神代のルーン使い 第7話
↗
この宿――‘アトラの家’の101号室。
それは即ち、この宿の一階では最も中心に近かった。
外からドアで建物に入ると、ロビーと呼ぶべき場所と目の正面に二階に上がる階段が見えて、そして左側には泊まる部屋のある廊下が見える。
そこから一番近いのが101号室。それが今この怪しくローブを被った女とメイドの女が泊まる部屋で、グレイが今入った部屋だった。
この部屋を選んだのは奇遇というわけではないだろう。この女どもはそれを熟知してこの部屋を選んだはずだ。
この部屋に入った早々不意に思いついた事を、グレイは不思議だと思いつつ部屋の中になぜか置いてあるテーブルとイスに座っているローブを被った女に聞いた。
「まさかとは思うが、この宿のことはすでに調べた上できたのか。この宿内に泊まったのか。女将一家や俺を含めて」
「…ええ。この宿は‘彼女――シズク’が調べてくれた場所です」
……シズクというのはどうもあのメイドを指しているようだ。
そのシズク本人は何故かある紅茶のティーセットに紅茶を入れている。
グレイはここにテーブルが置いてある事や、いかにも高級に見えるティーセットがここにあるとかは別に気にしていなかった。
気になる点は、ローブを被った女がそのローブのポケットから何かを取り出したという点だっが「話し合いをする前に傷口を見せてください」と、女が取り出したのは持ち歩き易いように医療キットの箱だった。
「要らね」
即拒否した。
「ですが、シズクがあなたの背中を……」
「要らね」
二度目の拒否の後、グレイは背を向いて傷口を見せてローブを被った女と、メイド――シズクは驚愕する。
傷口のあった周囲に血は残ってたが、傷口は治っていた。
傷なんてなかった様に、まるで再生したかのようだ。
「治療魔術…? いいえ、そんなのあるはずが…治療した痕跡もないし…」
「貴様、人間じゃなかったのか!?」
ローブの女は困惑、シズクとかいうのはローブの女の前に出てクナイを構えた。
だがグレイは淡々と「人を吸血鬼扱いするな」と背を戻す。
この世界の魔術に治療魔術などない。だが魔物の中には人間と同じ見た目の物があるが、生まれからが人間とは違う生き物があるが、その代表的にして回復力が高いのが吸血鬼だ。
ただ、その吸血鬼が負った傷を再生させるにも条件がある。
「血なんか一滴も飲んでない」
吸血鬼は時人や動物、広くは他の魔物の血を吸うことで体の傷や失った臓器を復旧させる。二人の女は吸血鬼の特性を思い出して納得した。
しかし、だったらこの男は…? と、シズクはそう考えてその主たる女は「へえ…」と感嘆する。
「理由なんて知らねえが昔からこの程度の傷はすぐに治る」
それを答えたのは次のグレイの言葉だった。
それから「吸血鬼みたいに血なんか吸わなくても買ってにな」と付け加えて。ローブの女はシズクに武器を戻すようにと彼女の腕に手を乗せる。
シズクは頷いては武器を戻した。主の意図に気付いたように。
「それがあなたが私たちとは関わりたくないと言ったのと関係があるんですか?」
「…………」
返事はなかった。しかし、その沈黙が逆に返事となってくれた。
「わかりました。これ以上その点には触れません。シズク、下がってください」
「……承知いたしました」
シズクは警戒を解かさず、彼女の言葉に従った。
「お話しをしますので、こちらの席に…」
「このままでいい」
「……分かりました。」
彼女は少し、残念だと思いながら話しを始める。
↗
「自己紹介がまだでしたね。初めまして、私は『レナ』。 レナ=アンクルと申します」
「クレイ=ウォーカーだ」
『レナ』と彼女は自己紹介し、直後のタイミングでグレイが名乗る。「Eランク冒険者だ」と付け加えて。
そのせいで「……はい?」「なっ…!?」と、レナとシズクは驚愕した。
「……あなた程の実力でEですか? …あ、もしかして最近登録したばかりとかですか?」
冒険者ギルドのランクはEから始めて誰でもランクを上げるには二週間の間で依頼数を五つ満たせばすぐにも上げられる。
それに、冒険者は一週間に一度は依頼を受けなければならない規定があった。
そして魔物の退治やダンジョンに入る類の依頼を一度でもクリアすれば、直ぐにもランクは上がる。
それをグレイは「登録して6ヵ月くらいだ」と軽く否定した。
「…嘘をつく気ならもっとマシな嘘をついたらどうだ」
レナの横にいるシズクが口を上げる。
しかし、現実を見せるようにグレイは懐から一枚のカードを取り出した。
