




「うぐっ……」




 今日もまた反省会が確定してしまったようだ。

 そのチャットを見て思わずうなだれてしまう。


 確かに自分の性別は特秘事項だ。

 ちょっとしたことでもバレないようにすることは必須だった。

 だからこそ、素直に頷く。




ユキ :[お、お手柔らかにお願いします……]




◇◇◇


【シロルーム3期生】雑談スレPart3【拾ってください】




22:名無しのシロ三期推し

 昨日の配信見たか? ユキくん男疑惑


23:名無しのシロ三期推し

>> 22

 何言ってるんだ? あんな可愛い声の子が男のはずないだろう?


24:名無しのシロ三期推し

 それは確かにな。むしろわざと疑惑になるようにした気もするな


25:名無しのシロ三期推し

>> 22

 普通にキャラ付けだろうな。


26:名無しのシロ三期推し

>> 23

>> 25

 そうだよな。確か三期性は女性限定の募集だったもんな。


27:名無しのシロ三期推し

 まず面接で落とされるやつ


28:名無しのシロ三期推し

 そういえばそうだったな


29:名無しのシロ三期推し

 みんなユキくんで盛り上がりすぎw


30:名無しのシロ三期推し

 それよりお前ら、来週はついにユキくんの初めてだぞ


31:名無しのシロ三期推し

>> 30

 言い方w


31:名無しのシロ三期推し

>>30

 www


32:名無しのシロ三期推し

 おいっ、お前ら。この時間にゲリラコラボが始まったぞ!!


33:名無しのシロ三期推し

>>32

 コラボ!? まだココユキのコラボしか決まってなかったんじゃないのか!?


34:名無しのシロ三期推し

>>32

 しかもタイトルが『戦争勃発』!? 一触即発の雰囲気じゃないか!? 


35:名無しのシロ三期推し

 見に行ってくる




◇◇◇




 二回目の配信でも説教を受けてしまったので、睡眠不足だった。

 まだ若くて徹夜もできる、とは言われるけど、そんなことはない。眠いものは眠いのだから。


 大学の講義中に机に頬を付けて眠っていた。


 しかし、さんさんと照りつけてくる太陽に向けて目を少し開けて呟く。




「日がまぶしい……。太陽、墜ちないかな……」


「何恐ろしいことを言ってるの?」




 ゆっくり見上げるといつの間にか隣には結坂ゆいさかがのぞき込むように見てきた。

 それに驚くほどの元気もなく、顔だけそちらを向ける。




「結坂さん……、ごめんね、僕、ちょっと眠たくて……」


「何かしてたの? あっ、もしかして動画かな? 新しく配信したの?」


「えっと、うん……。したことはしたんだけど……」


「そっか……、もしかして視聴者とかお気に入り登録者数が気になって寝られなかったのかな? 私もそんな経験あるなぁ……」


「あっ、えっと……」




――そういえば昨日の視聴者数は結局見ていなかった。配信前に既に数千人いたことだけはわかっているけど……。




「そ、そうだよね。う、うん、普通はそう……だよね?」




 むしろ僕としては一人でも少ない方がいい、と思っている。

 こんなことを担当の舞に言ってしまうとまたお説教が始まるので口には出さないけど。




「うんうん、わかるよ。私もそうだったもん。ずっと張り付いていて、全然伸びないなぁってカタッターで呟いたり……、あっ、そうだ。よかったら小幡くん、MINE交換しない?」


