5月11日

納品日は過ぎてしまったが何とか依頼された人形を完成させることができた。

久しぶりに彫刻刀を握った私の手は傷だらけになってしまった。

だが人形作りに専念していた時は娘を失った悲しみを少しだけ忘れることができたような気がする。

全てを失ったと思った私だが、まだ『人形作り(これ)』が残っていた。

だが私は妻と娘を忘れたいわけではない。

できれば一生鮮やかなまま記憶を留めておきたい。

……そうだ、人形を作ろう。妻と娘の面影を写す人形を。それがあれば慰めになるのかもしれない。

彼女たちの姿かたち、表情を忘れてしまわないうちに少しでも早く。


誰も信じてはくれないが、やはり誰かに呼ばれているような気がして今でも振り返ることがある。

もちろん振り返ってもそこには誰もいないのだが、それを話すと人は私をノイローゼだとか休息が必要だと言う。

心が壊れかけなのは仕方がないことだ。愛する家族を二人も失ったのだから。


今日はもうゆっくり休もうと思う。

もう暫く口にしていない言葉で今日の日記を締めることにしよう。

おやすみ。良い夢を。


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