それはグレイの名前とEランクが書かれた冒険者と証明するカードだった。
レナが「…嘘」と言葉を漏らし、シズクは「なっ…!」と若干引いた。
「……」
グレイはただ黙っている。レナはハッとした。
「……何か理由がある様ですね。わかりました、触れないで置きます」
カードを懐に戻すグレイは「助かる」と答える。
「……それで、話しとはなんだ」
そろそろ本題に入って欲しい。
「わかりました。では早速ですが、あなたは6ヵ月前にこのオリオン町で最近起きている子供の行方不明にあっている事を知っていますか?」
「……なに?」
心底から驚愕するグレイ。つい目を大きく開いた。
そして少しの怒りを込めて。
「どういうことだ」
「……2か月前からです」
レナは話しを始める。
オリオン町ではなく、アルフレット王国内の町や村で子供が一人つつ消えていく事件。
それが2か月前から起きているのだと。
もちろん、このオリオン町でも。
↗
「最初に起きた子供の行方不明者は調査の情報によると王国の辺境の村でした」
レナは話しを続ける。
最初の事件は当時には子供の家庭がよくなかったこともあり、子供の家出だと断定されていた。
でも行方不明事件はさらに起きる。
それはスラムの身寄りのない子を含めて、家と家族がある子も、家族と一緒に町に訪れた子も。
問題はこれと同じ行方不明事件が起きたのが別の町や村からでもあり、さらには大抵の行方不明が起きた事実が伏せられた事。
家族による行方不明は騎士団や領主に通報されて受付られても、その調査は進行されていなかった。
↗
「そこまででいい」
と、少し話しをした途中でグレイが手を挙げて止めた。
「どうかしましたか?」
「大抵理解した。つまり、その情報を伏せていたのもそれを起こしていたのも多数の権力が強い貴族や王族が関わっていたからだろ」
領主も、騎士団も、そしていくつかの町にある自警団もバカではない。
それに、多数の事件が起きてそれが伏せられていたらそれはもう誰かの手によるもので確定だ。
「ええ……その通りです。さすがにわかりますか」
「情報が統制されていたならな」
グレイの知力に簡単しながら「ですが、話しはまだ続きます」とレナの話しは続いた。
「あなたの言う通りにこの一件の裏にあるのは権力の高い貴族――侯爵数人と王族の一人です」
グレイは両腕を組んで話しを聞く。
「主犯格はその王族と侯爵たちですが、実行犯たちはその者たちが雇ったならず者の冒険者と闇ギルドの犯罪者たちだったんです」
ということは、あのリックって連中は今間では動かなかったってことか。
それとならず者の冒険者たちと闇ギルドってことは。
「…なるほど、見えてきた」
「あなたは見た目に寄らずかなり頭が切れてますね」
「つまり、あんたや他の連中が勘違いして動いたせいで急に荒れてしまったってことだろ」
「
あの台詞共々あの笑顔を引っ張ってやりたい。
つまりは、この女――いや、他の悪者どもを捕らえる側で、犯人を実行犯という闇ギルドの仕業だと断定し、それが大々的に捕獲作戦を行ったことで真の首謀者である王族や貴族どもをさらに大きく動かせたってことだ。
「なるほど、話しは分かった。で、あんたはいま直接命を狙われてるから偽名まで使ってここまで見を守りに来たっと」
グレイの言葉の途中、偽名って言葉が出て真っ先にシズクが動いた。
警戒態勢を。
「お嬢様、はやりこの男は…!」
「いいえ、それは違います」
レナはシズクを手で止める。
「そもそも彼が敵側だったのなら、暗部の者たちを迎え撃ちなんてしなかったはずでしょ?」
「……」
レナの言葉に対してシズクは言い換えもできず、警戒を解いた。
グレイの方はレナの行動に飽きれながら「だが、わからない部分もある」と言い出した。
「……結局、なんで俺にそんな話しをする。俺になんの目的がある」
「端的に言ってしまえば、
と、レナは椅子から起きて手のひらを伸ばしてくる。
「暗部を相手に一人で一人も殺さず全員を打倒するその戦いぶり。お見事でした。それに加えてその切れる頭脳――ぜひ私の側近に欲しいです」
「……」
グレイは言葉を発さず、代わりにため息をつく。
「どうか、私を守ってはくれませんか?」
レナは夜の明かり――月の光が照らすには華やかな笑顔でグレイを誘う。
「断る」
と、その誘いを躊躇なくも蹴ったのであった。
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