第14話 たまには、明智にカレーをつくってもらう。うまぁ。
花屋の店先で川町が接客しているのを眺める田嶋。
くるくると良く働く。花を見つめる目はほんとに好きなんだろうなと感じる。
荒んでたころの自分を思い出す。西崎に頼まれ、たまに花を買いに来ていたが、突然告白された。小さいころからよく知ってる子だ。特に恋人もいなかったので軽くOKした。暫く自分といればつまらないと飽きるだろうと思っていたが、変わらぬ態度と笑顔に自然と癒されている自分がいた。いつの間にか眼が彼を追い、焦がれるようになった。彼に好かれて本当にありがたいと思う。
ふと視線を外す。時計に目をやると13時だ、今日は半日で仕事が終わる。一緒に帰ろうと缶コーヒーを片手に時間を潰していた。
西崎から一人で行動するのを避けるよう言われ、少し警戒していたのもあるのだが。
目線を戻すと、川町が黒髪の少年から何かを押し付けられ受け取っていた。困惑しているようだ。何か胸騒ぎがし、すぐに川町の元へ急ぐ。
「お前!!何してる!!」
「!!」
黒髪の少年がこちらに気付くと、その場を去った。追おうと思ったのも束の間、見失ってしまった。
川町の無事を確保するほうが先だと思う。川町に駆け寄った。
「兄ちゃん!」
「何されたんだ?」
「連れて帰ってくれって、渡されて…これ…」
「……仔犬?」
川町の腕の中には白い毛玉のような仔犬が抱えられていた。
「うん…兄ちゃん、この子身体が冷えてるんだ…弱ってるみたいで…」
川町の言う通り、仔犬はほとんど動かない。浅く息をしているのを確認する。
「あいつ…何で…」
「とりあえず、連れて帰るね…眼覚ますかなぁ…。」
川町が着ているパーカーの懐に仔犬を入れ、擦りながら帰ることになった。
帰ったら西崎に報告案件だな。
遠くの木の上に黒髪の少年が立っていた。その視線は寂しげに川町を見つめる。
「にしき…無事で…」
アパートにつくと西崎に報告にいくことにする。
仔犬もとりあえずつれていく。みせておこうと思う。
西崎の部屋をノックしようとしたところ、菊市が慌ててドアを開けて出てきた。
「おい、どうした」
「何か変な気配がする…」
菊市は周りを見渡して気配を探っている。
とりあえず、西崎も呼び出すことにした。ノック音のあとすぐに顔を出す。
「どしたんや?」
「なんかおかしなことが起こってるみたいだぞ」
「おかしなこと?」
「変な気配がするんだけど…」
菊市も近寄り話に加わる。
「それって小松が言ってたやつか?嫌な感じはしないっていう…」
「そうだね……うん、いやな感じっていうか…弱弱しくて消えそうっていうか…」
腕を組み考え込みながら気配を探っているようだ。
「…?…あ!!」
川町は自分が抱いている冷たい仔犬を懐から取り出した。
「あの…この子かな?死んじゃいそうなの?菊市さん」
川町が仔犬を菊市に見せる。
菊市は仔犬に触れると、はっと何かに気付いたようだった。
「どうしたんや?これ」
「知らない男の人に渡されたんだ『連れて帰ってくれ』って…」
「連れて帰れ…?」
「知り合いじゃないんか?」
菊市に話を振るが首を横に振る
「いや、俺も心当たりはない」
菊市は川町から仔犬を受け取った。
菊市の手に渡ると仔犬は薄く目を開け、菊市の手を舐めるとまた目を閉じた。
「……」
「どうしたんや、菊市」
「この子、ただの犬じゃない」
「え?」
「多分、妖怪みたいな感じだよ、消滅しそうだけど」
「菊市さん、助からない?」
菊市に渡した仔犬を川町が撫でる。
「大丈夫…、うん、私の気力なら受け取れるみたいだよ。多分、弱りすぎて自然界の気を吸収できなくなったんじゃないかな…。」
「『連れて帰れ』は何やったんや?」
「ここに入れなかったんだと思う。社があるからね。」
「ここの住人に連れてこられるか、招かれるかが必要だったってことか?」
「そうみたい」
「小松の感じた視線もこいつだったのかな」
「その可能性はあるな。」
「菊市さん、助けてあげて!!」
「明智も悪いものは感じないって言っとったで。」
菊市は少し考えたが軽く頷いた。
「私も嫌な感じはしないから、助けてみるよ。ただ…少しずつしか吸収できないと思うんだ。ちょっと時間がいるかな」
「頼む」
田嶋は川町の背中を撫でると部屋へと戻っていった。
「あとは頼んでええか?うちはうにちゃんがおるし」
「ああ、大丈夫だよ」
菊市は仔犬を抱きかかえ、部屋へと戻っていった。
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