第19話上の空な凜

もう夏休みも終わりというのに太陽は夏はまだまだ本番だとでも言うようにギラギラとした日差しが照り付けていた。


「ねえねえ、りんくん。明日から学校だからさ、私いろいろ家に取りに行かなきゃいけないから今日中に取りに行ってくるね」

皐月が彼女の家に行くという事に俺はどうしようもない忌避感を覚えてしまう。

そしてさつきはそれを感じ取ったかのように落ち着いた表情と声音で「親はいないと思うので大丈夫ですよ。しかも、今の私にとっての家はここしかありませんから」


彼女がやけに落ち着いていたからか安心してその言葉を信じる。

そして気づいた時には「ありがとう。皐月」と口にしていた。

すると皐月は急にいたずらを思いついた子供のようなあどけない笑みを浮かべる。


「どういたしまして。それでりんくん、私のことをまだ名前呼びしてくれているという事はつまりそういうことでいいんですね?」

「あっ……!いや、ただ間違えただけだから」

「ふ~ん……じゃあ私とは付き合いたくはないってことですか。あ~あ、なんだか私、傷ついちゃいました。これはもう失恋です。なのでりんくん私を慰めてください」

「失恋した相手に慰めてもらうとか意味わからないだろっ!」


そして俺は「それに付き合いたくないわけじゃないし」と彼女に聞こえないように小さくつぶやく。


「ん?今なんて言いました?聞こえなかったのでもう一回言ってください」


皐月の表情を見ると口角が少し上がっている。

聞かれてしまっていたか……。

おそらく無表情を装おうとしているんだろうけど、皐月の表情筋は明らかに強張っていて、気を抜いてしまうことがあれば一気に顔が緩み切ってしまいそうなほどになっていた。


「はぁ……もう言いません。俺もいろいろ買い換えたいものとかあるから、出かけることにするか……」

「そういえばこっちに来てから宿題をやっているところを一切見てないんですがまさか終わってないなんてこと……?」

「もちろん終わってるよ。夏休み暇すぎてすぐに終わっちゃったよ」


俺が笑いながらそう言うと、皐月も「私もだよ」と言っていた。


「じゃあ、今日も今日とてゆっくりできるということか」

「そうですね。それじゃあ、さっさと用事を済ませていちゃいちゃしましょうね!」

「いちゃいちゃはしないけど、さっさと用事を済ませることには同意だね」

「りんくんは俗にいうヘタレなんですか?」

「……さあ?」

「間が怪しかったです。そうですかりんくんはヘタレさんなんですか。わかりました!私頑張ります!」


いったい何を頑張るんだという俺の疑問は完全に無視され、俺たちはそれぞれの用事を済ませるべく、準備に取り掛かった。



◇◆◇



「自転車で来たのはいいけどまだまだ暑いなぁ……」


自転車で片道15分くらいしか、かかってないのに、背中には汗がにじんでいた。

今頃皐月はもう家についているだろう。

大丈夫かな……。俺は適当に文房具やルーズリーフを買ったはいいものの、頭の片隅にはずっと皐月が居続けていた。




ただの信号でさえも長く感じる。早く家に帰って、皐月とゆっくりとした日常を過ごしていたいなぁ……。


「危ない!!!!」


そんな声が聞こえたけどその時にはもう遅かった。

痛みと共に俺の意識は飛んで行っていたのだ。



◇◆◇




実際はあんまり期間も開いていないけど、こうして立ってみるととてつもないほど懐かしく感じる。

私は本当の自分の家を前にしてそんなこと思った。

車は二台ともない。両親は完全に家を空けているようだ。

これなら大丈夫。りんくんに心配をかける結果にならなくて済みそうです。


そして私はおそるおそる玄関を開けた。

リビングはなかなかに荒れてしまっていた。ストレスのはけ口がなくなったからだろうか。物に当たるしかなくなってしまったのだろう。

私はそんなことをよそに自分の部屋へ向かう。

荒れてないかどうかが心配です……。

ゆっくりと扉を開くと、私が家を出た時の状態のまま放置されていました。

とりあえず、制服関係を持ち、リュックは教科書を詰めてから、私は家を出ました。

一応自転車も必要かもしれないので、帰りは自転車に乗って帰ります。


ただ、荷物が重すぎてまともに運転できませんでした……。

仕方ないです……押して帰ることにしましょう。




押しながら歩くこと30分強。りんくんの家に着きました。

やっとりんくんとお話しできる……。

そして私がドアに手をかけると、まだドアには鍵が掛かっていました。

まだ帰ってきていないのでしょうか……?

まあ、私にはもう……。

そして私の手の中にある鍵を見てニヤついてしまう。


えへへ……。凜くんの家の合鍵。もはや愛鍵と言っても過言ではないですね。


そして、鍵を開けて誰もいない部屋に入る。

まだりんくんは家に帰ってきてないようですね……。

あれ?留守電が入っています?これは見てもいいのでしょうか?

まあ、りんくんが帰ってくるまで少し待つことにしましょう。




いつになっても帰ってきませんね……。

何か緊急性を感じるので留守電を取ってみましょうか。


『こちら秦中央病院です。早川凜様のお宅ですか?もしそうでしたら折り返し電話をお願いします』


病院!?りんくんの身に何かあったのでしょうか?

私は急いで折り返し電話を掛けました。


「もしもし早川です。りんくんの身に何かあったんでしょうか?」

『彼が交通事故に遭ってしまいました。幸いなことに軽い脳震盪を起こしただけなので命に別状はないのですが少しの間は入院を余儀なくされると思うので手続きをお願いしたいのですが……』

「分かりました!すぐに向かいます!」


そこで私は電話を切って家を出る準備をする。

でも私がしなきゃいけないのって彼の両親への連絡じゃ……?

私はあってくれと願いながら固定電話の連絡先を探す。

すると実家という文字がそこには写った。


「よしっ……!」


私は覚悟を決めて、彼の両親に連絡をかけたのだった。




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