エピローグ

「フォルト、これおいしかったよ」

「よかったですね」

「こんど、ディーリアにも飲ませてあげたいなぁ」


 そう言って笑う幼女の顔にかげりはない。イリスからディーリアへの友情には問題がないようだ。でも、逆はどうだろう?

 事件のあらましを説明した時、懸念したのはそこだった。どうしても確かめたくて、ディーリアに「怖くないのか」と訊ねずにはいられなかった。


 知らない大人達に捕まり、外は血の匂いでいっぱいとくれば、恐怖に駆られても当然だ。けれど、少女はあっさりと首を横に振った。


『ううん。イリスちゃんと一緒だったから怖くなかったよ。友達だもん』


 こちらが舌を巻かされてしまう。無知から来ているのではないことを、その真っ直ぐな瞳が証明していた。

 そうして二人は本当の友達になった。


「あ、あれみてー」


 幼い声にはっとしてイリスの指先を追った。そこには一匹のコウモリが飛んでいて、口には何やら白いものを咥えているように見えた。

 コウモリは羽音も立てずにこちらへまっすぐやって来ると、イリスの手にそれを落とした。――白い封筒だった。


「ディーリアからだぁ!」


 イリスは嬉しそうに叫び、友達から届いた手紙を見つめた。小さな贈り物ではあったが、彼女にはとても大きなプレゼントである。


「へぇ、手紙のやりとりなんてしてるんだな」


 兄が言うと、妹は笑顔で頷いて俺にそれを預けてきた。

 今はパーティーの真っ最中だ。それに、今までにも何度か送られてきた手紙も、いつも自室で読むと決めていた。


 開けたくてうずうずしているに違いないのに、ぐっと我慢している姿には周りの大人達も少し感激してしまう。


「えらいですね」


 さらさらと手触りのよい頭を撫でてやると、えへへと笑った。

 そんな彼女の喜びの余韻が消えてしまう前に会場の灯りが消え、当主の声と共に最後の余興――「血の宴」が始まった。


 終



 ◇後書き

 最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

 お話の中でフォルトが言っている通り、まだ書き切れていない部分があります。

 次回以降はそんな裏側を描いていく予定です。よろしくお願いします。

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