第8話
王太子が学園で男爵令嬢と出会い、絆され、傅くようにして愛を囁いているのは知っていた。だが、いくら魔力量が豊富でも男爵令嬢が王妃になどなれる筈もない。だからこそ学園内だけのこと、と我慢に我慢を重ねていたのに。二人が寄り添い合う姿を見かける度、太いロープが一本一本ほぐれて切れていく様に、セレナの心は死んでいった。そして、ついに先程最後…細く辛うじて繋がっていた最後の一本は切れてしまった。
もうセレネにはこの国の為に守りたいと思うものはなかった。
「陛下にお尋ねします。……何故殿下に私との婚約の意味をお話いただけなかったのでしょうか?」
話していたら、少なくともこんなにも大勢の前で茶番劇を繰り広げる様な事は無かった筈だ。穏便に婚約解除を進める方法はいくらでもあったのだから。
苦味を噛み潰したような顔で黙って睨み付ける王に、冷ややかな視線を返し、セレネは小さくため息を吐く。
「三度ですわ」
「? 何がだ?」
「私が学園に入学してから今日までに魔力切れで倒れた回数です」
「何?」
魔力切れとは、文字通り体内の魔力が無くなる事だ。軽い目眩、倦怠感に始まり、限界まで到達すると時には死に至る事もあるという。
「最初は半日程で回復することが出来ました。しかし、二回目は三日程、三回目に至っては十日も寝込む羽目になりました。当たり前ですわね。どんなに大きな魔法を使っても、倒れるどころか眩暈すら起きませんもの。わたくしの魔力が生成する端から使われてしまって、中々回復が叶いませんでしたわ。他人の魔力でちやほやされる気分はどうでしたかしら殿下?さぞかし良い気分だったでしょうね」
学園に入学し、授業の課程において戦闘訓練として魔力を使う事はある。最初は低級から始まるが、調子にのって魔力の大きい魔法を何度も使い、魔力切れを起こす生徒は毎年何人も居た。それなのに王太子はどんな大きな魔法を放っても平然としており、故に畏敬の念を集めていた。
「三回目にわたくしが寝込んでいる時、渋々の
ふふ、とこの場で初めてセレネが笑ったのは、表情にそぐわない言葉でだった。笑みに狂気を感じ周囲の人々の顔が青褪める。
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