第17話で、誰?
「『固有魔術』。詳細については授業でやると思いますけど、簡単に言えば属性魔法を優に超える超魔術です。僕達人間にとってはかなり貴重な魔術ですけど、同時に魔法師であれば誰でも習得出来る可能性はある物です。ちなみに、僕の『固有魔術』は"瞬間移動"、その名の通り違う場所へ一瞬で移動できるという物です。皆に見せたのは他でもありません、君達の目に直接『固有魔術』とはなんなのかを見せたかったからです。百聞は一見にしかずって言いますしね。今の光景をヒントに君達新入生の誰かが『固有魔術』を習得する事を願っています。では、これで挨拶を終えましょうかね」
《パチパチパチパチパチパチ》
レグリアが挨拶を終えるのと同時に拍手が起こった。
ふう、これで入学式は終わりかな。いや〜長かった。いや、まあ、長くはなかったんだけど気分的にね。
たしかこれからはそれぞれのクラスでこの学園についての軽い説明だったな。
それからしばらくして、俺は自分のクラスである一年Fクラスの教室に着いた。この学園は六年制で一学年六クラスある。それに加え研究所や模擬戦場など様々な施設があるため異様に広い。そのため、前回同様やっぱりちょっと迷った。
まあ、俺でも迷ったぐらいだし本格的に迷った奴絶対いるだろ。
そんな事は置いといて、俺の華やかな学園生活が始まるんだ! 期待で胸がいっぱいだよ。よし、最初はやっぱ元気よく行かないとな。
そう思いながら俺は教室の引き戸を掴み、勢いよく開ける。
「失礼します! 今日から皆と同じクラスの竜胆夏です! よろしく頼みます!」
「「「「………………………………」」」」
クラスメイトの反応を見た俺はゆっくり引き戸を閉める。
あれ、思ってた反応と違ぇ。俺の予想だとここは皆も元気よく返してくれてお互いに自己紹介とか冗談とかしあって楽しく行くはずだったのに。皆無言じゃん。なんで? 一緒に青春について語り合おうよ。冗談を言い合おうよ。ん? 冗談? …………ハッ!
なるほど。さっきの挨拶は冗談が入ってなかった。だから皆返事をしてくれなかったのか。きっとあれだな、挨拶と同時にギャグを言うのが絶対なんだ。そうに違いない!
これはきっと皆がそれぞれすぐに友達が出来るように作られたルールだな。
たしかに最初は皆緊張してしまう。ギャグで場を和ませようという事か。それならお見舞いしてやるぞ。笑いの権化たる俺の、とっておきのギャグをな!
「たのも〜! 拙者竜胆夏右衛門で御座る! ここに美少女はおらんかね〜! おったら是非とも拙者のお供をお願いしたいのだが!」
「「「「………………………………」」」」
俺はゆっくり引き戸を閉める。
あれ、なんかさっきとは違う種類の沈黙が流れてたんだけど。皆こっちを見て唖然としてたんだけど。えっ、なんで!
そんなに俺のギャグが凄すぎたのか? しまった、俺のギャグが高度すぎて皆ついて来れなかったのか。くそっ、もっと笑えるような一般的なギャグにするべきだった。
「なあ、何やってんの?」
一人で考え込んでいると、横から声がかかった。ふと横を見てみると、そこには青髪の結構チャラそうな、俺と同い年っぽい少年が立っていた。
「いや、それが元気よく挨拶したら皆にシカトされちゃって」
「シカト?」
そう言い少年は引き戸を開け教室の中を覗き見る。
「ああ、あれは違えよ。みんな落ち込んでんだ」
「落ち込む? 何に?」
「そりゃ自分がFクラスっていう事実にだろ。ここにいる奴等は全員入学当初から劣等生っていう烙印を押されるんだ。そりゃ落ち込むだろ」
「あれ、でも成績が上がれば上のクラスに行けるって聞いたことあるけど」
「ああ、上がれるぜ、成績が上がったらな。ただFクラスってのはありとあらゆる面で学園から見放されてるんだ。例えば教師で言えば、毎年新人教師かロクでもない教師ばかりがFクラスの担任や教科担当になるんだ。
次に施設、Fクラスは数ある施設の中でもまったく手入れされてない劣悪な施設を使わされるんだよ。他にもまだまだあるぜ。そんな環境で上のクラスに上がれると思うか?」
「…………いや、まったく」
「だろ? Fクラスに入るってのはつまりそういう事だよ。ここは入るだけでこの先の学園生活が終わったようなもんだ。そりゃ落ち込むさ。まあ、お前は落ち込んで無いみたいだけどな。え〜と…………お前、名前は?」
「ああ、俺は竜胆夏だ。よろしく」
そう言い俺は握手のため右手を伸ばす。
「そうか、俺はソウ・アルクだ。よろしくなナツ」
「落ち込むって言ってたけどソウはあんまり落ち込んで無いみたいだな」
「そりゃまあ、俺はなんていうか……Fクラスの理由がな……」
あれ、なんか歯切れが悪いな。
「なんかあったのか?」
「いや、なんかあったって言うか、なにかがあるんだけどな。まあ、訳ありって事だ! あまり気にすんな!」
本人がそう言うなら仕方ないか。あまり詮索はしないでおこう。
「よし、分かった。じゃあ話す気になったら話してくれよ?」
「ああ、もちろんだ」
「失礼する! そこをどいてもらえはしないだろうか!」
俺とソウが笑い合っていると、後ろから大きな声が聞こえてきた。ふと、後ろを振り返るとそこには大きな男が立っていた。筋肉が制服の上から分かるほど発達しており、顔は若いが、体幹が明らかに俺らと同世代の物では無い。
Fクラスに用があるって事は教師なのか?
「な、な、お前は! ドリアド・ドドンガじゃねえか!」
「本当じゃん! ドリアド・ドドンガじゃん! …………で、誰?」
「知らねえなら乗るなよ!」
ソウからお叱りを受けてしまった。
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