神代のルーン使い プロローグ2 とある朝の話し合い


『オリオン町』――別名『冒険者の町』と呼ばれているこの町の中心にはこの町の象徴のように冒険者ギルドが建てられてある。

『冒険者の町』という名を象徴するかのように、2、3階の建物にかないこの町で唯一に5階建てで、この町にあるどの建物よりも大きい。それはこの国の王都にあるギルドの建物よりも大きい。

そんな冒険者の町のギルドでも、この世界にはまだ24時間営業という概念がまだないのだ。それはこのギルドも同じである。

だから、グレイ=ウォーカーが起きて再びベッドの上に倒れたこの早朝の時にも営業などしてはいない。

しかし、どういう訳なのか。

この日の冒険者ギルドの一階のロビーに一人の男がテーブルに椅子をかけていた。職員というには私服の姿で両腕には入れ墨のようなものが刻まれていて、そしてその手には一枚の紙が持たれていた。

そしてその紙に書かれてある内容を何度も読んでみても、「はあ…」と、ため息をついてしまう程に男の顔はよくはならない。

「こりゃ……厄介なことになるんだろうな……」

「あら、私の前でそんな事口にしていいんですか?」

男がため息をついた直後にギルドの奥の方から聞こえてきた声の方に顔を向くと、そこには全身をローブで隠した誰かがいた。

顔の部分にはマスクを着けて両手も手袋で完全に包んである。

どんなによくしてみても不審者にしか見えないし、ロビーのドアではなく中から現れたという点でみても泥棒や強盗と思われるだろう。

誰もいないところで、男が不審者と待ち合わせ……この状況はまるで犯罪者が不審者と出会うという状況に似ていたが、男は立ち上がって礼儀正しく頭を下げて挨拶する。

「ようこそ、いらっしゃいませ。お待ちしておりました」

完全に目の前にいるを自分より上の存在として接していた。

「やめてください、おじさまに敬語で言われるとむしがかゆいです」

彼女はこの場所に来て早々回りを見て誰もいない事を確認した後、男に向けて提案する。

「それより席を移しましょう。これからの内容はかなり状況が複雑ですから……」

「わかりました。私の部屋のギルドマスター部屋……と言いたいところですが、そろそろ朝日が昇ります。地下で大丈夫ですか?」

「はい。大丈夫です。お願いします」

彼女はまるで誰かに追われているかのように事の進行を急いでいる感じがする。

男は窓の外を気を付けて彼女を案内する。

ギルドの秘密通路の一つが地下へいく門であり、階段があったり普通のドアがついているわけではなく、ロビーの受付カウンターの奥には普通の木の床になっている様に見えるが、人が通れるだけの入り口を塞いで魔術で隠している。入口を開ける方法はもちろん魔術でだ。

