第2話 従者のゆううつ

 吸血鬼に仕える従者の青年・フォルトは、だらーっと伸びる自分の髪を見るたびに、いつもあることを思っていました。


「うざい。切りたい」


 ここは彼が仕えている主人・イリスの私室です。

 ふと、イリスの机が目に入り、引き出しを開けました。すると、そこには他の筆記用具に交じって子ども用のハサミが入っています。


 子ども用と言ってもハサミはハサミ。

 取り出してみれば、鋭い輝きを放っていて、非常に良く切れそうです。


「髪、切ってしまおうかな」


 ほんの少し、いや、ざっくりと……。

 ところが、部屋の隅でぬいぐるみ遊びをしていたイリスが、それを目撃してしまいました。


「あーーーっ!」


 イリスは大きな叫び声をあげて、フォルトの髪をむんずと掴みます。


「だめ、だめだめだめっ! 切っちゃダメー!」


 そう言いながら、ぐいぐいと引っ張ります。イリスの力は普通の子どもとは桁違いなので、引っ張られる方はたまりません。


「いでででででっ! ハゲる! ……はぁ、どうして駄目なんですか?」


 なんとか解放してもらってからフォルトが訊ねると、イリスは涙を浮かべた顔のままで言いました。


「だって、これがないと掴まりにくいんだもん!」

「リード……!?」


 これが、彼の髪が長い理由です。用事がある時はぐいぐいと引っ張られるのでした。


〈おしまい〉

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