第6話紡ぐ言葉と優しさの形
暑さが身に応えて、俺ははっと目を覚ました。
「おはようりんたん。よく眠れた?」
俺は今ベンチに横たわっている。つまり上を向いているということだ。
でも、俺の視線の先には和泉さんの顔がある。
頭の上にあるのはおそらく和泉さんの手。その手は俺が目を覚ました今でも、絶えずに動いていて、俺の髪を優しくいじっている。
それでいて後頭部にはベンチとは思えないほどの柔らかい感触が。
これは間違いなく、和泉さんに膝枕をされているということだろう。
脳がだんだんとはっきりしてくると、恥ずかしさがますます大きくなってくる。
だけど、俺の頭は和泉さんによってがっちりとホールドされてしまっていて、頭を動かすことさえ
「あの……和泉さん?こうしてもらえるのは嬉しいんだけどそろそろ……」
「そろそろ……?」
離してください。というのはせっかく厚意でやってくれている彼女に対して失礼な気がして口にできなかった。
「ごめん。なんでもない……」
すると彼女は満足そうにまた手を動かし始める。
「あのさりんたん。私、一つ謝らなきゃいけないことがあるんだよね」
……?和泉さんに謝られるようなことをされた覚えは特にないのだが……。
「学校。もう終わっちゃった♪」
「え?」
聞き間違いだろうか。状況がうまく把握できない。おそらく俺の今の表情は阿呆と表現するのが一番正しいであろう。
「ごめん。もう一回言ってもらってもいい?」
「だ・か・ら、学校もう終わっちゃった」
聞き間違いじゃなかったー!
ていうかこんなことになってしまった原因はと言えば彼女の膝枕で寝てしまった俺の責任なのでは!?むしろ俺が謝らないといけないんじゃ!?
そんな自責の念に駆られて、俺はプライドも何もないただ膝枕されている状態で彼女に謝った。
「いいよいいよ。お互い様ってことにしよ?」
「うん。そうだね」
それで俺はいつまで和泉さんに膝枕されてればいいんですか!?
そんな俺の無言の訴えに和泉さんが気づくはずもなく、和泉さんは子供に何かを言い聞かせるような優しい声音で、虚空に向かって言葉を紡ぎだした。
「りんたんはさ、何か嫌なことがあると、いろいろため込んじゃう人なのかもしれないけどさ、そういうものってだいだいいつかどこかで爆発しちゃうから、そうなる前に誰かを頼ってほしいんだ。別に私じゃなくてもいい。本当に頼れる人を一人でいいから作るの。絶対に信頼できる人を······」
その言葉は俺の心に優しく溶けていった。
そして俺が求めていたもの、それは心の拠り所だったんだと。
「ねぇ、和泉さん」
「何?」
俺はそこでゆっくりと身体を起こして和泉さんの方に身体を向けた。
和泉さんはゆっくりと微笑んで、俺の言葉を待っている。
言葉を紡ぎだそうとしても何も出てこなくて出てくるのは抑えがたい感情の数々。
「和泉さん······おれ······辛いよ」
俺の目からはゆっくりと涙が滴っていく。
「頼れる人もいない。安心出来る場所もない。それがただただ辛くて、哀しいんだ」
和泉さんはうんうんと首を縦に振って何も言わずに肯定を示してくれる。
「でも逃げちゃいけなくて、ちゃんと立ち向かわないといけないはずなのに、俺からは何も言えなくて······」
だんだんと自分の頭が何を言っているのかが自分で理解出来なくなってくる。
でも俺の口は止まらなくて、俺の意思に反して勝手に言葉を紡ぎ続ける。
「好きなのに、好きだったのに······!すべてを裏切られたような気持ちになって······!」
――もう何も信じたくなくなった。
人も、学校も、この世界も。
俺の思い通りになることなんてなくて、全て神さまの気まぐれで、誰も俺を助けてくれるなんて思ってなかった。
「ありがとう、和泉さん。本当にありがとう······」
俺は涙ながらに感謝の言葉を口にした。
そしてゆっくりと首に手を回されて、和泉さんの胸に抱え込まれる形になる。
「辛かったね。りんくん。それで私を信頼してくれて、ありがとう」
何も分からないはずなのに。
なのに彼女は優しく俺の事を慰めてくれて、俺の言葉を受け止めてくれて······。
もう涙が止まらなかった。
「うん。りんくん。今はたくさん涙を流して、言いたいことをなんでも言ってね。全部わたしが受け止めてあげるから」
俺は彼女の背に手を回し、何も言わずにその優しさを享受し続けた。
そんな優しくて小さい彼女の胸の中はとても大きく感じた。
――――――――――――――――――
あとがき失礼します!
数々のコメントありがとうございます!
コメントは本編の今後の内容に関わるものもあるので完結後に一気に返信させてもらいます!
今のところ伏線をいくつか貼っているので割と今後の内容を推測することもできます!
なので考えなんかをコメントに是非残していってください!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます