第26話すべきこと

俺がそう言っても皐月は驚いた表情を見せることはなかった。


「りんくん、実は私も同じことを考えてたんだ」


……?


「私も両親を訴えてくれようと決意したの。りんくんが何とかしてくれるって勝手に思っていたけれど、当事者である私が何かしなきゃ話は始まらないなと思って。それでこの前りんくんの誘いを断ったのは、証拠を作るためなんだ。ごめんね、何も言わずに勝手なことして」


皐月は自ら火の中に飛び込んで、自分の身と引き換えに自分の両親を訴えるための決意をしてくれた。もう準備はできてしまったというわけだ。

俺の出る幕はなかった。という事なのかな。

俺にできることはもう残っていない。だから俺はこの場所を彼女の安息の地帯として提供し、彼女を労う。

その第一歩として、俺は彼女の頭を胸に抱えた。


「……?りんくん?どうしたの?」


皐月は俺の腕の中でもぞもぞと動いて、顔を出す。

俺はそんな皐月を見ながら、何も言わずに抱きしめ続けた。

それは単純な独占欲なのか、彼女を労う気持ちなのか俺にも全く分からなかった。


「······もう少しだけこうさせていてください」


皐月は俺の胸の中に安住地を求めるようにして、ずっと抱きついていた。

ここだけは私の場所と言うように。


俺はここと彼女だけは何があっても守ると決めて······。


◇◆◇


俺たちは早速行動に移し、彼女の診断書を少し離れた病院で受け取ることにした。

電車を使って2つほど離れた市までやってきて、そこの待合室で俺と皐月は席を共にしている。


「ごめんね、りんくん。付き合わせちゃって」

「これくらいお易い御用だよ。今、皐月を一人にしたくないしな」


するとナースの甲高い声で皐月の名前が呼ばれる。


「それじゃあ、行ってくるね」

「うん。ここでずっと待ってるよ」



あまり大きな病院って来たことがなかったが、こうしてずっと見ていると想像以上に人に出入りが多い。

皆一様に病気やけがを患ってきているのではないのだろう。

精神に障害を抱えてしまったり、単に何かの検診だったり。

そんな呑気なことを考えたり、何も考えずに携帯をいじっていると勝手に時間が過ぎていっていた。





「ただいま。りんくん」


気づくと皐月の検査は終わっていたようで、流れるような動作で俺の隣に腰を下ろす。


「おつかれさま」


俺がそう言うと、彼女は何も言わずに俺の肩にもたれかかってくる。


「ちょっ······!?場所!場所考えて!?公共の場所だから!」

「あっ、ごめんなさい······。場所を考えればいいんですよね?」


皐月はにやにやと顔を緩めて、俺から離れていく。

まあ、場所さえ考えてくれたら······いいのかな?


満更でもない俺だった。

心は正直ということか······。



◇◆◇



「疲れたぁ……」

「おつかれさま」


様々な手続きを終えて、俺たちは部屋に帰ってきていた。

今日一日の徒労はなかなかのものだった。

付き添いの俺がこれだけ疲れているのだから、当人である彼女はさらに疲れていることなのだろう。


「今日は皐月が頑張ったことだし、とびっきりの料理を作ってやるか!俺のできる範囲で!」

「無理しないでね。私はリビングで休んでるね」


普段なら自分から率先して手伝うと言ってくるはずの皐月がこんな状態ってことは精神的にもかなり疲れてしまっていたんだろう。

皐月は瞼を閉じてソファーに横になっていた。

俺は少しだけゆっくりと時間をかけながら、料理を作った。



皐月は約二時間ほど眠りについていた。

起こしていけないなとは思って、晩御飯ができた後もなるべく物音を立てないように過ごしていた。


「ん~っ!!」

「おはよう。皐月」


皐月は寝ぼけ眼で俺の目をじっと見ている。

というかひどい姿だな。

俺は思わず苦笑する。皐月の髪は崩れてぼさぼさになっているし、服は若干着崩れている。


「髪すごいことになってるよ?」

「……ふぇ?」


皐月は何を言っているかわからないとでも言うように懐疑的な目を向けてくる。


「夜ご飯食べようか?皐月もお腹減っただろ?」

「……うぅん」


甘ったるい声を上げながら皐月は席に着く。

もう容姿に関しては気にしないようだ。

こんなフリーダムな姿を見せてくれるのは、少しうれしかった。

皐月でもこんな時があるんだなって思えたし。


「「いただきます」」


そして俺たちはそれぞれ箸を持って、ご飯に手を付け始める。

俺はダサいとまで思える皐月を見るたびに思わず笑みがこぼれてしまう。

そんな俺のことを見て皐月は首をかしげてなぜ笑っているのかわからいという表情をする。

そして皐月は俺の視線の先に手を持っていくと、自分の髪が爆発したようになっていることに気が付いたのか、席を勢いよく立ち上がり洗面台の前まで走っていく。

十秒くらい慌ただしい足音がなくなったかと思うと、今度はその足音がだんだんと近づいてくる。


「りんくん……なんで言ってくれないのぉ!!」


皐月は目じりに涙を浮かべて顔を真っ赤にしていた。


「なんかこういう皐月も可愛いなと思って。それに一応さっき言ったけどね」

「嘘……!?言ってたの?もう~私のばかぁ……」


照れているのか怒っているのか分からない表情を見せた後、自分に呆れるような表情を見せる彼女は百面相をしているようでそんな様子が微笑ましくて俺は相好を崩した。




――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき失礼します。


これからの話は法律とかもいろいろ絡んできてしまって知識不足がいろいろ露呈してしまいそうなので、かなりの期間、話が飛ぶと思います。

細かく書いて「……?」って感じになるくらいなら話を飛ばしてしまおうという勝手なことをしてしまって、申し訳ないですが、温かい目で見てください……。

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罰ゲームで告白した彼女は学校一の美少女であり学校一の美悪魔でした らららんど @raraland

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