第18話アホが二人も出てきちゃったよ

「おや、俺を知っているのか?」


 ドリアドが疑問に思ったように聞く。


「あったりまえだろうが! お前を知らない奴なんて俺らの学年にいねえよ! …………ナツ以外な!」


 あっ、よかった。俺の事忘れてなかった。だって俺この人知らねえもん。


「なあソウ、ドリアドって有名なのか?」


 そう俺が聞くと、ソウは興奮気味に答える。


「ああ、そうだ! ナツ、流石に『栄光の世代』は知ってるなっ?」


「そりゃもちろん。常識だろ」


 ついこの間まで知らなかったけど。


「ドリアドは『栄光の世代』に次ぐと言われてる程の実力者なんだ! 得意魔法は雷魔法で"雷桜"なんて呼ばれてる! ハッキリ言うが雷魔法に関しては『栄光の世代』のブライス・クルヌスに次いで二番目だ! そんくらいすごいんだよ!」


「……えっ、じゃあなんでFクラスに来てんだ?」


「それは……た、たしかに…………」


 向かい合って話をしていた俺達はゆっくりとドリアドの方を向く。


「ん? ああ。いや、つい筆記試験で0点を取ってしまってな。それがかなり足を引っ張ってFクラスになったというわけだ」


「「えっ、0点? あのテストで?」」


「うむ、魔素量試験で160点、実技試験で80点取ったのだが、どうやら筆記で0点を取ってしまったらしくてな。合計240点でFクラスというわけだ」


 えっ、マジで? あの筆記で0点? もしかしなくてもこいつアホだろ。


「ははっ、昔から座学はどうもダメでな! ついつい0点を取ってしまったのだ! 父上や母上も笑っておられたよ!」


 いや、笑ってる場合じゃないぞドリアドの父さんと母さん。あの常識問題ばかりの簡単な試験で0点なんて逆に取る方が難しいくらいだろ。そのせいであんたらの息子さんFクラスに入るはめになったんだぞ。ちょっとは息子さんの頭の出来に危機感を持て。


「ふふっ、あの筆記試験で0点とはドリアド氏もまだまだですね」


 俺とソウがドリアドの話に唖然としていると横から、壁に寄りかかりながら腕を組んでいる眼鏡で七三分けの少年が話しかけてきた。


「なっ、お前は!」


 その少年を見たソウはまたしても驚いた反応を見せる。


 えっ、なに、このいかにもガリ勉な感じの彼も有名な人なの? この勉強しか出来なさそうなヒョロヒョロの奴が!?


「………………だ、誰だ?」


 で、ですよね。流石にこいつは有名じゃないよな、もしかしたら頭が異常にいいって事で有名な奴なのかもとか思ったけどただの一般人でした。


 これからは出来れば分かりにくい反応はやめて欲しい。


「ふっ、はじめましてソウ氏。それがしの名前はメクル・スズクでございます。そちらのナツ氏もよろしく頼みます」


 そう言いメクルは手を差し伸べ握手を求めてくる。


「ああ、よろし「ちょっと待てソウ」


 その手をソウが握ろうとするが、俺はそれを止めた。


「どうしたんだナツ?」


「なあメクル、俺ら初対面だよな?」


「ええ、そうですよ」


「じゃあ、なんで俺とソウの名前を知ってんだ? 初対面で俺らの名前がわかるはずないだろ」


「なっ、たしかに!」


 ソウはまだよく分からないけど少なくとも俺の名前は世間一般にはまったく知られてないはずだ。俺の名前を知ってるのはどう考えてもおかしい。


「おや、某とした所がやらかしてしまいましたね…………しょうがない、では真相をお伝えしましょう。某が貴方方の名前を知っていた理由、それはですね…………」


《ゴクッ》


 これから語られるであろう衝撃の真実に俺とソウは緊張のあまり唾を飲む。


「某があそこの物陰で、ずっと話しかける機会を伺っていたからであります! そこで会話を最初から聞いていたため貴方方の名前を知っていたのであります。それでさっきやっとの思いで話しかけられて某とても嬉しいのであります!」


「「………………………………」」


「そうか! それでは勇気を出して話しかけられたわけだな! そいつはよかったなメクル!」


「はい、ありがとうございますドリアド氏! 某、普通に話しかけられて正直感激であります!」


 ああ、なるほど。完全な思い過ごしだ。こいつただの人見知りだ。ビックリした。


 ほら見ろ、ソウなんか驚きすぎて口を大きく開けて完全にアホ面になってるぞ。


「ふ、ふぅ。一旦落ち着け俺」


 あっ、ソウの顔が戻った。


「なあ、メクル。お前のその『某』って一人称は元からそういう喋り方なのか?」


 ソウが話題を変えるように聞く。まあでも、たしかにそこは気になるな。今時『某』なんて一人称珍しいなんてもんじゃないぞ。


「ん? ああ、違いますよソウ氏。某のこれはただのキャラ付けです。こうすれば友達が出来るかと思いまして」


 ……キャラ付けかよ。でも理由が純粋すぎてツッコめねぇ。なんだよ友達を作るためって、そんな悲しい事言うなよ……


「そういえばメクルよ! お前はは先程私の筆記試験の点数がまだまだと言っていたがお前は何点だったのだ?」


「おや、某の点数ですか……いいでしょう、お教えします。私の点数はなんと!」


《ゴクリ》


 いや、ゴクリじゃねえよドリアド。あの点数で0点取ったお前が異常なだけで普通は100点取れる内容なんだぞ。今緊張してんのお前だけだぞ。


 それとメクルもなに盛り上げてんだよ。分かりきってんだからそこまで盛り上げなくていいだろ。


「25点でございます!」


 ああ、お前もアホか。


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