第21話ヒロインレース開幕!?
――皐月side
あぁ、本当に寂しいです……。りんくんのいない夜がこんなに心にぽっかり穴が開いてしまうようなものだとは思いませんでした。
りんくんの匂いを嗅いでいると余計に凜くんの存在が恋しく思えてきてしまうのです。
一日ぐらい一緒に居ないくらいで……。と思う人もいるかもしれません。でも、いつも隣にいた人が急にふっと消えてしまうのはとても怖いことで寂しいことで……。
もし今日りんくんが交通事故で亡くなってしまったら……私はどうなってしまっていたんでしょうか。
自分でも想像できません。我を忘れて嘆き悲しむのでしょうか。意外と冷静でいられるでしょうか。それとも、この世界に絶望するのでしょうか。
もう、想像したくもありません。さっさと寝ることにしましょう。明日もりんくんには会えるのですから。
そして、私は無理やりにでも意識を手放した。
◇◆◇
「ふあぁ……」
大きな欠伸をしながら体を起こすと、太陽はまだ、顔を少し見せたくらいだ。
時間にして四時半。いつもよりもかなり早めの起床だ。
そして私はりんくんの代わりに枕を抱きしめて寝ていました。
やっぱり、りんくん以外に私の抱き枕は務まりません。
早く帰ってきてほしいと願うばかりです……。
目も覚めてしまったし、起きることにしましょう。学校の準備はまだできていませんし、早起きは三文の徳と言いますし。
それにしても早すぎだとは思いますけど……。
もう少し寝たいとは思いますが、そしたら遅刻する気しかしません、二学期初日から遅刻なんて言うのは御免です。
今日は歩いて行けばそのままお見舞いに行けるので、歩いて行くことにしましょう。
余裕をもって向かうためにも、早めに準備を終わらせないとですね。
なんでこういうときだけ時間の進みはゆっくりに感じるのでしょうか。なんだかとってももどかしいです。
案外歩いてくるのも大変ですね……。
普段が自転車通学で運動をしないだけに、自分の体力不足をかなり痛感していた……。
でも、学校についてしまえばもうあとは座って適当に始業式をやり過ごして、先生の話を聞いていれば終わりだ。
そしたらりんくんに……うへへ。想像するだけでもにやけてしまいます。
すると突然どこかから視線を感じた。
そちらの方向へ視線を向けると、数人の男子生徒がこちらを見て、こそこそと話しをしている。
見られてしまいましたか……。りんくん以外に見られてしまうとは……不覚です……。
まあ、いいでしょう私の素顔の一つや二つくらいなら見せてあげますよ。
それじゃあ、さっさと学校が終わるのを気長に待ちましょうか。
◇◆◇
――もあside
りんたんが初日から休みと聞いて私は驚愕する。
初日から休むなんて大したことがない限りはあり得ない。
私はすぐに先生に問いてみた。
「先生。りんくんってどうして休みなんですか?」
先生は私の問いに対して渋るような表情をする。
生徒のプライバシーはそんなに軽く教えていいものではないだろう。
先生の立場から考えればすぐにわかるはずだ。
だから私は直接りんたんに聞くことにした。
『りんたん、大丈夫?何かあったの?』
ここで、なにがあったか言ってもらえなかったら諦めることにしよう。
時にはあきらめも大事。しつこい女だと思われたくないし……。
するとすぐに返信は返ってきた。
『昨日少し事故に遭っちゃってさ、今入院してるから学校いけないんだよね』
事故!?それって大丈夫なの!?余計に彼のことが心配になってきた。
『それって大丈夫なの……?』
『大丈夫だから気にしないで。すぐに退院できるらしいし』
正直に言うとお見舞いに行きたい……。
お見舞いというより二人きりになって話したいというのが本音だけれど……。
『どこの病院なの……?』
『病院は秦中央病院だよ。でも、お見舞いとかは電車代とかもかかっちゃうから大丈夫だからね?』
『わかった!じゃあ、今日学校終わったらお見舞いに行くね!』
意地でもお見舞いに行きたい……!
そのためならりんたんの言葉だって無視できるっ!
すると、肩をトントンとつつかれあおいちゃんから声をかけられた。
「もあ~今日遊びに行かない?」
「今日はパス!予定が入っちゃって!」
「わかった~じゃあ、また今度ね~」
「うん!」
ごめんねあおいちゃん。
今日だけは絶対にりんたんのところに……!
一緒にプールに行ったあの日からほとんど連絡も取れていなくて寂しい日が続いたけど学校となれば別だ!同じクラスである私はいくらだってりんたんとお話ししたりできるんだから!
