第14話如月さんには勝てない
「あのりんくん。おこがましい話なんですけど、お風呂に入らせてもらえませんか⋯⋯。一日近く入れていないので、ちょっと気持ち悪くて⋯⋯」
「ん?お風呂?もちろんいいよ。お湯はもう張ってあるからいつでも入っていいよ」
「あと、その、着替えを貸してほしいんですけど⋯⋯」
両手の人差し指を合わして少し顔を赤らめながら如月さんは伏し目がちに聞いてきた。
「着替えか⋯⋯。俺の服しかないんだけど、それでもいいかな?」
「はい!十分です!むしろそっちのほうが⋯⋯!な、なんでもないです。忘れてくださいぃ⋯⋯」
そして如月さんは脱兎のごとく脱衣所に逃げていった。
焦った如月さん、めっちゃ可愛かった。
俺の脳内メモリーに永久保存されたことだろう。あの表情は一生忘れるわけがない。
そんな変態じみた思考はさっさと捨てて、如月さんが出てくる前にさっさと着替えを準備しようと、立ち上がった。
まあ、とりあえず学校のジャージでいいよな。
なんというかそれが一番安心できる気がする。
⋯⋯下着ってどうすればいいんだ。
こればっかりは俺にはどうしようもない問題だ。
だから俺は脱衣所まで行って、薄い壁一枚越しに彼女に話しかけた。
「あの、如月さん⋯⋯」
「はい。どうかしましたか?」
「そ、その。下着ってどうすればいいかな⋯⋯?」
「下着ですか⋯⋯」
如月さんは一瞬困ったような声を出したが、すぐに「うんっ」という力強い声を上げて、返答してくる。
「私の方でなんとかするのでとりあえず、上下の着替えだけ貸してもらえれば大丈夫です」
「そう?なら置いておくね」
「はい。ありがとうございます」
なんとかなりそうで良かった⋯⋯。
如月さんが家から持って来れないようなら、明日は、買いに行くしかないか⋯⋯。
本当に今月、ピンチかもしれない。
自炊のおかげか、食費はかなり安く済んでいるので、まだ少しだけ余裕があったりするが、これ以上出費がかさむと冗談じゃ済まされなくなるのだ。
まあ、考えていたって仕方ない。
死にはしないから大丈夫理論で行こう!
しばらくすると如月さんがお風呂から出てきた。
「お風呂いただきました〜りんくんもどうぞ〜」
そして脱衣所からひょっこりと顔を出してから外に出てきた、彼女の姿はなんとも庇護欲をそそるものだった。
かなりぶかぶかのシャツは大きくデコルテの部分が出てきて白い肌が露になっている。
そしてなんとも言えない征服感が俺の中で混み上がってしまって来ていた。
俺は思わず息を呑んで、自分の高揚した気持ちを抑えようとする。
すると如月さん同じシャンプーを使ったのかと疑いたくなるほどのいい匂いを
「私の残り湯であんなことやこんなことしないでくださいねっ?」
如月さんを家に連れてきてからまだ24時間も経っていないのに俺は何回この人にドキドキさせられればいいんだろう。
俺の心臓はとにかく早鐘を打っていて、このままだと寿命が短くなってしまいそうだ。
「お、お風呂、行ってきますぅぅぅぅ!」
耐えきれなかったよ、俺の心臓。
お風呂は一ヶ月間一緒にすごした時の経験が生きたのか、なんとか自分の気持ちを抑えることは出来た。
ただ問題はお風呂から出てリビングに戻った時の事だった。
如月さんが肌を見せたくないのかもと思って一応長袖のジャージも渡しておいたのだが、如月さんはそのジャージに顔を突っ込んでやけに鼻息を荒くしていた。
美少女が俺のジャージに顔を突っ込んで鼻息を荒くしているというかなり奇異な光景に思わず言葉を失ってしまう。
一体どういう状況何だ⋯⋯。
俺がリビングに戻ってきたにも関わらず、如月さんは全く気がついていないし。
このままじゃ、埒が明かないので俺は如月さんに声をかけた。
「あの、如月さん?いつまでやってるの?」
「ふぇ!?り、りりり、りんくん!?で、出てきてるなら言ってください!み、見てないですよね?」
いや逆になんで見てないと思うんだよ。
「なんか、ごめんね?」
「うぅ⋯⋯。もうお嫁さんに行けません⋯⋯りんくんが責任もって私をもらってください」
「それはいいとして、いまどうにかしなきゃいけないのは下着問題です」
「下着⋯⋯?まあ、りんくんので⋯⋯」
「上は!?」
「別に付けなくても。実際今も付けてませんし⋯⋯」
如月さんはそこで何を思ったのかTシャツの裾をもってたくし上げようとする動作を見せる。
「ちょ、ちょっと!?如月さん何をしようとしてるの?」
「え?着けてない証明をと思いまして⋯⋯」
その言葉を聞いて俺は思わず、視線の彼女の胸に向けてしまう。
確かに普段よりも形が鮮明に⋯⋯じゃない!
