十一日目『天使たち』
王宮地下に存在する勇者機関。
そこには多くの勇者が教育されているが、彼らはとある事情によりしばらくの間は誰も卒業できなくなったということを聞き、皆落胆していた。
「サリエル。天神様からの情報を聞いたか?」
「ルリエル。それについては聞いたよ。ムーンアイ様がまさか飛び降りてしまうだなんて」
「やっぱ天神様は脳内に語りかけてきた?」
「そうだよね。あの感覚なんか気持ち悪いよね」
その言葉を聞いた途端、ルリエルは激しく共感して熱く語り出す。
「まあ確かに命令だから仕方ないけどさ、せめて手紙とかにしてほしいよね」
「まあね。今も余韻で頭に変な感覚が残ってるし……」
サリエルは苦い笑みを浮かべつつそう言った。
するとそこへ、また二人の脳内に天神様からの連絡が入る。
「勇者機関に潜入している全ての天使たちよ。今は時を待て。きっとムーンアイ様はよみがえる。だからそれまで、強くなれ。ムーンアイ様がよみがえった時、全天使で勇者機関を叩く」
「何!?」
「本当ですか!?」
思わずサリエルとルリエルは驚き声を上げる。
「ああ。次そこで、ムーンアイ様を苦しめてきた勇者機関を崩壊させる。それまでに強くなり、そして備えよ。若き天使たちよ」
サリエルとルリエルは驚きを隠せない。そこへ、勇者タスキエルが焦りながら彼女らのもとへと駆け寄っていた。
「おい聞いたか?」
「ああ」
タスキエルは息を荒げ、二人へと言う。
「なあ。サリエルたちはどうするんだ?」
「どうするって?」
「リーフィア先生と……戦えるのか?」
その質問に、サリエルとルリエルは口を閉ざした。
その頃勇者食堂では、ラファエルは一人食事をしていた。もちろん天神様の声は聞こえていたが、焦ることはしなかった。
周囲の天使たちが混乱しているのを見ても、ラファエルは何も思わない。
ラファエルは食事を終えると、校舎裏を歩き、そして壁に寄りかかって空を見上げた。それは作り物の夜空ではあったが、とても美しい景色であった。
「もう今日の授業も終わったか……」
ラファエルはぼそりと呟いた。
するとそこへ、一人の勇者がラファエルの前へ現れた。
「ん?勇者ピエロ。俺に何か用でもあるのか?」
「ああ。これは風の噂で聞いたのだが、王女ムーンアイは死んだのか?」
顔をまるでピエロの顔のように色を塗ったその男は、悪魔のような笑みを見せてラファエルの眼孔を睨み付けている。
「ここは外の情報など入ってこない隔離施設だぞ。そんなこと、知っているはずがないだろ。まあ、盗み聞きをしていれば別だがな」
後の言葉を強調するかのように、ラファエルは言った。
(もしここで盗み聞きの方へと食いついてくるのならば、こいつは恐らく白だろう。そしてもしこいつがそれ以外のあることに食いついてくるのなら、恐らくこいつは……勇者機関側のスパイだ)
ラファエルは思わず冷や汗をこぼす。
情報が漏れたということは、ここに潜入している仲間が囚われた、もしくは話しているのを聞かれたということになる。
「だがなラファエル、そーー」
「ーーこんなとこで何をしている?」
そこへ現れたのは、リーフィアであった。
「ピエロ。ラファエル。既に夜だ。自室へと戻って寝ていろ。明日の訓練のためにもな」
「はいはい」
ピエロは突如しかめっ面を見せ、リーフィアの横を通る。
「ピエロ。あまり勝手な真似はするなよ。あくまでもお前は私たち勇者機関の奴隷であることを忘れるな」
「解ってますよ。死んでしまったリーフィアさん。いえ、違いましたか」
そう憎たらしさを込めて言い、ピエロは自室へと足を運ばせる。
それを見送った後、リーフィアはラファエルの行き先を塞いで用心深く言った。
「何かあったら話してくれよ。お前は私の生徒なのだから」
「判りました。ですが今は特に何も心配事はありませんよ。
そう言い残し、ラファエルはリーフィアを圧しきって寮へと戻った。
誰もいなくなったその場所で、リーフィアは呟いた。
「お前たち勇者の羽を、一つ残らずへし折ってやる」
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