第2話まだ初日だよ······?
彼女が俺の告白を受けたと認知するまでに
学校一の美少女が俺の告白を受けたのだ、どう考えてもおかしなことだろう。
俺の頭の中はこんがらがって、
「えっと……何かの間違いじゃないんですか……?」
なんて俺は口走ってしまった。
「……?早川くんが告白してきたのに何を言ってるんですか?」
「す、すいません。じゃあ、その、付き合ってもらえるっていうことでいいんですか······?」
「だからそう言っているでしょう?」
俺は密かに心が高ぶるのを感じた。
憧れになりつつあった彼女とお近づきになることが出来たのだ。嬉しくないわけが無い。
「その······よければ今日は一緒に帰りませんか?」
その魅惑の提案に俺は即答で「はいっ!」と肯定の意を示した。
太陽の傾きかけた空の下。高校生の男女が肩をよせあい、共に帰る情景は何度も妄想した事があった。でもまさか俺の人生で実現することがあるとは思ってもいなかった。
自然と頬が緩もうとするのを必死に抑え、隣を歩く彼女の凛々しい顔を見るたびに、自分の顔が熱を帯びる。
現実味があまりにもなさすぎて、俺は自分の頬を思いっきり引っ張った。
「痛い……」
すると如月さんは俺の半歩前を歩いていた体をくるっと翻し、首を傾けた。
「ごめんごめん。なんでもないよ」
彼女が振り向いただけでなんだかいい匂いがふわっと広がる。
その匂いを知覚してしまうだけで俺の鼓動は加速し、俺に幸福感をもたらしてくれる。まるで魔法のようだ。
「あの、早川くん?コンビニに寄ってもいいですか?」
「あ、うん!もちろんいいよ!」
彼女は歩調を少しだけ速めて、コンビニに入っていった。
何も考えずに俺の家のある方向に歩いてきてしまっていたのだが、先に俺が彼女を家まで送るべきじゃないのだろうか。
さすがに付き合った初日に一緒に帰ったっていうのに一人で帰らせるなんてことがあっていいわけがない。
別に家の方向聞いたっておかしなことじゃないよね!か……彼氏だし……。
そんなことを考えていると早速彼女はコンビニから出てきていた。
「如月さん?あの家ってどっちの方向?よければ送るけど……?」
「いや、大丈夫です。私のことは気にしなくていいので」
気にしないでって言われてもなぁ……。もし何か身に危険があっても困るし。
でも彼女の無言の圧力にやられて、気の強い性格とは言えない俺はあっさりと折れて、家路についてしまった。
いつもは教室で誰とでも分け隔てなく話している彼女は、俺に話を振ってくれるわけでもなく、この雰囲気を楽しんでいるかのような微笑を浮かべている。
そんな彼女は俺の半歩前を歩いていて、俺よりも身長が10㎝くらいは低く、時々俺がいるかどうかを確認するように振り返って俺を見上げてくる動作には抑えがたい愛らしさを感じた。
そんな中、俺は少しだけ違和感を覚えていた。
それはなにかというと彼女の足取りには不安の様子が全く見られないことだ。
まるで俺の家がどこにあるかを知っているかのような。
俺は道案内もしていないし、半歩後ろを歩いているから、俺の家なんてわからないはず。なのに彼女は俺が普段通っている道を正確に歩いて行っていたのだ。
「如月さんって俺の家がどこにあるとか知ってるの……?」
おずおずと尋ねると、
「なんとなく視線とかで推測していただけで、どこかは知りませんよ?」
納得……はできないけど、今は気にするのをやめよう。
俺のアパート。というよりは両親が借りてくれたアパートの前で俺は足を止め、如月さんに別れの言葉を告げる。
「あんまり会話はなかったけど楽しかったよ。その……彼氏彼女として、これからよろしくね」
少し名残惜しくもあるけれど、もう家についてしまったものは仕方ないし、如月さんを引き留めるわけにもいかない。
だから俺はそのまま振り返って、部屋に戻ろうとする。
「まだ……一緒にいたい……」
その鈴を転がしたようなきれいな声音は明らかに如月さんのもので、鼓膜を通して脳髄まで溶かしていってしまいそうなほどの甘さがあった。
学年一の美少女の彼女に一緒にいたいと言われて、断れる男がいるわけがない。
俺は少し悩んだ末に自分の部屋に通すことにした。
「綺麗にしてるんですね。お父さんとお母さんはいないんですか?」
「実家から高校に通うのは遠くて厳しかったから、アパートを借りてくれたんだ」
「では……一人暮らしということですか?」
「まあ、そういうことだよ」
いきなり男が一人暮らしをしている部屋に入れるのはまずかったかなぁ……。
