五十七日目『王と神』

 アリアンヌは悲しい顔で剣を握り、魔王へと飛び込んだ。魔王は土を隆起させて壁を造る。だが土の壁は木っ端微塵に斬り刻まれ、剣が腕を斬り飛ばした。

 魔王は咄嗟に距離をとり、爆炎を放った。爆煙が周囲へ立ち込め、アリアンヌは見えない。だがしかし、煙の中からアリアンヌは飛び出した。


「やはりこの程度では死なないよな」

「お前こそ、この程度で終わるなよ」


 魔王は腕を再生させ、闇で剣を創り出した。その剣でアリアンヌの剣を受け止める。


「落ちろ。雷」


 アリアンヌがそう唱えると、天から雷が落ち、魔王へと直撃した。だが魔王は一瞬でアリアンヌの背後へと移動した。


「待っていたよ。その時を」


 アリアンヌは振り返り、剣を振るった。まるで完全に読んでいたかのような動きに、魔王は避けることはできなかった。魔王の体は真っ二つに斬られ、魔王は驚きのあまり声も出なかった。


「お前は相手の隙を見つけた瞬間、必ず背後に回り込む。お前はそれがクセになっている。だからこそ、この一撃は確実にお前を斬ることができた」

「最初から読んでいたか……」


 魔王は消失する。

 アリアンヌは地上へと降りると、魔王樹の方を見た。


「マオ」


 アリアンヌは魔王樹の中へと入っていく。リーフィアたちの侵入を拒み続けてきた魔王樹であったが、アリアンヌはすんなりと魔王樹の中へと入っていった。

 魔王樹の中には、巨大な実の中にマオが囚われていた。


「マオ。私の剣が断ち斬るものは命だけじゃない。輪廻転生、それすらも断ち斬れる。だからマオ、最期くらいは笑ってくれ。きっと君とはもう会えなくなってしまう。けれど、この選択を避けることはできないから。斬れ、あなたに訪れし悲しき人生を」


 アリアンヌはマオの心臓へと剣を突き刺した。

 その瞬間、閃光が周囲へと駆け抜け、目映いまでの光が世界を覆った。


 アリアンヌとマオは、流れる光の中で二人きりになった。


「ここは!?」


 マオは目を凝らし、知らない世界に見入っていた。


「マオ。ここは私たち二人の記憶の中だよ」

「記憶の中?」

「私たちはさ、何千年も前から一緒にいたんだよ。私は天界から降りて、最初に君と出会った。その時から出会いは始まっていたんだと思う」


 そう言いながら、アリアンヌは流れる記憶を微笑ましそうに見つめていた。それはマオも同じで、懐かしいような思いで胸が一杯になっていた。


「なあマオ。お前と初めて出会った時は、あまり良い関係ではなかったな」

「そうでしたね。僕が魔王であり、世界を破壊しようと暴走していた時、あなたは真っ先に僕を止めてくれました」

「懐かしいな。もう遥か昔のことだがな」

「はい。あの日から、僕は君を意識するようになっていました。何か君に特別な感情を抱いていたんです。居間まで感じたことのなかった温かさを、優しさを、愛情を」


 マオは思い出を楽しそうに話している。アリアンヌは嬉しくなり、頬を赤らめて笑みをこぼしていた。


「マオはさ、昔から自分の力の制御ができていなかったんだよ。だから何度も暴走しては、世界から魔王と恐れられていた。でもある日、私は死んでしまった。だから天神の座をムーンへ譲り、私はただのか弱い女の子として、生まれ変わった」

「そこでも君と僕は出会った。僕にとっての英雄は、君だったんだよ」

「何度も別れ、出会いを繰り返しては、私は君に恋をした」

「僕も同じさ。何度も何度も別れる度、君を好きになっていた」


 マオとアリアンヌは顔を見合った。


「ねえマオ。また会えるかな?」

「輪廻転生。それを与えられた者は必ず生まれ変わる。だが今、その輪廻は断ち斬った。この先の世界はどうなるか分からない。けれど、きっと君にまた会える。そう確信しているよ。ムーンアイ」


 光は弾け、アリアンヌは気づけば天界にいた。

 マオの行方は分からない。けれど、魔王のいなくなった世界できっと彼にまた会えると信じている。だから彼女はその世界で生きることを決意した。

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