「そんな簡単に見せていいものじゃないから!」
「別に減るものじゃないですし、りんくん以外に見せるつもりもないので」
なんでこの人はこんな恥ずかしいことを軽々と言えるんだ!?
「じゃあ、りんくんが見たいって言ってくれる時まで待つことにします」
それはそれでどうなんだ⋯⋯?と、疑問を抱えながらも俺は今直面している問題に着手する。
「明日、買いに行こうと思うんだけど、どうかな?」
「でも、本当に私はりんくんので大丈夫ですよ?」
「俺が恥ずかしくてダメなんだよぉ⋯⋯」
「ふふっ。ごめんなさい、ちょっとからかいすぎちゃいましたね。それじゃあお言葉に甘えてもいいですか?」
「うん。じゃあ明日は如月さんの生活必需品を揃えるってことで!」
明日の予定が決まるとなんだかどっと疲れが押し寄せてきた。
「俺はもう寝ようかな⋯⋯。なんか疲れちゃった」
「じゃあ私もそうすることにします」
俺は、ソファーに横になると如月さんは「何をしているんだと」言いたげな目でこちらを見てきた。
「えっと⋯⋯何か俺の顔についてる?」
「いえ⋯⋯なんでソファーに横になっているのかなと思いまして」
「ベッドは如月さんに譲ろうと思ったんだけど⋯⋯」
「家主がそんなんでどうするんですか?もちろんベッド一緒に寝ますよ!」
「あれ、シングルだよ?」
「⋯⋯分かってますけど」
「俺たちは思春期ど真ん中の高校生だよ?」
「はい。だからこそと思いまして。まありんくんがそれ以上のことを望むならそういう事もやぶさかではないですが」
如月さんは思ったよりも頑固だったようでこうなった彼女はてこでも動かないなと思ってしまった。
「それじゃありんくん。入って来てください」
「し、失礼します」
俺はおそるおそるベッドに入る。
そしてすぐに如月さんに背を向けた。
「どうして、そっちを向いてしまうんですか」
「そ、そっち向くなんて無理だよぉ⋯⋯」
「そうですか」
そしてそこで如月さんの声はピタッと止まって、その代わりに少しだけ衣擦れを音が大きくなった。
「えいっ」
そんな可愛らしい声とともに俺の脇腹に俺のものではない手が通っていった。
如月さんの手だ。
「ちょっ。き、如月さんっ⋯⋯」
「どうしたんですか、りんくん?」
いろいろ当たってる⋯⋯。
特にやばいのがさっき何も着けていない宣言をされたノーブラである胸だ。布一枚越しに感じるそれは至福の感触で、俺の背中で形を変えているのが感じられるほどであった。
「こっち、向いてくれますか?」
耳元で囁かれた艶めかしい声に俺は反射で首を縦に振った。
この感触を味わっていたいという気持ちもあるがそれでは俺の理性がもたない。
大人しく如月さんの方を向いておくのが正しい選択だろう。
そして名残惜しい感触を残して如月さんは離れていく。そして俺は体を反転させて如月さんの方向を向いた。
シングルベッド。やはり狭い⋯⋯。
離れたと言っても俺と如月さんの間にある距離は30センチもあるか分からない。
「りんくん。そのわがままかもしれないんですけど聞いて欲しい事がありまして⋯⋯」
これは絶対に聞いてはいけないと俺の脳が警鐘を鳴らす。
「ダメ」
「腕枕して欲しいんです」
俺の否定の声なんか知らないと言わんばかりに如月さんは強行突破してきた。
「し、しないからね?」
すると暗闇の中でもハッキリと分かるほど如月さんは落ち込んだ表情を見せた。
「⋯⋯。あぁ!もう分かったよ!するよ!」
「ふふっ。りんくんは私のこの表情に弱いんですね。やっぱりりんくんはとっても優しいです」
騙された⋯⋯。
でも如月さんは俺が腕を出した瞬間にはもう頭をそこに乗せてきていた。
すっごいいい匂いがする。
「これでよく眠れそうですっ!」
俺は全然眠れなさそうだよ⋯⋯。
「それじゃあ、りんくん。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
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