第2話 高い場所
高い場所
私は、高い場所がこわい。
これを高所恐怖症だと一言で片付けてしまうのは簡単だ。
だが、そんな単純な話ではない。
高い場所に上ると、それだけで《死》を想起し、意識すら失いそうになる。
山の頂上や橋の上、高い建物から下を覗き込む行為など、自殺行為である。
もし、知らない誰かが背後を通る際、うっかり躓いて自分に当たってきたら。
たちまち転落死だ。
知らない誰かが、背後でくしゃみをしたら。
その音に自分が驚いて、足を滑らせたら。
これまた転落死だ。
突然、突風に背中を押されたら。
橋が崩れたら。崖崩れがあったら。
挙げたらキリがない。
あらゆるケースが想定される。
そしてそれは全て《死》を想起させる。
どうしても下を覗き込みたいと言うのなら、命綱は必須であるが、その命綱も切れないという保証はないのだ。
なので私は二階より上の階には住まない事に決めている。
一階か二階。
二階までであれば、不測の事態が起きて転落したと仮定しても、せいぜい骨折くらいで済む筈だから。
この話をすると、
「じゃあさ、じゃあ、もしビルの三階の一室にいる時に火事が起きたらどうするの? 大きな火事ね。逃げ場は窓だけ。どうする? 飛び降りる? 焼け死ぬ?」
こんなマヌケな質問をしてくる輩がいる。
愚問である。
私は高い所から飛び降りるのも死ぬほどこわいが、焼け死ぬのも同じく死ぬほどこわいのだ。
要するに、死ぬのが死ぬほどこわい。
そうであれば、
限りなく《死》から遠ざかる方法を、
命懸けで選択する。
文字通り命懸けで飛び降りるだろう。
バンジージャンプなども理解不能だ。
あんなゴム紐一本を信用し、己の生命を預ける行為。
そのゴム紐は、本当に信用出来るのか、と考えないのだろうか。
途中で切れない保証もなければ、インストラクターが実は狂人で、突然上からゴム紐を切断しないとも言い切れない。
この話をするとまた、
「じゃあさ、じゃあ、バンジージャンプするのと、ベッドで眠りながら安楽死するの、どっちがいい?」
などと、これまた大マヌケな質問をしてくる輩も存在する。
愚問である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます