十三日目・壱ノ刻『勇者対天使』

「天使よ。よく聞け。今日この日、勇者機関を撃つための戦力が集まった。今日の十二時、その時こそ勇者機関を破壊する好機である」


 いつになく興奮した声が、勇者たちの脳内へと響き渡っている。


「我々は今ここで勝利し、世界を救い、そしてムーンアイをも救う。皆、覚悟はできているか。戦いこそ、正義である」


 心臓が高鳴る天使たち。

 現在勇者機関にいる勇者は、総勢七名。

 サリエル、ルリエル、ラファエル、ピエロ、タスキエル、ドーベルマン、ジャッカル。

 彼らは勇者であるが、その内全員が天使ではない。

 天使はサリエル、ルリエル、ラファエル、タスキエルの四名のみ。対して他の三名は普通の勇者である。そんな彼らをどうするか、サリエルたちは悩んでいた。


「恐らく、天神様は大軍を率いてここに攻めてくる。もしそうなったとすれば、ピエロたちは天使たちを迎え撃つ。そうなった場合、私たちはどうすべきか?」

「もし私たちがピエロたちを攻撃した場合、私たちが裏切り者だと認定される。それはなんとしても避けたい」


 二人の気持ちを汲んでか、サリエルは勇者仲間とは戦わないための作戦を考える。


「ならば、あらかじめピエロたちを訓練所に集め、そこで見張っていれば良いのではないか?」

「いや。恐らく天神様たちが戦っている音ですぐバレる」


 ルリエルの提案はやむなくデメリットを見つけられる。


「うーん。だったら私とサリエルが戦っている音って言えばいいんじゃない?その間はずっとタスキエルに見張ってもらえばいいじゃん」


 ルリエルの案に、サリエルとタスキエルは明るい表情を浮かべる。


「それだ。でもラファエルはどうするのかな?そういえば探しても見つからなかったし……」

「タスキエル。とりあえず今はピエロやドーベルマンたちを訓練所に集めよう」

「ああ」


 十一時十分。

 訓練所に集められた勇者たち。

 ラファエルを除き、そこには全ての勇者が揃っていた。


「なあサリエル。いきなりどうしたんだ?」

「私たちはもっと強くならなくてはいけない。だからこそ、私たちは今日皆で修行するのです」

「でも今日は昼間は寝ていようと思ったんだが……」


 寝癖を立てて言うドーベルマンへ近づき、サリエルは槍を向ける。


「私に一撃でも与えてみろ。さすればすぐに帰してやる」

「上等だ」


 ドーベルマンは腰に差していたサーベルを抜いた。その剣をフェイシングのように構え、サリエルへと剣を突き刺す。だが当然、サリエルは素人であるドーベルマンの剣を華麗にかわす。

 それに見かねたのか、横から一人の少年が割り込んでサリエルの腹へと拳を入れる。


「『風飛び』」


 サリエルは風を吹かして体を浮かせ、その少年の拳をかわした。

 サリエルはその少年を見た。


「当然、俺もいいよな」

「やる気か?ジャッカル」

「ああ。一目見た時からお前とは戦いたいとは思っていた。その願いが今ここでかなうとはな」


 ジャッカルとドーベルマンの攻撃をかわしつつ、サリエルは槍で二人に攻撃をする。

 棒の部分で二人を弾き飛ばし、圧倒的力を見せつける。

 それでも諦めが悪いのか、二人は攻撃を仕掛け続ける。


「なかなかやるな」


 そうこうしている間に、既に十一時五十分。


「サリエル」


 サリエルは壁に壁にかけられた時計を見、その瞬間に襲いかかってきた二人を槍の棒部分での一撃で軽々と気絶させた。


「あとはピエロだけか」

「安心しろ。俺がこの訓練所から出ることはない」

「そうか。話が早くて助かる。だが念のためタスキエル、見張っていてくれ」

「了解です」


 タスキエルはハンマーを取り出し、肩に担いでピエロの前に立った。


「速く行きなよ。天使さん」


 皮肉染みた発言に少し殺意をわき上がるも、堪えて訓練所の外へと出た。

 サリエル、ルリエルの二名は勇者寮へと戻ろうとすると、その道中でリーフィアを目にした。


(まずい……!)


「先生。どこへ行くんですか?」

「ああ。実は誰もいなくて心配でな、今訓練所を探そうと思ったんだ」

「そ、そうなんですね」


 おぼろげな返事を返すサリエルに、リーフィアは違和感を感じた。


「体調でも悪いのか?」

「いえいえ。特に異常はありません。それよりも、訓練所には誰もいませんよ。さっきまで私たちが使っていましたし」

「そうか。でも一応見に行くよ。ちゃんと整備とかしたいしな」


 サリエルは冷や汗を流す。


「先生……」


(頼む天神様。速く……速く来てください)


 その頃地上では、天使が下界へと降りるという珍しい光景が複数目撃されていた。それも一人や二人ではなく、百を越える天使が下界へ降りるという光景。

 その光景を目にした者は、口々にこう言った。


「神の裁きが始まるぞ」と。


 そんな天使たちの行く手には、ルナ王国が位置していた。

 ルナ王国頭上にて、天使たちは止まる。


「これより、侵攻を開始する。進めぇぇぇえ」


 天使の集団は、一斉に王宮へと羽を進める。

 だが、突如火炎が空を泳いで現れ、そして天使たちを次々と飲み込んでいった。


「行かせるわけないじゃん。ここ、勇者が何人いると思ってるの?」


 そこには勇者が十、二十、いや、軽々と百はいた。

 そんな勇者たちと天使は向き合い、いざ火花を散らす。


「勇者機関を滅ぼせ」

「天使を一人残らず倒せ」

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