第4話 ボウリングへ行こう
「まーたボウリング? 一昨日行ったばっかりじゃーん」
月曜の朝一、俺は匹田さんとボウリングに行くためのメンバーに重朝と沖田を誘っていた。友達が少ない俺はこの二人しか誘える人いない。
「そう言わずにお願いしますよ、沖田様!」
眉間に皺寄せ、思いっきり顔に嫌ですと書いてある沖田に手を合わせ拝む。男子だけだと匹田さんに行きにくいだろうからどうしても沖田には来てほしいのだ。匹田さんには女子も呼ぶと言ってしまったしな。
「それにしてもどうしてまたボウリングなんだ? 忠世はまったのか?」
「あー、それがさぁ……」
一昨日のバス停での出来事をかいつまんで二人に説明した。するとただでさえ不機嫌だった沖田の表情がますます不機嫌になった。
「それってようは匹田さんのわがままじゃん! 行きたいなら土曜日に一緒に行けばよかっただけじゃない。なんで私がそんなのに付き合わなきゃいけないの。絶対嫌だから!」
勢いのまま立ち上がると沖田は教室から出て行った。もう少ししたら先生来るぞ。まあ、確かに沖田は匹田さんに苦手だって言っていたし仕方ないか……。
「次の日曜日なら俺は平気だぞ」
「しげとーもー! 我が友よー!」
重朝のさわやかな笑顔に思わず惚れそうになる。いやいや、俺には匹田さんが……。流石モテる男は違うと改めて痛感してしまう。
女子は誘えなかったが、それでもいいかと匹田さんに聞かなければ。ちらりと、窓際の一番後ろの匹田さんの席を振り向く。しかし、そこには誰もいない。鞄はあるので来てはいるようだ。トイレにでも行っているのかもしれない。とりあえずLI●Eでも送っておくか。
LI●Eアプリを手早く用件を打ち込むと送信を押す。丁度その時、匹田さんが前のドアから教室に入って来た。
「匹田さん、おはよう。今メール送ったから」
手をあげながら声をかける。彼女はこちらに気が付くと、笑顔になった。あ、かわいい。
「マキマキ―! 今ホームルームで服装検査やるってD組の子が言ってたー! こっちもやんのかなぁ? どうしよ、私今日ネイルしちゃったんだけど!」
先ほど出て行ったと思った沖田が、タックルを決めながら抱き着いてきた。引っ付くな、当たるだろ! 何がとは言わないけど。
「お前、今出て行ったばっかりだろ!」
「それどころじゃないんだって! せっかくキレイに塗れたのに落としたくない~」
キレイに紫に塗られた爪を見せられる。校則で禁止されてんのになんでわざわざ塗るのかね。俺にはよくわからない。
「あ、ごめん匹田さん!」
ヤバイ、話の途中で匹田さんを放置してしまっていた。慌てて俺は匹田さんに視線をやる。が、先ほどまで匹田さんがいた場所には誰もいなかった。
教室の後ろを振り返れば、匹田さんはすでに席についていた。LI●Eを確認すると、既読はまだついていなかった。
◆
さて来ました、匹田さんとボウリング当日! 天気は快晴、ボウリング日和! ……って室内だから関係ないけどね。今日が待ち遠しくてたまらなかった。昨夜なんて興奮しすぎて、ほとんど寝れていない。油断しているとあくびが次々と出る。
あの後LIN●Eで男だけでも大丈夫だと匹田さんにOKを貰った。男二人に女子一人だし、夜遅くなったら困るだろうと午前中から集まることにした。
まだ朝早いためか駅を訪れる人はあまり多くはない。部活に向かう学生と休日出勤の社会人がほとんどだ。待ち合わせの場所である駅前にある鶏の像の前に行くと、予想をしていない人物がそこにはいた。
「沖田―? なんでお前がここにいるんだ?」
鶏の前に佇んでいたのはモデル顔負けの美少女――沖田乃恵。ちょっと大人びた黒のキャミソールの上にだぼっとした白のパーカーを羽織り、細身の黒ジーンズを合わせてカジュアルに決まっている。さらにおしゃれなデザインのグレーのキャップを被ることでスポーティー要素も加わる。足なっげーな何キロメートあるんだよ。こんな逸材田舎県に置いといてもいいのですか?
しかしやつには今回の件は断られたためにメンバーに入れていなし、ましてや待ち合わせ場所も時間も伝えていない。別件の待ち合わせが偶然被ったか? まあ、例のハチ公ほど定番ではないにしろ、駅前での待ち合わせで鶏の像を指定する人はそこそこにいる。被ってもおかしくはないか……? 今は俺たち以外人はいないけれど。
「マキマキー、おっそいぞー」
これ違うな、待ち合わせ相手やっぱり俺だわ……。
「なんでお前いるんだよ。いかないっていっただろ?」
「行かないとは言ってないよぉ。嫌だとは言ったけどー」
屁理屈を言うな屁理屈を。どう考えても同意義だろそれ。しかしへらり笑っている沖田には何を言っても意味はないだろう。あいつの考えることは俺にはいまいちわからない。俺は諦め深くため息を吐く。
「来たものは仕方ない。それにしても、待ち合わせの場所と時間は誰に聞いた? 重朝か?」
「そー、シュットに私も行きたいって言ったら快く教えてくれたよー」
まあ、俺じゃなければ重朝しかいない。沖田が苦手な匹田さんと連絡先交換しているとも思えないしな。
しかし、沖田がいても大丈夫か? 重い空気になったりしないか? いや、最初に沖田を誘おうとしていた俺が言うのもなんだけどさ。まあ、沖田はリア充ならではの空気の読み方もうまいし大丈夫じゃないかな、と漠然と思う。
「印牧君!」
数メートル先から手を振りながら駆けてくる。匹田さんだ。スカートだった先日とは打って変わり、今日はボウリングをするためかキュロットスカートだ。スポーティーさの中に可愛さも備わっておりとても匹田さんに似合っている。何着ても最高に可愛い、マジ天使。
「あ、沖田さん……」
「なになにー、私がいて匹田さんはゴフマンかな?」
おいやめろ沖田、そんな底意地が悪いこと言うな。
「ううん、そんなことないよ。印牧君から女子は私一人って聞いてたから、びっくりしただけ。むしろ嬉しい」
そう言えってにこりと微笑む沖田さん。今背景に大輪の花が咲きました。今日も機嫌良いんですね! サイコ―。
一方の沖田はというと、俺と違い匹田さんの笑顔を見るのは初めてのようで彼女の顔を見て固まっている。こんなにも可愛いのだから無理もない。同性でも見惚れる可愛さだよな、これは。
「なんか今日の匹田さん、いつもと雰囲気違うねー。そっちの方がいいよ、可愛い」
「え? そ、そうかな……」
匹田さんは照れて真っ赤になっちゃってる。可愛い。
「もう全員来てんじゃん、早いな皆」
そんな幸せ空間を壊す男登場。百合に挟まる男は殺す。俺? 俺は壁です。誓って手は出しませんとも。
「重朝、お前一番遅かったんだからなんか奢れ」
間男――もとい重朝は自然と二人の間に入り楽しそうに会話してやがる。俺はそうはさせまいと会話に割って入る。
「ええー、遅刻はしてないだろ?」
「いいね! 私タピオカー」
「沖田まで乗るな!」
そんなこんなでぎゃあぎゃあ騒ぎながら俺たちは駅から歩いて十分のボウリング場へと向かった。
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