第17話おせっかいだけど……
花火大会なんて最後に行ったのはいつだろうか。
しばらくそんなものに言った記憶はない。
俺の地元でそういうのが行われていなかったって言うのもあるけど、やっぱり一番の理由は友達がいなかったからだ。
だから、高校に入ってまさか女の子と二人で花火大会に行く日なんて来ることはないと思っていた。
しかも、折り紙付きの美少女。
人生何があるのかわからないものだな。
つまらなかったこの人生も少しは俺でも楽しめるのかもしれない。
彼女と一緒なら……。
◇◆◇
「りんくんりんくん!早く行きましょう!花火が私たちを待っています!」
そんな子供じみた発言に俺は笑いながらも同意を示す。
「そうだね。それじゃあ、そろそろ出ようか」
俺はスマホと財布、そして彼女に渡すものを持ったことを確認して、玄関の鍵を閉めた。
「それじゃあ、行きましょう!」
如月さんは流れるように、俺の手を取り、歩き始める。
「ちょっ!?この手は?」
「ん~おしおき?ですかね?」
「何のお仕置き!?」
「自分の心に手を置いて考えてください。りんくんは私の心を傷つけた罪な人なのでこのくらいされて当然です」
「まあ、手を繋ぐことぐらいだったらご褒美なんだけど」
俺がいつ如月さんの心を傷つけたんだ!?
すると、如月さんの顔が一瞬で沸騰したように真っ赤になった。
俺なんか言ったっけな……?あれ?俺今ご褒美とか言ってなかった?
言おうとしていたことと考えていたことが完全に逆になってしまっていた。
これじゃあ、俺はおしおきされて喜ぶドMじゃないか……。
「き、如月さん。今のは忘れて……?」
「嫌です。りんくんにはもっと過激なおしおきを用意しておくので安心してください」
目がマジだ……!おそらく本気で俺を困らせに来るのだろう。
「またおしおきされるならこの手は……」
「絶対に話しませんからね。最終手段は叫んで助けを求めてりんくんが悪役になる未来が待っているので、抵抗はしないでくださいね?」
「はい……」
これからも俺はこんな風に如月さんの尻に敷かれ続けるのだろうか……。
花火がよく見える河川敷までくると、たくさんの屋台とおびただしい量の人がいた。
人がごみのようとはこのことを言うのだろう。今にも人ごみに酔ってしまいそうだ。
「すごいたくさん人がいますね……暑苦しいです。私はりんくんと二人だけで見たいのに」
さすがにそれは無理があるんじゃないかなぁ……。
確かに二人で見れる花火があったらロマンチックではあるけどね?
でも、その趣は手持ち花火で味わえるんだよなぁ。
「人がたくさんいるのもまた風情というかそういうものがあっていいじゃん。二人で見るのは今度手持ち花火でやろう?」
「いいんですか!?ならこれはこれで我慢します!約束ですからね!」
「うん。絶対にやろうね」
すると如月さんの表情筋はだんだんと緩んできてしまってついにはにやけが止まらないみたいな状況になっていた。
これは……人には見せられないな……。
「りんくんと花火……えへへ、楽しみだなぁ……うふふ」
怖い怖い。なんかホラー映画に出てきそうだから、やめてほしいものだ。
「如月さん、花火が始まる前に、場所取ったりしようか」
「ふぇ……?あ、はい。それじゃあ、行きましょう」
そして、長く続く河川敷を歩いていると運よく、石段のところが空いていたので、俺たちはそこで見ることにする。
よく空が見える最高のポジションと言っても過言ではない。
「いい場所が開いていてよかったね。俺は何か買ってこようと思うんだけど、如月さんは何か欲しいものとかある?」
「いえ、私は大丈夫ですよ。りんくん今月ピンチなんですよね?無理して見栄を張らないでください」
完全に見透かされてしまっている……。
「そっか、じゃあ行ってくるね」
そして俺は急ぎ目で屋台の並んだところまで行く。
わたがし、焼きそば、チョコバナナ、かき氷などの昔からあるものだったり、電球ソーダのような最近になって見かけるようになったものもある。