男は木材の床が少しずれている部分を見つけ、それに人差し指を付ける。と、浮かび上がった9つの光の点がその上に浮いた。

その点の一つに人差し指でつけて他の点へと移動すると点と点の間に線が出来て、同じく6つ目の点で止まると、点も線も消えて床の入口を塞ぐドアが勝手に床から浮いた。

これがギルドの地下へと続くドアの開け方である。

「はい、どうぞ」

男から先にと言われて「はい」と答える彼女はそのまま入口から地下へ下りる。

丁度大人の男性が立っても大丈夫なくらいの天井だった。

彼女が先に降りて続けて男の方も一口から地下へ下りた。

二人が下りると、浮かんでいたこの入口のドアがさっきと同じように入口を閉める。

二人が一緒に入る事でドアが占められて地下は完全に暗くて何も見えなくなる……と思っていれば、ドアが閉まったら通路内の電灯(?)のような明かりが灯った。

「こちらです。どうぞ」

と、男は一本道の狭い道の中を案内しながら「はい」と答える彼女より先に進む。

「あ、それとそのローブとマスクは外してください。ここなら追ってとかに気を使わなくてもいいし、被ってると暑苦しくて汗まみれになります」

「追っての心配がないのでしたら、幸いですね」

そう言いながら彼女はローブのフードを取り、顔のマスクを外して素顔を見せた。

まるで輝く星空を連想させる綺麗な黒くて青い髪に白金色の瞳の女の子。

この国のどの人物を探しても、こんな目を持つ人物は彼女の兄弟や親せきにも見当たらない、彼女だけが持つ特徴でもあった。

そしてそんなに歩かずとも、すぐに話し合える部屋はあった。

入口から少し歩いたところの左壁にまたも部屋があった。

中には上のロビーにあったテーブルとイスが置いてある。

まさに秘密にされた、秘密を話し合える、秘密の部屋だ。

部屋の椅子に腰かけてようやく落ち着いていられた彼女は口を開けた。

「それにしても折角の秘密ルートで来たのに、普通はギルドのロビーではなくこの部屋のような誰にも覗き聞き出来ないような場所に呼ぶのではないのですか? 叔父様?」

元々普段でも敬語を使っていたのか、先に自分に向けて頭を下げる男にも敬語で話しをする。

礼儀正しくて、さらに神秘的な特徴を持つのに基本の表情が笑みの顔である彼女はもう見てるだけで可愛いと思わせる。

「おじさまはやめてください。まだまだ28の青年のお兄さんなんですから」

「あら? 私が知る青年さんは娘の自慢話しを誰にも聞かせる立派なおじさんですけど?」

男は「ふっ、もちろん」とむしろ笑いながら誇らし気に語る。

「うちの娘は今年でもう3歳なのに、相変わらずこの世の天使だからね!」

「はいはい、わかりましたよ。ガイル叔父様」

完全に娘自慢モードになったガイルは今ので「すみません、ご無礼を働きました」と頭を下げて謝罪する。

「いいえいいえ、それだけお子さんが愛おしいという事は元気によく育っているということですから。……私もいつか結婚して子を生せば、叔父様と一緒に親バカになっちゃうかも知れませんね」

「国のお宝、セレナ王女さまが結婚を考えるのはまだ早いと思いますが……」

「仕方ありません。私にも『アルフレッド王国の王位継承者』という立場がありますから。でも…」

彼女はギルドのロビーを見つめて、「私には愛する人ができても身勝手に結婚は出来ないでしょうけど…」と、少し寂し気に苦笑を浮かぶ。

「……」

その言葉に対してガイルは何一つ出来なければ、してあげられる言葉も持たない。

立場の難しさというのは、たとえ目の前の女の子より12年も生きている男にとっても大変な難題なのだ。

それは、彼女をこんなやり方で呼び出すにも関わっている。

セレナは表情を普段の笑みから真剣な表情へと変えて、先にローブの中に仕込んであった巻きにしておいた紙を取り出して話しを始めた。

「叔父様、今回こうして秘密裏に話し合える場所を持ち掛けてくれて、ありがとうございます。早速ですが話しを始めたいと思います。まずはこれを読んでみてください」

セレナがガイルに見せたその紙はいわば報告書だった。

「この村は……この町よりずっと北の……、確か地図で見たらアルフレッド王国よく北にある山脈近くの村ですね」

その村に名称は無く、一応アルフレッド王国の所有地とされているものの本当に小さな村である故に税金も必要最低限の分しか取らない所だ。

そして最低限しか取らないもう一つの理由は――この村が国の国境線にあるという事。

「この村がどうかしたのですか?」

「まず、として――この村から子供が数名行方不明になっています」

「…!」

国のどの町や村よりも国境線に一番近い村から人が……それも子供が消えたという事はかなり敏感になってくる。

ただの盗賊の可能性も考えられるが、山脈の奥から魔物が出たという可能性もある。

しかし、最悪なのは他国からの不法侵入や工作員。

「私の情報院が調べている今のところでは他国からの手先は確認されていませせん。それに原因としても魔物が理由と思われています」

すでに大分調査済みであるセレナの資料をガイルが読みあげて長年ギルドマスターをやっている彼の考えからも、確かにその通りであると思った。

しかし、

「で、というのはどういう事ですか?」

……。

セレナはすぐに答える事はせずまずはローブの奥に隠していたもう一枚の紙を取り出してガイルに渡す。

「…………はあ」

それを読み上げると、ガイルは頭を抱えてため息が出た。

「確かに……これは『表向き』には公表できないですね」

「はい……。ですから、この表向きの内容の方を冒険者ギルドに依頼する形として解決を依頼しようと思います」

「そして事が済んだ後に調査員を派遣して魔物の駆除と原因の調べをという事ですね」

「運が悪くて原因を突き詰めなくとも、大丈夫です。魔物の出現も十分に脅威ですから」

「わかりました。では、この依頼の方の資料は今日中に掲示版に貼ってすぐに冒険者が出発できるようにして、こっちの資料は秘密記録室に保管しておきます」

「ありがとうございます。叔父様。大変助かりました」

感謝の念を持って、全面的に協力してくれるガイルに頭を下げて感謝するセレナ。

そんなセレナをみて「やめてください。セレナ王女様」と困った顔をする。

「あなたは事実上、次期国王様なんです。そう軽々しく誰かに頭を下げてはいけません」

「ですが……これは、私の身内の関係していることですから……」

「だから、私も精いっぱい協力いたします」

ガイルは資料を懐に隠し、ギルドに上がって事の準備を進めたいと思っている。

しかし……。

「セレナ様はこれからどうするおつもりですか?」

「私はしばらく、この町に滞在しようと思います」

セレナは堂々と、ガイルに言う。「私のもう一つの目的のためにです」と伝えた。



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