罰ゲームで告白した彼女は学校一の美少女であり学校一の美悪魔でした

らららんど

第1話罰ゲーム

「一年前からずっと好きでした!僕と付き合ってください!」


そして空白の間が生まれる。


「はい。私でよければ」


◇◆◇


俺は早川凛。どこにでもいる普通の高校生だ。周りの人よりも少し友達が少ないだけで。

時は学校の昼休み。

購買でパンを購入し、いつも一人でご飯を食べている屋上へ向かう。

うちの学校は高い柵で仕切られているおかげか生徒が誰でも屋上を使用することができるのだ。

春先に学校に入ったばかりの一年生はこぞって屋上を使おうとするが、その競争率の高さと風の強さだったりから、夏になるころにはほとんど屋上を使おうなんて言う奇特な生徒は見られない。


――俺以外には……。


でも今日は先客がいるようでわいわいとした騒がしい声が外にまで届いていた。

あ~そういえば、俺のクラスのトップカースト連中が今日は屋上に行こうなどと言っていた気がしなくもない。


どうするか……。

屋上はそんなに狭いわけではないから、陰でひっそりと食べていれば別に目をつけられることもないだろう。

と俺の中で答えを出し、屋上につながるドアを開けた。


「あーっ!りんたんだ!」


目も合わせていないのに、すぐに気が付かれてしまった。

今、俺の名前を呼んだのは和泉いずみもあである。

誰にしても優しく、あまりカーストなどを気にしていない小柄で活発な少女。

バレー部に所属しているらしいが生憎、試合や練習を見に行ったことがないからバレー部ではどんな感じなのかは知らない。だけど陽気な彼女のことだから、きっとムードメーカーにでもなってみんなを盛り上げているんだろう。


俺は軽く和泉さんに会釈を返して、彼女たちトップカースト組がいる方とは逆側に向かおうとする。


「りんたんも一緒に食べようよ!」


その声に振り向いて和泉さんを見ると、単純な親切心から出てきたものなんだなと分かってしまって断るのも忍びなく思ってしまう。

だが問題は彼女以外にある。


その他のトップカーストの面々が俺を快く迎えてくれそうな表情をしていない。


それもそうだ。俺みたいなボッチ。つまり最底辺の人間が彼らに混ざってご飯を共にするなどおこがましいことなのだ。


すると和泉さんは俺の視線がほかの三人に行っていることに気が付いたようで、「りんたんがはいってもいいよね?」などと聞いてしまっている。

彼らも面と向かって断るわけにはいかないらしく、渋々といった感じでうなずいていた。

仕方ない……。昼休みの間だけだから我慢していよう。

正直ほとんど話したことのない奴らだから怖いんだよな。

そんなトップカーストの面々は菅原晴翔すがわらはるとを中心に円滑でかつ楽しそうに話が進んでいた。

彼は茶髪で高校生にしてピアスの穴も開いている。ちゃらちゃらとした印象を受けるが成績は良く、さぞ教師たちも手を焼いていることだろう。そして時々関西弁である。


そして彼の隣に座っているのは桜川樹。

菅原くんと彼はいつも一緒にいる印象を受けるが、彼は菅原君とは打って変わってしっかりとした黒髪でピアスの穴も開いていない。少し天然なところがあるのがかわいいらしく、菅原君よりも人気があるらしい。


当の本人たちはそんなことは全く思っていないようだが……。

そして、さっきからずっと俺にきつい視線を送ってきていた美人さんは皆川あおいだ。


やっぱり俺がこのグループに混ざってしまっていることが気に食わないらしい。

俺が話について行けないままぼーっとパンを口に含んで咀嚼していると、菅原くんが「ゲームをしようぜ!」と急に言い出した。

彼の手に握られているのはトランプでそれを使って何かのゲームをするらしい。

友達がいなかったが故にあまりトランプで遊んだこともないから勝てる未来が見えないのだが……。


「ただやるだけじゃあつまらないから何か罰ゲームをつけようぜ」


おい、桜川……そうゆうのマジでやめてくれよ……。


「ん~じゃあ、好きな人に告白っちゅうのは?」

「重い気がするけど、まあいっか!」


告白ってそんな軽いノリで言えんのかよ……。トップカースト怖え……。きっと告白が失敗するとか考えたことがないんだろうなぁ。


「じゃあ七並べしよう!」

「七並べってハル子供っぽい〜!」

「うるせっ。もあの方が子供っぽいやろ!」

「む〜っ!そういうこと言わないでよ!小さいの気にしてるんだから!」


やっぱり気にしてるんだなと思って少し頬が緩んでしまう。

というか意外と菅原くんってかわいいところあるんだな。


「それじゃあ始めよか。早川くんももちろんやるよね?」


ニコニコとした表情が逆に怖く、俺はゆっくりと頷かされてしまった。



◇◆◇


結果は惨敗。

最初から俺の手札には出せるカードが一枚もなく、あっけなく負けてしまったのだ。

仕組まれているんではないかと言うほど酷いものだった。

俺の罰ゲームが確定してからは皆の真剣な表情は一気に緩み、ただこのゲームを楽しんでいるという感じになっていた。


冷汗が止まらない。ドッキリでした~!とか言ってくれないかな。もし本当に告白するんだったら俺は間違いなく痛い目を見ることになるんだが。


なぜなら俺が密かに想いを寄せている人は、学年で一番とも呼ばれる美少女の如月皐月きさらぎさつきだからだ。

そんな彼女と俺が付き合う?そんなことができるはずがない。

彼女の色恋の話なんて聞いたことがないけど、どうせイケメンで金持ちの彼氏が一人や二人いるんだろう。

そんなこんなで自分の不運を呪っているうちにゲームはすでに終わっていた。


「じゃあ、早川くんが罰ゲームな。今日の放課後やで」

「え、ほんとにやるの……?」

「当たり前やろ?事実、そこにいるあおいだって罰ゲームで告白したやつが今の彼氏だし」


俺がおそるおそる皆川さんのほうへ視線を向けると、俺のことをキッとにらみつけて「まあ、あんたなんかに告白されて、OKする女子なんていないでしょうけどね」と突き放すように告げてきた。

なかなかにきついことを言ってくるな……。

まあ事実なんだけど。


「そんなことないよ!りんたんのことを好きな女子だってきっといるよ!」


和泉さん……。なんて優しい人なんだ。


「もあ、人をかばうのはいいけど、そういうのはすぐ勘違いされるから気をつけなさいね?」


皆川さんは和泉さんにそう告げて、俺を一瞥いちべつするとすぐに視線を戻した。




俺は午後の授業中。ずっとうわの空で、緊張と焦りで早まっていく鼓動を止められなかった。

そしてついにやってきてしまった放課後。

頭が沸騰してしまいそうなほど混乱しているのに、手足はとっても冷たくて生きている心地がしない。俺の人生の最初の告白。その相手は学年一の美少女。相手にされるわけがないけど、中途半端にやって後悔はしたくない。だから俺は勇気を出して如月さんに話しかけた。


「あの、如月さん。ちょっといいかな」

「……なんですか?」


如月さんは微動だにせず、本当に表情筋が生きているのかと疑いたくなるようだ。

断られることはわかっている。けれどやっぱり怖い。

それでも俺は無理やり口を動かして彼女に気持ちを伝えた。


「一年前からずっと好きでした!僕と付き合ってください!」


「はい。私でよければ」


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