第16話 VS DQN
とりあえず俺は佐有さんと共に重朝たちと合流を果たすために『動物ふれあい広場』を目指し歩き始めた。先程LI●Eで連絡を取ったところ、二人はイノシシの襲撃から難なく逃れ、今は一足先に『動物ふれあい広場』にいるとのことだ。急がないと乃恵のやつにどやされかねないので速足で先を急ぐことにした。
「乃恵ちゃんたちも無事でよかった」
佐有さんがスマホを見つめながらホッと息を吐く。それに俺は適当な返事を返す。
俺は今佐有さんと二人きりという滅多にないチャンスが巡ってきていた。あと数分もしたら重朝たちと合流するだろうし、その後もずっと班行動だ。それなら先日の件のことを謝るとしたら今しかないだろう。忌々しいイノシシだったが、こればかりは感謝した。
しかしいざ話すとなるとどう話すべきだろうか。碌に考えもせずに口を開くと、またこの間のように大変な失言をしかねない。
俺が考えあぐねていると向こう側から人がやってきた。見知らぬ制服の四人組。別の学校の生徒だ。まさか、うちの学校以外にもこの農業公園に遠足に来ている高校があるとは驚きだ。こんな何もないとこに来るのはうちの学校だけかと思っていた。
あの特徴的な若草色のブレザーは確かヤンキー高校で有名な椎原(しいはら)学園の制服だ。着崩した制服、時代錯誤の腰パン。脱色した髪に無数にあけられたピアス。一見しただけでもわかるテンプレのDQN。
こういうテンプレってホントに実在したんだなと逆に感心してしまう。目を付けられでもしたら厄介だとあからさまでない程度に目を逸らし、そそくさとその場を立ち去ろうとする。しかし一番前にいた金髪で耳にピアスをいっぱいつけた目つきの悪い男がオイと声をかけてきた。
「なんか見たことある奴だと思ったら、匹田じゃん。相変わらずぶっさいくな顔してるなー」
いきなり声をかけてきたと思ったら佐有さんを罵倒しだした。いったい何なんだ? 名前を知っていることから知り合いようだけれど、同じ中学の奴だろうか? 佐有さんが不細工だなんてこいつの目は腐っているのか?
「かっちゃん、こいつ誰? 知り合い?」
「めっちゃ可愛い子じゃーん、紹介しろよ!」
モブCお前のセンスはいいぞ。佐有さんは最高に可愛いよな! だがやらしい目で見るのは許さん。
佐有さんはそんなDQNどもに目をくれることもなく先へと進む。しかしイキりまくっているDQNが一度目を付けたターゲットをみすみす逃す訳もなく、当然の如くぎゃあぎゃあ騒ぎだした。
「おー、お得意の無視かよ。あ、そっか、耳腐ってんだったよな。わりぃわりぃ」
ギャハハと下品に笑うDQN。俺の中で何かがキレた。
「おい!」
へらへら笑っていたDQNたちが俺を一斉に見る。普段ならここでビビって謝っているところだけれど今はそんなこと気にもならなかった。怒りで頭が沸騰している。こいつが今言った一言を撤回させなければ気が済まない。
「佐有さんに謝れ!」
「あぁん?」
「か、印牧君!」
金髪DQNが睨みを利かせながらこちらに近づいてきた。佐有さんは宥めるように俺の名を呼ぶ。佐有さんには悪いけど、今はそんなことは構っていられない。俺は今猛烈に怒っているのだ。
「聞こえなかったのならもう一回言ってやる! 佐有さんに謝れ!」
勇ましく啖呵を切ってみたものの大声に慣れていない俺の声は無残にも少し震えた。ビビっているのを悟られないよう目に力を入れきっと相手を睨みつける。しかし金髪DQNはハッと鼻で笑う。勿論相手がそんなことで引かないことは百も承知だ。
「なんだこいつお前の彼氏か? ブスの王子さまはやっぱりぶっさいくなんだな。お似合いだなあ」
ゲラゲラと品のない耳障りな笑い方。イライラする。きっとこいつみたいのが佐有さんの自尊心を傷つけてきたのだ。何も知らない、知ろうとしないやつに佐有さんをそこまで言われる筋合いはない。俺のことは何言われても構わない。けれど佐有さんのことは悪く言う奴は許せない。
「佐有さんの事、何も知ろうともしなかったくせに勝手に決めつけて馬鹿にするな!」
こんな大声を出したのは久々だった。そもそも人を怒鳴りつけるなんとことをしたことがない。俺は怒鳴られるのは嫌いだ。だから俺も怒鳴ったりしない。でも今だけはどうしても怒鳴らずにはいられなかった。こいつだけは許せないと思ったのだ。
「ごちゃごちゃうっせーんだよ!」
ゴっという鈍い音が耳に響いた。脳みそが揺さぶられるような衝撃を受ける。左頬が熱い。そこでようやく俺は殴られたことに気が付いた。痛みで体中の力が抜ける。そのまま地面に倒れそうになるがとっさに足に力を入れ何とか踏ん踏ん張る。眼鏡がずれていたのでかけなおす。曲がっていたらどうしようなんて、場違いの心配がよぎった。
唐突に強引に後ろから腕を引かれ、そのまま後ずさる。何だと思い見やると、佐有さんが俺の腕を引いていた。その顔はひどく焦っている。そんな表情をさせている犯人が俺であることに申し訳なさでいっぱいになり、俺は佐有さんに引かれるままにその場から離脱した。
「おい、待てよ! 逃げんのかよナイト様!」
金髪DQNが俺を挑発する声が聞こえるが、今はそんなことなどどうでもよかった。
「おい、かっちゃん! やめろって、他校のセンコーにバレたら面倒だって」
「そんなん構ってないでそろそろ行こうぜー」
「っチ」
追ってくるかと思ったが、仲間たちに止められ金髪DQNは忌々しそうに舌打ちしただけで追ってくることはなかった。心底ほっとした。追いかけてこられても、反撃する力も逃げる体力もなかった。
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