第六章

五十一日目『輪廻転生者』

 魔王は死んだ。

 リーフィアの握るその剣によって。

 魔王は闇となってあらゆる方向へと飛散した。そして消えた。


「倒したのか……?」


 リーフィアは緊迫した戦いから解放され、剣を手離して尻もちをついた。そこへラファエルはリーフィアが落とした剣を握り、リーフィアの首を跳ねようとする。

 リーフィアは咄嗟のことに動けず、斬られるーー寸前でロンギヌスは槍でラファエルの握る剣を弾き飛ばした。


「邪魔をするな」


 ラファエルはロンギヌスへと拳を振るうも、ロンギヌスは槍で腕を弾き、刃をラファエルの首もとへ向けた。


「なあラファエル。話してもらうぞ。お前が隠している全てを。今ここで」


 ロンギヌスの脅迫に、ラファエルは笑み一つ返して言った。


「僕はね、その権利がない」

「権利?どういうことだ?」

「つまりは、僕の後ろには何百年も前から罪の鎖を背負い、生き続けている天使がいる。僕はただ、そんな彼女を殺したいだけ。いいや、違うな。は死にたいだけだ。輪廻転生という永劫の生から解放されたい。ただそう願っているだけだ」


 ラファエルは高らかに宣言すると、一人の天使がロンギヌスへと拳を振るう。ロンギヌスは距離をとるが、その隙にラファエルは立ち上がった。


「アイスエル。よくやった」


 ラファエルの隣には、アイスエルが正気を取り戻しているにも関わらずそこにいた。


「なるほど。アイスエルはもとからお前の仲間か」

「正解だ」

「ならお前を殺すだけだ」


 ロンギヌスはラファエルの心臓へと槍を突き刺したーーが、


「言ったろ。僕たちは死にたいのだと。だが死ねないんだよ。僕たちは死ぬことができない。先代の天神、ムーンがかけた呪いを解かない限り、僕たちは死ねないんだ」


 ラファエルは少し悲しそうにしながらも、血を吐きながら言った。

 ロンギヌスは槍で何度もラファエルの体を切断するも、ラファエルが死ぬことはない。


「死にたいな。早く死にたいよ。呪いが解けていないということはさ、きっと先代の天神、ムーンはどこかで生きている。なあ、僕はいつ死ねる?」


 ラファエルは涙をこぼしながら、天に両手を掲げた。


「ああ。輪廻転生を仕組まれた我々は、どうすれば死ねるのだろうか?誰か、僕を殺してくれ」


 いつの間にか、ラファエルの背後には他にも数名の天使がいた。恐らく彼らも輪廻転生に閉じ込められた天使なのだろう。


「ロンギヌス。君には僕を殺せない」


 と、その時、玉座に座っていたノヴァは意識を取り戻した。


「ノヴァ!」


 リンネは走ってノヴァのもとへと駆け寄った。ノヴァは混濁した記憶に頭を痛ませつつも、周囲を見渡して記憶を一部思い出していた。


「なるほど……そうか……。なあリンネ、どうして天使がこんなにもいる?」

「彼らは魔王とともに世界を滅ぼそうとしています。恐らくですか、それはかつての天神、ムーンという者を殺すためでしょう」

「そうか。それは鬱陶しいな」


 ノヴァは立ち上がり、ラファエルの前へと立った。


「ようやくお目覚めか?この国の王よ」


 挑発するラファエルの発言を無視し、ノヴァは言った。


「そういえばにはこんなことが書かれていたな。一人の天使は魔王を封印するため、巨大な樹となったと。そしてその天使とは……」

「アイスエル。行くぞ。目標は魔王樹の森だ」


 ラファエルたちは羽を広げ、魔王樹の森を目指して飛んでいった。


「リーフィア先生。事情は大体把握しています。ですので、ついてきてください。に書かれていることが本当ならば、きっと世界は……一つの大きなの為に壊れた、と言っても過言ではない」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る