第10話各停にすればいいのに……そうでもないか。

今日は和泉さんと遊びに行く日だ!

水着も持った!お金も平気!たぶん今の洋服もダサくはないだろう……。

母に選んで買ってもらったものだし、これ以外だと悲惨になる気しかしない。

髪にワックスをつけるなどして少しでも身支度を整えていきたいところなのだが、生憎行き先がプールなので、そういったものはつけてはいけないのだ。

一応持っていきはするのだが……。


それじゃあ、そろそろ家を出るか……。集合は駅前に八時と少し早めだが、彼女を待たせるわけにはいかないので、集合の約三十分前にはついているような時間に家を出た。

夏というのは朝でも身に応える暑さを持っていて、薄着で出てきているのに、少し長い距離を歩くだけで、じんわりと汗がにじみ出てくるような嫌な感覚を覚える。

駅までは約二十分。できればもっと駅近な家がよかった。

まあ、そしたら家賃とかが跳ねあがっちゃうので両親に迷惑が掛かってしまうのだが……。

贅沢は言わないようにしよう。一人暮らしをさせてもらっているだけで十分贅沢なのだから。


有線のイヤホンで音楽を聴きながら歩くこと二十分。やっと駅に着いた。

駅前には社会人の姿がちらほらとあって、そんな人たちがため息を吐きながら目の前を通り過ぎていくのを見ていると、大人になりたくないなぁ……。なんて思ってしまう。

俺も将来は社畜にでもなって、あんなふうに働くのだろうか。やだなぁ……。

俺の見る未来が少し暗くなった瞬間だった。



駅の前のモニュメント前で待っていると突然肩を叩かれた。

ふり返って少し視線を下ろすとそこには小柄な彼女――和泉さんがそこに立っていた。


「おはよう!りんたん!」

「おはよう和泉さん」

「りんたん……」


どうしたのだろう。何か変なところあるかな……?かなり心配になってきた。


「その服とっても似合ってるね!かっこいいよ!」

「あ、ありがとう……」


褒められるって恥ずかしいな……。褒められることなんて、せぜいテストでいい点数を取った時に先生に褒められるくらいなのだ。


「そ、その和泉さんも……その服とっても似合ってるよ!」


和泉さんの服は普段の印象とは打って変わって、大人っぽい雰囲気を持ったものだった。

上は黒のキャミソールに膝くらいまである赤い花柄で薄手のカーディガンを羽織っていて、下にはデニムパンツをはいていた。

大きく開かれたデコルテの部分がとても扇情的で、白くきれいな肌や鎖骨が露になっている。


「それじゃあ、遅れちゃいそうだし、早くいこっか!」


そう言って和泉さんは俺の手を持って駅の構内まで引っ張って行く。

その様子はやっぱり子供っぽくて少しだけ安心した。


東京方面へ向かう電車はかなり混んでいたので、俺は「各駅の電車でもいいよ?」と提案したのだが、和泉さんはすぐに首を振って「りんたん!今日は予定がいっぱいなんだ!だから時間はたくさんあった方が良いから急行で行こう!」と意気揚々に急行電車へ乗り込んでいった。


「きっつ……しかも暑いし……。和泉さんは大丈夫?」

「う、うん。へいき、だよ……」


和泉さんはいま電車のドアと俺に挟まれるような感じになってしまっている。

何とか体には触らないようにしているが、いかんせん顔の距離が近かったりするので首のあたりに彼女の息がかかったりするのがくすぐったい。。

和泉さんの顔も若干赤くなっている。やっぱり電車の中が暑苦しいのだろう。


「和泉さん、もう少しだから我慢してね」

「ひ、ひゃい!」


ついに和泉さんはうつむいてしまった。

辛そうだ……。やっぱり各駅電車に乗っておくべきだっだんじゃないかな……。

目的地まではまだ若干遠いが次に止まる駅は人がかなり降りていくところだ。

そ個まで耐えれば何とかなるはず。


という若干見えた希望の光の前にはだんだんと暗雲が近づいてくるようで大きな揺れが電車を襲った。

何とか揺れを耐えるために腕をまげてドアでバランスを取ろうとするとその腕が和泉さんと頭の後ろに入っていってしまった。

簡単に言えば、俺が和泉さんの頭を抱えるような感じでハグをしているということ。

早く腕を抜かないと……。そう思っている俺の脳に反して俺の身体はなかなか動こうとしない。

なぜかって?和泉さんの髪からめっちゃいい匂いがするからだ。

いまなら、変態とかそういう暴言をいくらでも受けれる気がする。

それほどまでに彼女に魅了されてしまっている。


おそらく時間にすれば、ほんの一、二分。

だけど体感的には数十分、彼女の頭を抱きかかえていたんじゃないかと思う。

そしてやっと駅に着くと大量の人が電車から降りていった。

大きくできたスペースを見て安堵しながら、俺は彼女にすぐに謝罪を入れる。


「ごめん。和泉さん……。嫌なことしちゃって」


和泉さんは耳まで真っ赤に染め上げられてしまっていた。


「う、ううん。大丈夫」


少しだけ目がうつろになっている気がする。


正確には恍惚とした表情になっているだけなのだが、それを知るよしはない。


――――――――――――――――――――――――――


――もあside


電車に入ったら想像以上の満員電車だったけど、りんたんと今日一日を満喫するためには、これくらい必要だよね!


そして電車のドアが閉まる。その途端に一気に内側から圧力がかかって、ドアの方まで、追いやられてしまった……。

りんたんも私と一緒に外側に追いやられてしまったようだ。

するとりんたんは突然ドアに手を着いて、ドアとの間にスペースを作ってくれた。

やっぱりこの優しさがりんたんのいいところだよね。

もうちょっと寄ってきてくれても私としては良かったんだけど……。というか、もっと寄ってきてほしい。

でもこれはこれでりんたんの匂いが……。って私は変態か。

でもほんとにいい匂いするなぁ……。

なんだか顔が上気してる気がする。

りんたんにばれてないよね?


「和泉さん、もう少しだから我慢してね」


ひゃ!?りんたんの声が耳元に!しかも大きな声を出さないようにこそこそと話しかけてくるもんだから、吐息がそのまま私の耳に……!?

くすぐったいし、しかも変な声を出してしまったから恥ずかしいよ……。


すると突然大きな揺れが電車を襲った。


その反動か、急に目の前にあったりんたんの胸が肉薄した。

そして、頭を抱えられた。


え?まって?どういうこと?今どういう状況?

真っ暗になった視界からわかることはりんたんの匂いがものすごく強くなったことだけだ。

ん?りんたんの匂いが強くなったってことは……?


――もしかして、今りんたんに抱きしめられてる!?


嬉しい!でも……恥ずかしいよぉ……。

しかもりんたんがなかなか離れない。

やばいよぉ。なんだか脳がだんだんととろけていくみたい……。

なんか頭がぼーっとしてきて……。

あっ、りんたん離れちゃった。


「ごめん。和泉さん……。嫌なことしちゃって」

「う、ううん。大丈夫」


なんで離しちゃうのぉ……。もっと近くに居たかったのにぃ……。



――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき失礼します。


待って和泉さん可愛すぎん?

作者本人が好きになりそう。


和泉さん可愛いと思ったら星よろしく!

ごめんなさい調子乗りました許してください。

更新遅れて本当に申し訳ないです。

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