救いの魔女
ボロボロと泣き始めた女の子の頭を、老婆は優しく撫でて落ち着かせました。
「あの子について、なにか知ってるんだね。」
「うん……あの子ね……。」
女の子は話し始めました。あの少年は、親にいじめられているのだというのです。
貧しい家に生まれたからか、両親は何か食べ物をとってこないと少年に何も食べさせず、寒い外にずっと出されてしまうそうです。
「お婆ちゃん、あの子を助けてあげて。このままじゃ、私みたいにあの子のお父さんとお母さんに殺されちゃう。」
女の子はまるで自分の事のように涙します。その額には、生々しい傷跡が残っていました。
その会話を聞いて、グレーテルは黒いローブを纏い外へ向かう扉を開けました。その目は、決意に強く光輝いています。
「私、いってくるお婆ちゃん。あの子、すごく痩せてた。放っておけないよ。」
「お待ちなさいグレーテル。」
「止めないでお婆ちゃん!」
グレーテルが足を止めると、老婆は優しく微笑みながら立ち上がりました。
「なにも行くなとは言ってないだろう? あの子はお腹を空かせているだろうから、暖かいマフィンでも持っていっておあげ。」
「え……あ、た、たしかに……。」
頭に血が上っていたグレーテルは、一度冷静になるために、老婆がマフィンを持ってくるまで待ちました。程なくしてバケットを持ってきた老婆は、それをグレーテルへと差し出します。
「あぁ、そうだ。紙とペンを一緒に持っていっておくれ」
「そんなの必要ないよお婆ちゃん。」
「いいんだよ、必要になるから。」
いったい何に必要なのかわからないグレーテルは首をかしげましたが、老婆の言う通りバケットの中にレターセットをいれて家を飛び出していきました。
もう外は夜が顔をだし、雪が降り積もっていました。街まで歩けば30分ほどですが、グレーテルが少年を探すのに時間はかかりませんでした。
何せ少年は、雪の降る寒い夜に薄着で路地裏に座っていたのですから。
「こんばんわ。」
少年に声をかけると、少年は泣きながらグレーテルへ飛び付きました。その体はひどく冷えきっています。グレーテルは路地裏の静かな場所に少年と向かうと、彼にマフィンの入ったバケットを渡しました。
「お婆ちゃんがこれを君にって。」
「食べていいの……?」
グレーテルは頷くと、少年は湯気のたつ暖かいマフィンにかぶりつきました。ふわふわで甘いマフィンは、凍りついた少年の心を溶かしていきます。
「迎えに来たよ。今のおうちが嫌なら、お婆ちゃんのお家においで。」
「いいの!? 僕、お菓子の家にいきたい! ……でも、パパとママにはバイバイしたいよ。」
少年はうつむいていると、グレーテルは老婆に言われて持ってきたレターセットを思い出しました。
「それならお手紙を書こう。ちょうど持ってきたから。」
「ほんとに!? 僕、ちゃんとバイバイの手紙書く!」
少年は嬉しそうにレターセットを受け取り、
『まじょのおうちにいきます。おかしがおいしかった。パパ、ママ、バイバイ。またあそびにいくね。』
と両親に手紙を書いて投函しました。
その手紙を見て、彼の両親が魔女狩りの抗議に参加するとはこのとき誰も思いもしません。
そうして少年は、グレーテルと手を繋ぎ、魔女の家へと向かいました。黒いローブを羽織った彼女は、誰が見ても魔女と思ったでしょう……。
こうして今日もまた一人、子供が拐われたのでした。
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