五日目『愚かに呟く魂よ』

 いつだって人は強い生き物ではない。

 だからこそ、人は欲望には勝てない。

 他人なんて、信じるだけ無駄なんだ。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「ノヴァ。こんなところに呼び出してどうしたの?」


 一人の少女が怯えながら木陰へと座る少年ーーノヴァへと歩み寄った。


「ん?あれは一体?」


 リーフィアはノヴァが一人の少女と話をしているのを見て、興味本意でこっそりと窓越しにその様子を見ていた。

 その気配に気付きつつも、ノヴァはその少女に話しかけた。


「アリーナ。確かお前は人に触れることで、その者の所在や生死、能力などを知ることができたよな」

「うん。でも一人だけだけど……」

「そうか。時間制限はあるか?」

「ないよ。でも私の能力を使って何をするつもりなの?」


 アリーナの問いに、ノヴァは慢心した笑みで答えた。


「この国、ルナ王国が隠しているであろう何かを探り、ここから抜け出す」

「何を言っているんだ?まるでここが危険な場所のようじゃないか」

「そうなんだよ」

「え!?」


 即答したノヴァに、アリーナは深く動揺を見せる。


「この国はオレたちを何らかの目的のために利用している可能性が高い。だからオレは彼らの握る闇を見つけ出し、死んだ姉の仇を討たなくてはならない」


 ノヴァは地面をえぐるほどに思わず拳を強く握る。

 すぐに我に返り、ノヴァは話を戻す。


「アリーナ。協力してくれるか?」

「解った。やってみるよ」


 そして卒業生を発表する時がやってきた。

 アリーナはノヴァの隣でリーフィアが卒業生を発表するのを待っていた。


(さあリーフィア先生。どうする?誰を選ぼうとも、一日で死ねばオレが抱いている疑念は確信に変わる。さあ、選べ)


「今日卒業する勇者はクルーです。さあ、前に出て」


 クルーはこの中でもなかなかの歳をとっている。

 彼は笑みをこぼしながら前へと進み、教卓に立って皆へと挨拶する。そしてクルーは最後に皆に囲まれ、その時にアリーナはさりげなくクルーの腕へ触れた。


「触れたよ」

「そうか。ならクルーが死んだらすぐに教えてくれ。恐らく今夜中に死ぬだろうから」

「う、うん」


 戸惑いつつも、アリーナは返答を返した。


 そして夜になり、ノヴァは本を読みながらアリーナが来るのを待っていた。だが、一向にアリーナが来る気配はなく、静けさだけがノヴァの部屋へと染み渡る。


(なるほど。やはりあの時感じた視線はリーフィアのものか。だとするならば、アリーナの能力を知っているリーフィアはクルーを殺さず生かした。だからあいつは死ななかったか……)


 ノヴァは少し落ち込む。

 真夜中に浮かぶ天井に描かれた月を眺め、外の世界を恋しく思う。


 ーーその頃、魔王樹にて


「ムーンアイ。また勇者が来たが、返り討ちにしてしまったよ。相も変わらず勇者は懲りないよな」


 魔王の囁きに、既に瞳から色を失ったムーンアイは何も感じていなかった。ただ無の境地の中で、ムーンアイは静かに時を刻む。




 ーーまた森には木が一本増えていた。

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