第6話

「バカな!!何故貴様から魔力を感じる!?」


 そう。先程まで……婚約破棄の宣言があるまではセレネから魔力を感じることなど無かった。何故なら彼女は『能無し』だからだ。それが今会場全ての人間に感じられる。セレネから放たれる魔力のうねりを。


「や、やめろ、黙れ!!話してはならん!!」


 何故、と問われたセレネはちらり、と国王を見た。セレネが何をしようとしているのか気付いた国王が慌てて止めようと声を張り上げたが、これで全てを終わりにするつもりのセレネは、国王の命にも構わず口を開いた。これまでつぐまねばならなかった分まで。


 国王の咎める声に騎士がセレネを拘束するために動こうとするが、セレネの魔力の威圧を受けて近づく事すら出来ないでいた。


「今から十六年前の事です。皆様御存知の通り我が国では魔力の高い者が優遇され、魔力が小さい者、無い者は蔑まれ、時には平民以下……奴隷扱いされることすらありました。そんな中、生まれた王家の第一子は……ほぼ魔力を持っておりませんでした」


「ばっ、ばかなっ!?」


 それでは昨日まで、いや……ついさっきまでこの学園で一番の魔力を誇っていたのはなんだったのか。それではまるで王太子の方が『能無し』ではないか。


「初めは妃殿下の不貞が疑われましたが、生まれた子は紫紺の髪にトパーズの瞳。王家特有の容姿をもっていらっしゃった」


 王族は皆生まれた時は紫紺の髪とトパーズ色の瞳を持って生まれる。長じて臣に下る王子は、色封じの魔法を施される為に、その者と契ったとしても生まれてくる子は紫紺と黄の色彩を持つことは絶対に無い。故に生まれた子供が紫紺の髪とトパーズの瞳であれば、王家直系である事は間違いない。


「王子の魔力を子細に調べた結果、魔力は全く無い訳ではなく、魔力を溜める器官に欠陥があることがわかりました。器官にまるで穴が空いているかのように、魔力が溜まらなかったのです。身体が作っただけ魔力は外に流れ出てしまう、ようは垂れ流しですわね。御殿医殿と魔導師団長が手を尽くしたものの、治療法も対処法も見つからなかった」


 指先に小さな炎を灯す程度ならともかく、魔法として魔力を行使するには、ある程度溜めてからでなくてはならない。このままでは、王子は魔法を使いこなす事が不可能といえた。


「そんな中、たったひとつ、もしかしたら上手くいくかもしれない方法を魔導師団長が見つけました。ただ、それは禁呪といってもいい方法でした。何故なら他人の魔力器官を結びつける事によって魔力を奪い続ける事だったからです」


 呻き声をあげ、国王が座り込む。自分が何をしたのか知られてしまったからだ。


「国王陛下にとって都合の良いことに、王太子殿下が生まれる一月ほど前に生まれたとある侯爵家の娘が、非常に豊富な魔力を有している様だと報告がありました。陛下は侯爵に契約をもちかけました。娘を確実に王太子妃、いずれは王妃になれるよう王太子の婚約者にしてやるから、娘の魔力を捧げよ、……と」


 シン、とホールが静まる。セレネの語る内容が衝撃過ぎて皆声がでないのだ。

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