「えっと、僕その……入れてなくて……」


「あっ、それじゃあ今入れてよ。私、第一号になるから――」


「う、うん、わかったよ」




 結坂に急かされるがままMINEを入れる。

 そして、結坂に教えてもらいながら彼女の連絡先を入れると嬉しそうな笑みを浮かべてきた。




「やった、小幡くんの初めてをもらっちゃった」


「ちょ、ちょっと、言い方!?」


「あははっ、今流行の言い方だよね。それじゃあ今夜にでも連絡入れるよ。それより、私そろそろ帰るね。小幡くんはどうするの?」


「えっと、講義は?」


「もうとっくに終わってるよ。小幡くんが寝てる間にね」




 どうやら休憩だと思っていたが、すでに終わっていたようだった。




「それじゃあ僕も帰ろうかな」




 今日の配信もどうするか考えないとだもんね。




「確か小幡くんも駅の方向だよね? それなら途中まで一緒に帰ろ!」


「えっと、い、いいけど……」


「よーし、それじゃあ、ゴーゴー!」




 結坂に手を掴まれて大学を後にしていた。




◇◇◇




「小幡くんってこのあと、何するの? 私、駅前のカラオケ店で友達と会うんだけど、一緒にどうかな?」




 駅に向かっている途中で結坂が悪魔のような提案をしてくる。

 今でも一杯一杯になっているのに、結坂の友達が加わると話なんてできる自信がなかった。だからすぐに首を横に振っていた。




「そ、その……、ぼ、僕はこれから帰って配信の準備をしないとだし……」


「そっか……。残念だなぁ。その子もきっと小幡くんのことを気に入ると思ったのに……」




 本当に残念そうにする結坂。

 もっと押してこられると思ったので、ホッとため息を吐く。



 そして、カラオケ店の前にくる。

 そこには一人の女性がスマホを触りながら誰かを待っていた。

 長い癖がかった茶髪。僕よりも十センチ以上高くスタイルの良い女性だった。


 白のシャツワンピースとベージュのワイドパンツというお洒落な着こなしをしている女性でぼっちとしては近寄りがたい存在でもあった。


 どうやら、その女性が結坂の友達のようだった。




「待った?」


「ううん、今来たところ。それよりもそっちの子は?」


「同じ大学の友達。小幡くん、この人は大代おおしろこよりさん。私たちより一歳年上の大学三回生で、配信もしてる人なの。私もいろいろと教えてもらってるんだ」


「あっ……、そ、そうなんだ……」


「ねぇねぇ、小幡くんも一緒にコラボ配信、なんてどうかな?」




 結坂が笑みを見せながら言うが、大代は少し難色を示していた。




「ほらっ、今日はもうカタッターで予告してるでしょ? それに私の枠だから――」


「あっ、そっか……」


「ぼ、僕はか、帰りますね。よ、用事もあるから……」




 僕からすれば女性ゆいさかたちは眩い。

 直接視界に入れてしまっては目がやられてしまう。


 それから身を守るため、逃げるように去る。




「あっ、またね。小幡くん」


「う、うん、また……」




 軽くお辞儀だけして走っていった。




◇◆◇




 カラオケ部屋へと案内された後、結坂はドリンクバーでジュースを取ると、残念そうに言う。




「……逃げられちゃった」


「全く……相変わらずね、ユイ。いえ、今は彩芽あやめだったわね」


「うん、間違えたらダメだよ。こより」


「二人しかいないからつい……ね。でも、可愛い子だったね。配信してる子……なんだよね? 私は知らないけど」


「そうみたい。多分ユキくんを見て、配信しようと思ったんだろうね。わざわざユキくんのロゴを印刷したブックカバーを使ってるくらいだし」


「そっか……、でもそれなら尚更ダメでしょ。もし私たちがココネとユイってバレてしまうと騒ぎになってたよ」


「えーっ、きっとコラボしたら楽しいのに……」




 結坂は深く考えずに楽しそうかどうかで決めるところがある。

 今日も初めてのオフコラボをすると言うからこうやって待ち合わせたのに、友達連れで来ていたわけだから。




「でも、あの怯え方……。本当のユキくんってことはないよね?」


「あははっ、ないない。だって小幡くんは男の子だよ?」




 結坂があっさりと否定する。その言葉を聞いて、こよりは目を見開いて驚く。




「えっ!? う、嘘でしょ? どう見ても女の子だったよ? それも中学生か高校生くらいの……。女性ものの服とか似合いそうだし、着せ替えとかしてあげたいな……」


「むぅ……、もしかしてこより、私のことも中学生くらいに思ってない?」




 ジト目を向ける結坂に対して、こよりは乾いた笑みを浮かべていた。




「あ、あはははっ、な、なんのことかなー?」


「わかった、これはもう戦争だよ! そんなメロンを抱えてるママには負けないの!」




 結坂は胸を見比べて、こよりのことを涙目で睨む。




「カラオケの採点で勝負だね。負けないよ」


「私が勝ったらユキくんとの初コラボの座はいただくよ」




 ビシッと指を突きつける結坂。

 こよりはそれに動じることなく返事をする。




「歌で私に勝てると思ってるの? 返り討ちにしてあげるよ」


「歌唱力の違いが、採点の決定的差ではないことを教えてやるの!」




◇◆◇




 真心ここね@シロルーム三期生  @kokone_magokoro 5分前

16時から羊沢ユイちゃんとカラオケゲリラオフをはっじめーるよー❤️

#生マ #ココユイ


 @9  ↺74  ♡15




 電車に乗っている時にその呟きを発見した。


 どうやらココネとユイがコラボするようだった。それもオフ会で。



――あの二人ってそんなに仲が良かったんだ……。も、もしかして、そのうち僕もオフでコラボしろ……なんて言ってこないよね?



