エピローグ

 ふっと意識が戻るのを感じ、イルヤは目蓋まぶたを開いた。

 どうやら眠っていたらしい。明かりを振りいていた月も角度を落とし、部屋は宵闇に包まれている。


「……なんで、だろうなァ」


 眠気の余韻が残る頭で、不思議な体験をしたものだと思った。

 夢はあくまで幻か追憶の断片に過ぎないだろうが、そこで彼が彼でなかったことの奇妙さが引っかかったのだ。


「ラクセスって、あんなだっけ……?」


 夢の中でイルヤはいつの間にかラクセスの視点から過去を見ていた。なんとも不可思議な体験である。

 うすぼんやりとした視界が開けるように、段々と意識が覚醒していく。上体を起こし、ベッドの片方に両足を投げ出した。


 何故、こんな夢を見たのだろう?

 しかし、答えなど出るはずもないと一人ごち、彼は立ち上がって月影を空に探した。


「あぁ……」


 脳裏に浮かぶのはとある人間の姿だ。あの者は顔に憂いと決意を張り付かせてこちらを眺めていた。


 ――イルヤはふいに破顔する。無意識へと落ちる前に自分が何度も願った望みを思い出したのだ。

 そして彼は再びベッドに横たわって瞳を閉じることにした。


 余韻はまだ完全に消えていない。今ならまだ間に合うかもしれない。

 ……やがて見えるはずのない出来事が、目の前いっぱいに広がっていった。


 終

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