神代のルーン使い 第2話
ギルド金庫からお金を出したグレイが今いるところは近くの小さなレストランだった。
中は狭くカウンター座席は三人しか座れないものの二人用のテーブルが二つしかない小さな店だ。
そのカウンター座席の一つにグレイだけが座っていて大きく開いた紙を見ている。
席の横には半分だけ残った皿が置いてあったものの彼はもう食事を取っていなかった。
食事はこれで十分だと言っている様にずっと紙を見ている。
でも食事はまずかった訳ではない。
グレイ自身起きた時の吐き気がしたかった程の気色悪さも感じずにいる。
心が安らいでいる証拠だった。
そのグレイがずっと見ている紙には色んな所にチェック印の上にX印が多かった。
ただ一カ所だけチェック印だけのもある。
だがそこもたった今X印が上書きされる。
「……」
だんまりと紙を見ているだけのグレイだが、X印を書いてはため息を吐いた。
その紙の正体は……この冒険者の町と周辺の地図である。
「……やはり、この国を出て行くか」
と、呟いた。
考えを終えたグレイは地図を荷物袋に詰めてから食事代のお金50
レストランを出た直後になって隠れて待っていた三人の男のリーダーっぽい者に「おい」と声を掛けられる。
「……」
視線すら向かず逆の方向に歩く。
何故自分に声を掛けたのかを知っていた。
……一応掛けとくか。
「おい! 臆病野郎! こっちを向け!」
男が近づいてグレイの肩が捕まれそうになる直前、飛び出す。
「あの野郎!追え!」
「角に曲がったぞ!」
男一人が言った通り、グレイは角の右に曲がって男たちは後を追う。しかし。
「…ああ?!」
いない。
グレイの影すら見えなく、見えるのは距離の道と建物、そして道を歩く数人の住民と冒険者しかいない。
「…臆病野郎がどこに逃げていった」
「足の早え奴だな」
「なあ、あの野郎が大量の金持ってるってあってるよな?」
「ああ! ギルドから金袋大量に詰めて出たって見たやつがいるって」
「チっ! 今度こそ腹立つ面潰してからカモにしようとしたがよ」
……だと思った。
と、予想していた言葉をそのまま吐いては不良たちは戻って行った。
グレイはそれを3階建物の上から見下ろしていた。
どうせそんな事だったんだろうと顔色一つ変える事なくそのまま建物の上を歩きだした。
あと、掛けて置いたルーンも解く。
グレイが掛けて置いたルーンは『輪廻のルーン』。
あの不良どもがグレイをずっと追うつもりだったのなら、ルーンの効果でグレイが解かない限りは同じ道を離れることなく繰り返してたはずだが、追うつもりがないならグレイもまたそんな事をする理由もない。
あの建物から離れて他人の見えない建物の三階からその高さを一気に飛び降りる。
飛び降りてはため息をついて「くらだねえ…」と小さくつぶやいて歩き出す。
目的のある歩みではない。
目的はなかった。
ここでの目的など、とうに済ましたから。
やることもないのに街中を歩く理由すらもないその姿がそれこそ変える所のない一匹の狼だった。
誰とも寄り添えない汚く、自分以外の誰もかもが敵であるかのような一匹の狼。
しかし、グレイは狼などではない。
人だった。
人であるから鬼ごっごで遊んでる子供たちがグレイの横を過ぎる。
「俺、大きくなったら冒険者になるんだ! かっこいいしな!」
「なんだよそれ! 俺は騎士になる! 冒険者よりかっこいいぞ!」
「……僕、魔術師」
「……」「……」「……」
友達同士で夢を語り合いながら走りだす子供たちをグレイはつい振り向いた。
子供たちはまた角を曲がって、グレイの視線から消える。
それを見て「ふっ」と苦笑いしてはまた歩く。
どうせ自分には来ることない人生だ。
それより、どうかあの子たちが……俺みたいにはなりませんように……。
→
この街にはいつも元気活発した冒険者たちが多い。それに比例チンピラどもも活発しているのも問題だが。
