七日目・前夜『勇者全滅』

 魔王には十名の従順なる部下がいた。彼らは勇者からも酷く恐れられ、恐怖の存在であった。そんな彼らは世界で最も強いとされる勇者ーーノーアイズに倒された。だがそんなノーアイズも、魔王に勝つことは敵わなかった。圧倒的な力の前に、勇者はただ膝をつくのみであった。



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「今日は転校生を紹介します」


 リーフィアに促され、入ってきたのは白髪の少年。全てを醜く憎んだように鋭い瞳をした少女は、紅の瞳で窓から見える勇者寮を見ていた。


「じゃあ自己紹介して」

「リンネ」


 そう一言言い、少女は終始話すことはなかった。

 自己紹介が終わるとともに、少女は教室を出て勇者寮へと向かった。リーフィアは止めるも、少女には彼女など視界には入っていない。


「勇者ノヴァ」


 リンネは部屋の入り口に飾ってある表札に目を移し、鍵がかかっているはずの扉を開けた。靴を脱がずにそのまま上がり、リンネはベッドの上で眠っている一人の少年を見ていた。


「勇者ノヴァ。やっと会えた……」


 ノヴァの顔を凝視し、リンネの瞳からは雫がこぼれる。


「ノヴァ……。やっぱり君は、勇敢だよ」


 時計の針が十時を差した頃、ノヴァはボロボロの体を起こした。外を見ると既に真っ暗で、隣を見ると知らない少女が眠っていた。

 ノヴァは考える。が、思考は停止する。


「ん?うーん。ん?……誰!?」


 ノヴァは飛び起きてその少女に驚いた。

 その騒がしさに目を覚ましたのか、リンネは目をこすりながら驚いているノヴァを見ていた。


「何をそんなに驚いているの?」

「いやいや。何って、誰!?」

「私はリンネ。よろしくね。ノヴァ」

「鍵閉めていたはずなんだけどな……」


 寝起きということもあり、ノヴァの記憶は混濁していた。

 昨日のことなどきれいさっぱりと、ベッドから起き上がって部屋を出て一階へと歩いた。


「ねえノヴァ。どこに行くの?」

「飯食いに行くんだよ」


 少し不機嫌なノヴァの背中を追い、リンネはゆったりと歩く。

 勇者食堂へつくなり、ノヴァは豚カツ定食を買って空いていた席へと座る。するとリンネはノヴァの対面へと座り、食事中のノヴァの様子を愛おしそうに見ていた。


「気になったんだが、お前はなんでオレについてくる?」

「それは秘密。ノヴァがいつかこの国をくれるまで、それは教えない」

「取り戻す?なぜお前は……」

「私はいつまでも待っています。きっとあなたが、世界を変える英雄であるのだと」


 リンネの言葉に、ノヴァは自ずと箸が止まる。


「ーー緊急緊急。ただいまこの地下施設にモンスターが侵入しました。勇者たち、今すぐ討伐に向かいなさい。場所は、ぐはっ……な……ーー」


 アナウンスはなぜか途中で遮断された。

 恐らくモンスターに襲われたのだろう。


「リンネ。今すぐ行くぞ」

「場所、分かるの?」

「走って探す」



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 とある部屋にて。

 一人の女性と盲目の男が話をしていた。


「先導者様。これで彼の能力が解るとでも?」

「ああ。恐らく彼は我々に本当の能力を話していない。だからこそ今ここで彼の能力を知っておかなければならない」

「ですが、恐らく多くの勇者が死ぬでしょう」


 その女性の発言に、盲目の男は冷徹に言った。


「何を言っている?そもそも殺すために勇者を集めたはずだろ。リーフィア」


 盲目の男は気配を感じ扉を開けた。すると、足音とともに何者かが去っていくのが見えた。


「リーフィア。恐らく勇者に話を聞かれた。念のため、全ての勇者を抹殺せよ」

「ですが……」

「解ったか?」

「は、はい…………」



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 訓練所内部にて、狼頭人体鹿足の化け物が暴れていた。

 狼のような頭部を有しており、筋肉質の体が妙に光沢がかっている。そして胴体から生えた四本の足がばたばたと音をなびかせ、襲いかかってくる勇者を次々と殺していく。


「おいおいおいおい。本当にこいつらが勇者か?全く、弱いじゃねーかよ。俺を楽しませてくれよ。勇者だろ」

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