第5話 上下カンケイ

「よぅ、ただいまー」


 明るい声でそう告げたのはイリスの兄であるルーシュでした。


「あっ、お兄ちゃん。おかえり~!」

「おう」


 いつも優しい兄が大好きなイリスは大喜び。飛びついて、また外の世界の話を聞かせて欲しいとせがんでいます。

 そんなイリスの後ろにいたフォルトは、主人とは反対に目を細めて黙っています。

 ルーシュが言いました。


「無視すんな、駄々っ子」


 フォルトは「ぐっ」と奥歯を噛み締めました。彼の情報網は侮れません。仕方なく、「あぁ、居たのか。オカエリナサイ」と返事をしました。

 そこへやってきたのはルフィニアです。


「あら、お帰りなさいませ」


 すると、ルーシュはイリスに花柄の箱を手渡しました。


「はい、おみやげ」

「わー、ありがとー!」


 わくわくしながら開けてみると、中身は箱と同じ柄の小さな陶器製のカップでした。取っ手がS字になっているなんとも珍しいカップです。


「ねー、フォルト。このカップで紅茶がのみたいな」

「はいはい」

「はい、フォルト。あねさんも」


 次はフォルトとルフィニアにも白い箱を手渡してきました。

 ルフィニアは呼ばれるたびに「その呼び方はやめて下さい」と言うのですが、残念ながら聞き入れられたことは一度もありません。

 この上なく怪しくはありますが、仕方なく二人揃って箱をぱかりと開けてみました。


「って、何よコレっ」

「眩しっ!」


 どーんと現れたのは、きらきらと眩しく輝く黄金色のリボンでした。見詰めていると目がおかしくなりそうです。


「良いだろう? 装飾品屋に特注で作らせたんだぜ」

『こんなもの使えるかっ!』


 得意げなルーシュに、二人は見事に声を揃えて叫んでしまうのでした。



〈おしまい〉


 ◇お金持ちの道楽ですね。彼はいつもこんな調子です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る