だからなのか、グレイはこの町で自分が毎日世話になっている中心街の外にある宿以外に誰もいないか気楽にいられる場所を知らない。
違った。気楽にいられる場所があったのかわからなかった。
こうして目の前に誰一人もいない広場を見るまでは。
辺りの建物は誰もくらさない建物ばかりでまるで廃墟のように完膚なきまで破壊されたのもある。
こんな有様をみるとグレイはそろそろここが所謂『被害地域』と呼ばれている場所だと分かってきた。
冒険者町内の北東の方に位置する『被害地域』が、そう呼ばれるようになったのは6カ月前に町内にいる冒険者たち全員に緊急招集をかけられた事件と関係があって、ここはその時の被害によって建物や場所は使い物にならなくなり住めなくなったから『被害地域』となってここに住んでいた人々が町の外や別に区域に引っ越した。
そしてグレイはここには来たくはなかった。
人々がいなくなるだけ逆に人々が寄ってくる場合が多いからだ。
主にお金がなくて家もない人々か、訳あって仕事ができなくなった元冒険者たち。
……そして孤児たち。
つまりはそういった何も持ってないものたちが集まる場所。ハーレム街になってしまうのが常だ。
しかし、今ここに着いたグレイの目の前には……誰もいない。
何故か……、と一瞬は思ってたけど「ま、いっか」と軽く流した。
ここに人がいるだろうが、いないだろうがどうでもよかった。
居たらいたで振り返って戻ればいい。誰もいないんならいないで気が楽なだけだ。
グレイは広場の真ん中にある涸れた噴水前にある共用椅子に座る。
さっきからずっと歩いてたからなのか、自分にもわからない疲れを感じて休みたかった。
……休むか。
俺は一体いつになったら休められるのだろうか。
こんな事をいつまで続けて楽になれるんだろうか。
確かにいい加減疲れた。
もう何もかも投げ捨てたいくらいに。
…………………………
妙に静かだ。
でも緊張をさせるような気配の漂う静けさじゃない。
……昔におやじが安心させてくれてやっと寝れたそんな夜のような安心感のある雰囲気だった。
……ま、本当にそんな事はもう二度と来ないだろうが。
でも、こんな静けさは気に入る……。
↘
↓
↙
←
いつの間にか閉じた目を開いて見たらなっていた。
周囲には一瞬どこかと思ってしまっていたが明るい時にみた被害地域の夜の姿だった。
夜になったから空の色も、ここの周囲の色も黒く見えてただけだった。
「……寝ちまったのか、俺が…?」
目を何度か閉じて開いてから寝る前の記憶がどんどん蘇る。
久しぶりに感じた心地よさのおかげか、悪夢を見ずに楽に眠れたのは珍しい。
偶にこんなところに来るのも悪くはないなと思えたくらいだ。
だが直後、グレイは困惑する。
時間はわからないがつい分遅くなった時間だというのは確かにわかる。
でもそんな事よりもグレイが困惑したのは他にある。
宿の部屋を取るのも、自分の荷物袋から誰かが近づいて手を付けてないかというのも、周囲の警戒をせず迂闊にいたのでも、なんでもなかった。
困惑したのはグレイが椅子から起きようとした時。
起きようとしたのは当然だが、その時になってようやく気付いた一つの特異点があったからだ。
そう。特異点といった方が正しいかも知れない。
この場所に眠る前にはたかったのが目の前にいる、いや…横にか。
グレイが座った共用椅子は人二人がちょうど座れるだけのスペースになってて、グレイが片方に座って眠っていたから寝る前には当然横に誰もいなかった。
でなければグレイはここに居ようともしなかったから。
だが今は違う。
グレイが寝座った椅子と同じ椅子の横にいた。
グレイの灰色銀髪と違ってずっと白金色と言える綺麗な銀髪、その銀髪に合わせたように真っ白でレース付きのドレス、人形とも思わせるその寝顔。
歳はちょうど10歳くらいなのだろうか、そんな女の子が椅子をベッドにしてグレイの横で寝ていた。
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