「先ほども言いましたが綺麗にされてますし、まったく嫌悪感などは抱いてないですからね?」
「え、如月さんってエスパーか何か……?」
「いえ。ただ早川くんの顔にそう書いてあったので」
如月さんはふふっと笑みを浮かべながら、ゆっくりとソファーに腰を下ろした。
見れば見るほど彼女の所作や容貌。そのすべてが綺麗で、つくづくこの無機質なアパートの一室には似ても似つかなかった。
俺が誰かをこの家に呼ぶ日なんて来るとは思っていなかったから、リビングには今如月さんが座っているソファーが一つしかない。
ずっと立っているのも足が疲れてくるので、カーペットの上に腰を下ろす。
「早川くんがソファーを使ってください」
如月さんは申し訳なさそうに、ソファーから立ち上がり、席を譲ってくれる。
「いいよいいよ。如月さんはお客さんなんだし、使ってよ」
「だったら……その、よければ一緒に座りませんか……?」
嬉しい。嬉しくはあるんだが、緊張が膨れ上がっている上に、とてもではないが彼女の隣に俺なんかが座ってもいいという自信がない。
だが、彼女はあまり気にしていそうな様子はなく、自分の隣に人一人が座れるスペースを作ってくれていた。
彼女のやさしさに甘えるように俺は腰を下ろしたが、俺はひじ掛けの方に体を寄せて、こぶし二つ分くらいのスペースを開けて座った。
「「…………」」
無限にも感じる無言の時間は俺の精神を蝕んでいくようだ。
「て、テレビでもつけよっか」
俺は助けでも求めるようにリモコンに手を伸ばし、テレビを点けた。
でも夕方の時間帯なんてどこの局もニュースしかやっていなくて、話のネタに足るものなどはない。
「別に焦らなくても大丈夫ですよ?私は早川くんの隣にいるだけで幸せですから」
なにを急に言い出すんだ!この人は……。
羞恥で今にも顔から火が出そうだ。
「顔、真っ赤になってますよ?」
普段の学校の様子からは想像もできないようないたずらっ子の表情を浮かべ、彼女は俺をからかってきた。
制服の襟に顔を隠すように俺がうつむくと、彼女は俺たちだけの時間を作るようにテレビを消す。そこには先ほどまでの緊張感はない。
だけど、如月さんの衣擦れの音や小さく吐かれた吐息から、この部屋は確かな緊張感を帯びていく。
俺が顔を上げた頃には如月さんと俺の距離はほぼゼロになっていて、お互いの体温を共有するように手を重ねていた。
お互いの顔の距離も近くなっていて、俺は瞬く間に彼女に魅了されていた。
近くで見て改めてわかる、きめ細かな肌やふんわりと香る髪の匂いに一つ一つが神の産物とでもいえるような整った鼻梁。そして確かなぬくもりと
そんなものを間近に感じて、彼女への愛がまるで水が水蒸気になるときのように大きく膨らんだ。
彼女のうるんだ瞳はとても扇情的で、お互いの瞳に
ゆっくりと唇を離すと如月さんの頬は上気していて、ほんのりと朱に染まっている。
そんな彼女を見て、俺は後悔をした。
――やってしまったぁぁぁぁぁ!
付き合ったその日。なんなら二時間くらいしか経ってないのにキスをしてしまった……。
「ごめんっ!如月さん……いきなりキスなんてしちゃって……」
「……?なんで謝るんですか?」
「だ、だって付き合ったその日にキスとか、嫌でしょ……?」
すると如月さんはゆっくりと首を振った。
「そんなことないですよ。ほかの女の子はわからないけど少なくとも私はうれしかった」
その言葉を聞いて、俺は胸をなでおろす。
「ありがとう。俺もその言葉が聞けて安心したよ。それでも、いきなりしちゃって本当にご――んむっ!」
「ごめんね」とは言わせないよとでも言うように彼女は俺の口をふさぐ。
しかもさっきよりもより情熱的で、俺を求めるような激しいキスだ。
そして、宙ぶらりんになっていた両手を指を絡めるように合わせてきた。
俺の脳は完全にショートして、抵抗の意思など
頭がくらくらしてくるほど長い間、俺たちは唇を合わせたままだった。
「はぁはぁ……如月さ「皐月」
「皐月って呼んでください凜くん」
名前を呼ばれるだけで、心臓の奏でる一定の音色が高鳴るのを感じる。
あんなにすごいキスまで交わしたのに。
「皐月……」
「うん」
俺の声に呼応して彼女は嬉しそうに微笑んでくれる。そこには年相応のかわいらしさが残っていて、彼女のいろんな表情を知りたいという征服感が俺をだんだんと支配していた。
「皐月」
「うん」
そしてまた軽い口づけを交わす。
そこには二人を止めるものなど何もなかったのだ
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