そして立ち並ぶ屋台にそって歩いて行くと目的のあるものを見つけた。
りんご飴。
さっきから如月さんがちらちらと視線を向けていたから、欲しいんだろうなとは思っていたけど、どうも遠慮してしまっているらしいので、一応と思って買っておくことにする。最悪少しくらいなら保存することだって可能だし。
おせっかいかもしれないけど、少しだけ彼女の笑顔が見たいなんていう思いもあったりする。
後は適当においしそうだなと思ったものを買っていると、少しだけ量が多くなってしまった。
これじゃ如月さんに怒られちゃいそうだな。
石段のところまで戻ってくると案の定というか、如月さんは俺よりも少し年上くらいの男に話しかけられていた。
ナンパに遭うなんてついていないなぁ。と思いながらも、如月さんの容姿なら当然かもと思ってしまったりもする。
何にしろ早く助けてあげないとな。
「あの~お兄さん、僕の彼女に何か用ですか?」
「あ?この子がお前の彼女?笑わせんなよ。そんなわけねぇじゃん。ひよっこはどっかに引っ込んでな」
うわぁ、めんどくせぇ。ていうかそれよりも怖い。
「それは彼女に聞くのが一番早いのでは?」
「ハハッ!それもそうだな!お前なんかよりも俺の方が断然いいに決まってるし俺の方に来るよな嬢ちゃん!?」
最近のヤンキーは日本語も通じないのか。一体何を聞いているんだ。
あ、ヤンキーはいつの時代も日本語通じなかったか。
「は?何言ってんの?あんたみたいにイキった野郎のどこがいいに決まっているの?あんたについて行くくらいなら、ゴキブリと一緒に居た方が幸せね。でもそれじゃあ、ゴキブリに失礼よね。自分よりも下の存在と比べられるなんて屈辱だものね」
うわぁ。毒舌。絶対に如月さんは怒らせないようにしよう。
「な、なにが言いてぇんだよ……」
「あらわからないの?ゴキブリ以下の生物さん。あなたといるくらいなら彼といたいってことよ。分かったらさっさとどっか行って。邪魔だわ」
「てめぇ。このっ!」
「殴ってもいいのよ?ただこんなたくさんの人の前で殴ったらあなたはすぐに差し押さえられて、気づいた時にはもう牢屋の中でしょうね」
すると、ヤンキー?さんは脱兎のごとくこの場から離れていった。
「如月さんはすごいな……。あんなヤンキーを一人で撃退しちゃうなんて」
「ありがと。で、りんくん?その、両手に握られている袋はなんですか?」
「えっと……これは、その買いすぎちゃいました?」
すると如月さんは呆れたようにため息を吐く
「もう……今月は質素な生活になりそうですね」
「うっ……ごめんなさい」
「まあ、今日、私はりんくんの彼女なので許してあげます」
「いや、あれはヤンキーを追い払うためのこうじts」
「ん?りんくん何か言いましたか?」
今の如月さんの浮かべる笑顔には得も言われぬ迫力がある。
しかもさっきの言葉の弾幕を聞いた今では口答えしたら社会的に殺されてしまうかもしれない……。
「イエ、ナニモイッテイマセン」
「つまり私とりんくんは彼氏彼女の関係なので名前呼びをしないといけませんね?」
「そ、そうなんですかね?別に彼氏彼女だからと言って名前呼びは義務じゃないというか……」
「義務です。それに、彼氏なら彼女の要望にくらい応えてあげるべきです」
「はい……わかったよ。皐月……」
「はいっ♪よくできました」
子供扱いされている感じがなんとなく否めない。
「それでいったい何を買ってきたんですか?」
「ああ、そうだった。きさら……皐月がさっき欲しそうに見てたからりんご飴を買ってきたんだった」
「もう……いらないって言ったのにおせっかいさんなんですから……」
「ごめん。でも皐月の喜ぶ顔が見たくてさ」
やばい。また口を滑らしてしまった……。今日はいろいろと事故が多いな……。
皐月は頬を赤らめて本当に嬉しそうな顔をする。
でも俺は自傷ダメージが大きすぎて彼女の顔も見ることができなくなってしまっていた。
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