第4話
男からの告白以来、男は前よりも一層、美輪の視野に入ってくるようになった。
朝も夕方も、必ず、同じ車両に乗り込んできて、美輪が気が付くような場所に立つ。そして美輪が気が付くたびに、まるで獲物でも見るかのように、爬虫類の瞳が強く射抜く。
まわりにいる、見るからに質の悪そうな男たちも、ニヤニヤしながら、美輪の方を見る。
一緒に通学している葉月も気付いたのか、彼らの視線を感じるたびに、嫌そうな顔をしている。そして、一緒に別の車両に移動するのだが、気が付けば、彼らもまた同じ車両に移ってくる、の繰り返し。
それでも、共にいてくれる葉月に、美輪は感謝しかない。
帰りのほうが最悪で、バスに乗ったら、同じ空間にいるんじゃないかと、不安になり、歩いて帰るのも、後をつけられているんじゃないかと、後ろを振り向きながら帰る始末。
けして、あちらから声をかけてくるわけではない。
それでも、ずっと、目で追いかけられている。振り向くと、必ず、あの男がいるんじゃないか。学校は嫌いじゃないのに、通学の時間帯が苦痛で、学校に行くのが嫌になってくる。
それでもなんとか頑張って、一カ月ほど経ち、もう、限界かも、と美輪が思った頃。
「美輪、元気ないけど、どうした? 目にクマできてるぞ?」
声をかけてきたのは、久しぶりに家に帰っていた兄だった。
すでに社会人になっていて、独り暮らしをしている兄に、相談するか迷っていた。でも、もう恐怖しかなくて、泣きながら話した。
「そうか、怖かったな」
もともと強面だった顔が、いつも以上に厳しい顔つきになる。何か、考えるようにして、
美輪の頭を優しく撫でた。
「あの高校なら、そこを卒業した知り合いがいるから、そいつに相談してみるよ」
兄の力強い言葉とともに、話を聞いてもらったことで、美輪も少し気が楽になった。
そして気が付けば、美輪の周りにあの男が出没することはなくなった。
電車の時間帯を変えたのか。まったく接触をすることもなくなった。
美輪にとって恐怖の時間帯は、過ぎ去り、雨の日も、それほど憂鬱ではなくなった。
時を同じくして。
あの男が、顔に痣を作っていた。
終始不機嫌そうな顔をしているが、美輪の姿を見ると、恐怖に慄くように、車両を移動していく。それは仲間の男たちも同様で、皆、それぞれに、どこかしら痣を作っているようだった。
――何がそうさせたのか。
――誰がそうさせたのか。
それは、ご想像にお任せする。
雨の通学路 実川えむ @J_emu
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