 少し嫌な予感はしたものの、今回は関係ないので二人の応援をしておく。




 雪城ユキ@シロルーム三期生 @yuki_yukishiro 今

返信先:@kokone_magokoro

わふー、2人ともがんばれー(・ω・)




 打ち間違えて、顔文字がすごく真顔だったが、これも僕らしい、と納得することにした。

 そのままスマホを消そうとすると僕のリプに更にリプがつく。




 羊沢ユイ@シロルーム三期生 @Yui_Hitsuzisawa 今

うにゅー、ユキくんも来る? 一緒にオフしようなの(੭ु˙꒳​˙)੭ु⁾⁾ばんばん


 雪城ユキ@シロルーム三期生 @yuki_yukishiro 今

ぼ、僕はまだ外で……。それにオフはちょっとムリ……


 真心ここね@シロルーム三期生  @kokone_magokoro 今

そこ、さりげなくユキくんの初めてを奪おうとしないでください。私のものですよ!


 羊沢ユイ@シロルーム三期生 @Yui_Hitsuzisawa 今

うみゅー、今日の賭けはそれなの。ユキくん、覚悟してなの。ゆいがユキくんの初めてをもらうの(੭ु˙꒳​˙)੭ु⁾⁾


 雪城ユキ@シロルーム三期生 @yuki_yukishiro 今

ちょ、ちょっと、言い方!? と、とにかく僕も見に行くから変なことはしないでね




 それだけ言うと家に帰ってすぐに部屋へと向かい、チャンネルへと飛んでいた。




◇◇◇

『《戦争勃発》ユキくんの初めて争奪カラオケゲリラオフ《真心ココネ/羊沢ユイ/シロルーム三期生》』

3,578人が待機中 20XX/05/07 16:00に公開予定

⤴174 ⤵2 ➦共有 ≡₊保存 …




【コメント】

:待機

:タイトルw

:不穏だねw

:w

:わくわく

:待機




――あっ、なんだ、カラオケか。もっと殺伐としたことをするのかと不安になったけど、案外平和的で良かった。




雪城ユキ🔧:ってなんで僕が景品になってるの!?

:景品いて草

:ユキくんだw

:ユキくんは参加しないの?

:あとカグラ様がいれば三期生全員集合か

:カグラ様は争奪しないの?

神宮寺カグラ🔧:私は奪い取る側よ。

:ユキくん争奪戦だw

雪城ユキ🔧:そ、それなら僕も勝負する側に……

:ユキくん参戦しましたw




 ついつい書き込んでしまったら、コメ欄で更に盛り上がりを見せてしまう。

 そして、その盛り上がりのまま配信がスタートされる。




ココネ:『ココフレのみんなー、ここにちはー。真心ココネですよー』




【コメント】

:ココママー

:ココママー

:ココママー

:ココママー

雪城ユキ🔧:ココママー

:ココママー

:ココママー




ココネ:『ママじゃないですよー。あと景品ユキくんも来てたんですね』




――なんだろう。すごく身の危険を感じたんだけど。




 思わず背筋が凍り付くような気がした。

 でも、それを気にすることなく、ココネは話を続ける。




ココネ:『では、今日のコラボ相手に来てもらいますね。白いもこもこの下には黒い闇が埋まってる。羊沢ユイちゃんですー』


ユイ :『うみゅ、うるさいの……』




 相変わらず眠そうな声を出しながらユイは登場する。

 ただ挨拶じゃなくて、迷惑そうにココネに対して言っていた。




【コメント】

:うみゅー

:うみゅー

:うみゅー

雪城ユキ🔧:ユイ、寝てた?




ユイ :『うみゅー、待っててなの、ユキくん。ゆいが魔の手から救って上げるの』


ココネ:『だ、誰が魔の手ですか!? で、では、今日の動画の説明をさせていただきます。今日はユイちゃんと二人でカラオケ店へ来ております』


ユイ :『うにゅ、うるさくて眠れないの』


ココネ:『ね、寝ないでください!?』




【コメント】

:相変わらずの天然w

:ココママの方がロリなのにw

:www

雪城ユキ🔧:このまま引き分けでコラボなしにならないかな?

:ユキくん草

:ユキくんが逃げようとしてるw




ココネ:『ゆ、ユキくんも逃げないでください! 十日のコラボはもう決まってますからね!?』


ユイ :『うみゅ、その前にゆいとのコラボを入れてやるの……』




【コメント】

雪城ユキ🔧:えっ、ユイが勝ったらコラボ増えるの? こ、ココママ頑張れ……

神宮寺カグラ🔧:私が代わりに奪おう

:ユキくん草

:カグラ様もw

:二人ともwww




ココネ:『ふふふっ、ユキくんの応援があったら私は負けませんよ』


ユイ :『うみゅー、裏切られたの……』

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