早くりんたんに会いたいなぁ……。
そんな思いを馳せるもあだった。
◇◆◇
――皐月side
学校も終わり秦中央病院の最寄り駅である秦駅までやってきました。
ただ怪しい影が一つだけあるのです。
それは後ろからついてくるあの泥棒猫……和泉さんでしたっけ。
夏休みにりんくんと出かけてたっていう。
あんな小娘にりんくんは絶対にあげませんからね。りんくんは私のものになるんです。
どちらかと言えば私がりんくんのものになるんですけどねっ。
――もあside
私の前を歩く、一人の影。
見間違うこともない。彼女は学校一の美少女と名高い如月さんだ。
なぜこんなところに?まさか彼女もりんたんのお見舞いに?
いやでも、彼女は一回りんたんのことを振ってるはず、そんな彼女がお見舞いだなんてありえない。もしそうだったとしても修羅場不可避だ。
そんな彼女がなぜ……?
いくら考えてもその答えは出なかった。
◇◆◇
「ちょっと、お見舞いに来たのは私なんですけど。お子様はそろそろ帰ったら?」
「お子様じゃないし~!あんたこそりんたんのこと振っといてよくお見舞いに来れたわね!」
「振ってなんかいません!ただ成り行きでそんな感じになってただけです~!事実を知らずに語らないでもらえますか?」
俺の病室の前でわちゃわちゃするのはやめてほしい……。
ここ病院内だし……。
俺は病室のドアを開けて二人を招き入れる。
その間も二人はバチバチと視線を交錯させていて、手のつけようがなかった。
「ちょっと私とりんくんの愛の巣に入ってこないでもらえます?」
「愛の巣って何よ!ここは公共の場所でしょ!?勝手に自分の所有物だと思い込まないでくださ~い」
「まあまあ、二人とも落ち着いて」
俺がなだめても二人の言葉の剣幕は止むところを知らない。
俺は仲裁に入ることさえ面倒くさくなって、途中で完全に放棄してしまった。
「順番は決まった?」
「はい!もあが先になりました。ではさっさとお引き取ってくださいな?」
「ぐぬぬ……」
これには皐月も言い返せない様子で歯ぎしりをしながら出ていった。
「和泉さんありがとね。わざわざお見舞いになんて来てくれて」
「いえいえ!友達なら当然のことです!それで少しというかかなり気になったんですけど。なんですかあの如月さんのりんたん好き好き星人っぷりは」
「それは俺もよくわからないんだよね……。気が付いたら好かれてたとしか言いようがなくて」
「なんですかそれ……。あの、りんたん?今度また、で、でーとに……いかない?」
「で、デートね……」
そんな甘美な響きを帯びた言葉に俺はあっさりと陥落してしまう。
「うん。いいよ。行こうか」
「はいっ!絶対にりんたんが私の女の子以外見れないようにしてあげますからね!」
いったいそれはどういう意味なんだ……?そういう意味ととらえてもいいのだろうか!?
「楽しみにしてるよ」
俺にはこう返す手段しか持ち合わせていなかった……。
「名残惜しいけど、私はもう行くね。早く学校に戻ってきてね」
「うん。すぐに戻る。約束するよ」
和泉さんはそのまま病室から出ていった。
そして入れ替わりで、皐月が入ってくる。
「一体何を話していたんですか?」
「なんだろうね?」
「えっちなことでも話してたんですね!?あの女狐……許せません」
「してないから落ち着いて?」
発想がいろいろと飛躍しすぎだ……。
皐月はやっぱり俺のことが関わると頭がおかしくなってしまうみたいだ。
「もう、りんくん早く治して帰ってきてください」
「そのことなんだけどね。明日には退院できるらしいよ」
すると皐月の顔がぱっと光り輝くように明るくなった。
「本当ですか!?じゃあ、土日は二人でゆっくりできるってことですか?」
「そういうことになるね」
「嬉しいです!なにをして過ごしましょうかねぇ~♪」
皐月はわかりやすく上機嫌になって、笑顔を顔に浮かべていた。
「そういうことだから、俺の退院祝いに皐月の手料理が食べたいな」
「任せてください!腕によりをかけて作りますよ!」
「うん。期待してる」
「それじゃあ、りんくんの退院祝いを準備しないといけないので、わたしは帰りますね~」
俺はそこで皐月をいったん呼び止めた。
彼女は頭に疑問符を浮かべ首をかしげている。
「いや、携帯の連絡先交換してなかったなと思ってさ」
「……。確かに交換してなかったですね……。ずっとに一緒に居たもんだから忘れてました」
「俺もだよ」
そして俺たちは目を見合わせて笑った。
連絡先を交換すると、皐月は上機嫌に病室を出ていった。「あとで連絡しますね」と言い残して。
そして皐月は喧騒を残して病院を出ていった。
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