第8話 蟻を踏むということ
一体私は、一日に何匹の蟻を踏み殺しているのだろうか。
ただ街を歩くだけで、必死に働き続ける蟻を、無数に踏み付けている。
蟻はいつでも命懸けだろう。私など比にならないほど、文字通り、命懸けだ。
それなのに、蟻には人間の様な娯楽もない。
ただ餌を探し、運び、食べる。
その繰り返しだ。
ただ生きる為に生きている。
儚く、尊い存在。
それなのに、人間は、蟻を踏む。
意識すらせずに、踏み歩く。
私はその事実が恐ろしい。
この世の人間が、皆、自宅から一歩も出歩かなければ、蟻の生命は限りなく救われるだろう。
しかし、そうもいかない。
人間は、仕事をしたり食料を手に入れたりする為に、出歩かなければならない。
私は、出来る限り下を向いて歩きたい。
目視出来る蟻を避けて歩きたい。
でも、そんな事をしていたら、今度はたちまち私が危険な目に合ってしまう。
前方から来る自転車に気付かなかったり。
上から落ちてくるものに気付かなかったり。
それが鳥の糞くらいならどうでも良いのだが、看板かもしれないし、人かもしれない。
誰も空から人が降ってくるだなんて想像もしていないだろうが、それは想像力の欠如だ。
実際に、歩行者が、ビルの上から飛び降りてきた人間に当たり、亡くなるという事件は普通に起きているのだ。
自分が死のうと思って飛び降りたら、まさか殺人をしてしまうなんて可笑しな話だ。
歩行者が無念でならない。
それはさておき。
要するに私が言いたいのは、
人間という生き物は、ただ歩くだけで、何らかの生命を奪っているかもしれない、という事実だ。
知らず知らず、私達は殺生をしている。
これはとても哀しい事だ。
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