十三日目・弐ノ刻『勇者対天使』

 ぶつかり合う勇者と天使。

 それぞれの思いが交錯する中で、火花は散らされていた。


「勇者ロンギヌスはまだ来ないのか?」

「駄目です。彼が来るまでにはまだ五時間はかかるかと」


 勇者たちは圧されていた。

 数では勝っていた勇者であったが、彼ら対策に天使たちは多くのことを学び、そして多くの修行を受けてきた。


「ムーンアイ様。今我々が、救いに行きます」


 天神様を率いる多くの天使は、既に勇者を追い込んでいた。


 ーールナ王国王宮付近のルナ森林にて

 勇者グレンと天使サソリエルが戦っていた。


「『火炎放射フレイムバースト』」


 グレンが振るう剣からは深紅の火炎が放たれた。だがそれを空を游ぐようにして飛ぶサソリエルは華麗に避け、グレンの頭上へと位置する。


「くらえ。『天の水アマ・ミズ』」


 水が鉄砲のような威力で放たれ、グレンの体には数ヶ所かすり傷ができていた。

 劣勢のグレンへ、サソリエルは顔面へと蹴りを入れた。鈍い音が響き、グレンは地面へと転がった。


「くそ……。相性が悪い……」

「当たり前だ。この戦いは全て、天神様が相性や身体能力などを考慮し、計算しているものだ。その圧倒的差を、埋めることができるかい?」


 サソリエルは転がるグレンへと手を突き刺すような形で構えた。


「何をする気だ?」

「当然、お前の心臓をえぐり出す」


 手はグレンの心臓へと突き刺された。


「他の皆は大丈夫かな」


 ーールナ王国王宮裏の池にて

 勇者カンブルと天使アイスエルが戦っていた。


「まさか相手が女とはな」


 勇者カンブルは拳を構えつつ、天使アイスエルへとそう言った。


「私からしてみれば、弱い奴は男も女も変わらないのだがな。まさか性別だけで君は全てを判断しているのかい?」

「まあ一つ言えることは、お前じゃ俺には勝てないってことだけだ」


 カンブルは余裕の笑みでアイスエルへと拳を振るう。カンブルが一撃一撃拳を振るうと、空気が振動して空を駆け抜ける。初見だったアイスエルは想像以上の速さに驚いたのか、一撃を羽に受けてしまった。右の羽が機能しない中で、アイスエルは王宮の屋根へと着地した。


「案外天使は脆いのだな。ここで終わらせてやる」


 カンブルは拳を振るった。が、なぜか空気は振動しなかった。


「何が!?」

「当然だ。既にお前の拳は凍らせている。それにだ、私の氷は空気をも凍らすことができるのだよ。そんな私に、何ゆえ空気の振動で倒すなどと、馬鹿馬鹿しい」


 アイスエルは苦言を吐きつつカンブルへと歩み寄ると、カンブルの体は少しずつであるが凍っていく。


「う、動けない……」

「これで終わりさね。勇者カンブル」


 カンブルの体は深い氷の中へと閉ざされ、彼は静かに眠っていく。


「これまでですか……」

「予想以上に速く終わったな。羽を休めたらすぐに向かうか」


 ーールナ王国王宮前にて

 勇者インディア率いる勇者と天神が率いる天使がぶつかり合っていた。


「マーエル隊はキューエルを援護しろ」

「ビスカ、お前は今の内に右翼の敵を沈めておけ」


 幾度の戦略が交わされる中で、勇者と天使は疲弊しつつも戦っていた。


「勇者め。なかなかしぶといな」


 苦戦している天神のもとへ、アイスエルとサソリエルが戻ってきた。


「「天神様」」

「いいところへ戻ってきた」

「やはり勇者は強いですね」


 アイスエルは戦場を見て呟いた。


「ああ。確かにこのままでは我々は劣勢だ。だから一点突破することにした」

「ですが王宮内にも恐らく勇者はいます。挟み撃ちにされれば」

「大丈夫だ。策はある」


 アイスエルとサソリエルは息を飲む。そして決断する。


「解りました」

「受けてたちましょう」


 二人の天使は羽を広げ、いざ王宮の扉を目指す。

 天神が光の速度で扉へと突撃した瞬間、アイスエルとサソリエルもその後を追って駆け抜ける。


「まさか……エリトリア。今すぐ奴らを止めろ」


 扉のすぐ近くにいた勇者へとインディアは呼び掛けた。だが、天神がその勇者へと触れた瞬間、エリトリアは弾けるようにして上半身が消し飛んだ。


「くそ……。突破される」


 天神は扉へと触れた。

 ーーその瞬間であった。


「まあ待て」


 紅蓮の槍が天神の右腕へと突き刺さった。

 天神は恐る恐る振り返った。そこには、黄金の鎧に身を包んだ女が一人立っていた。


「まさか……」

「嘘だろ!?遠く離れた王国へと遠征に行っていたのに……」

「「「「ロンギヌス!」」」」


 驚くのも当然。

 ロンギヌスはここから十時間分で到着する場所へと遠征に行っていた。そんな彼がここへと来るには、敏捷力強化の魔法を使っても五時間は最低でもかかる。というのにたったの数分。しかもまるでこの状況を読んでいたかのように。


「後は私に任しとけ。この程度の相手ならば、一分あれば十分だ」

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