第4話
「……では、最後に一つお伺いしてもよろしいでしょうか?殿下はどのような経緯でわたくしとの婚約が決まったかご存知でいらっしゃいますか?」
「フン、知らんな。どうせ欲に染まった前侯爵が王位を平和的に簒奪しようとでもしたのだろう?残念だったな。俺は貴様らの穴だらけの策略には嵌まらん」
パキン……と、セレネの心の奥底で何かが壊れる音がした。穴だらけの策略で嵌めようとしたのは彼らの方ではないか。
「わたくしのことのみでしたら我慢も出来ますが、亡き父への侮辱は見過ごすことは出来ません。理由については承服出来かねますが、婚約破棄、了承いたしました。ただし……」
「ただし?なんだ?」
「わたくしと殿下との婚約は、『魔導契約』に基づいております」
「!? なんだと!?」
「ですので、こちらを解除しないことには、新たにそちらの令嬢と婚約をすることは出来ませんわ。……それも御存知ないのですね」
通常『魔導契約』とは絶対に破ってはいけない決め事を交わすときに行う契約である。書類を必要としないのでいつでも締結・破棄は可能だが、破棄した場合のペナルティは通常の契約よりも遥かに重いとされている上に、破棄した瞬間自動的に発動される。今回の場合王子から言い出したことにより、ペナルティがあるならば王子が受けることになる筈だが……
「ご心配せずともわたくし達の婚約に関しては、『罰則』は設けておりませんわ」
「お前の言う事だ。今一つ信じられん。しかも貴様には魔力が無いではないか!」
「信じる信じないは殿下のご自由です。契約そのものは亡き我が父と陛下の間で交わされたもの。ですので当然陛下も御存知ですが、確認されてからでは間違いなく破棄することは不可となるでしょうね」
国王は王太子が婚約破棄しようとしているなどと知れば、間違いなく反対するだろう。イーサンは以前から何度も国王に婚約の破棄を申し出ていたが叶わなかった。しかも理由をはっきりと教えて貰えない。これはもしやなにか前侯爵に弱みを握られているのでは?と常々思っていた。しかし、それは国王の事。自分には関係ない筈だ。そう勝手に考え、今回の宣言をしたわけだが。
魔導契約は先程述べた通り絶対に破ってはいけないもの。故に一度破棄してしまったら二度と同じ契約は結べない。
「契約に関しては王家側のみに撤回、破棄の権限をもつと決められております。故に破棄に私の魔力は必要ありません。殿下が宣言をし、私が受諾するのみとなります」
「……本当に罰則は無いのだな?」
「『罰則』は御座いません。『罰則』は、です。ただひとつ契約に明言されているのは、……『契約の破棄後は破棄前の状態に戻る』、……のみですわ」
「? ……まあ、よかろう。どうすればいい?」
破棄すれば破棄前の状態に戻るなど当たり前だ。それをわざわざ明文化するなどどういう意味だ?
一瞬そう考えたが、ぐずぐずしていてはこの後国王が祝辞を述べる為にホールにやって来る。もしかしたらこの騒動を見て、使用人の誰がが呼びに行っている可能性もある。
イーサンは良く考えるべきだったのだ。何故二人が生まれてすぐに契約が結ばれたのか。何故王家のみに権限があったのか。何故未来の王妃の座にしがみついていた筈のセレネがあっさりと破棄を受け入れたのか……
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