もっと!一柳荘の人々
第13話 あれから…って言ってもうてるけど、そんなに経ってない
一柳荘を見つめる一つの影があった…その姿は一瞬薄らぎまた現れる。
(待ってろ…必ず…ここに)
影はアパートを仰ぎ見るとゆらりと消えていった…。
オレは一柳荘の大家、西崎。
そしてこのかんわいい、黄色い茶トラの子猫がうにちゃんや。
三か月の女の子だ。庭に出没していたのを餌付けして、家に迎えた。庭にケージを置き、ご飯を入れてケージに慣れさせて少しずつ部屋に近づけていった。
最初は威嚇してたけど、二週間ほどでケージで休むようになった。威嚇もしなくなったので、獣医に連れて行ったで。
野良猫生活で若干衰弱してたんやけど、餌付けの効果もあり栄養状態もすぐに回復するだろうとのこと。虫下しの薬を貰い、少し大きくなったらワクチンやな。
うにちゃんのノミとりも初お風呂も丁寧にすませ、ふこふこの家族をお迎えして数日。
かわええな~
「みゃん!みゃ~!」
「うにちゃ~ん、待っててや~」
うにちゃんにご飯を用意する。子猫用のドライフードをお湯でふやかし、ウエットタイプのフードを混ぜる。
「西崎さん~すっげ~うまそう」
「お前にはシチュー用意したやろ」
うにちゃんのご飯を見ながら明智が言う。
最近は夕食の時間があえばこうして食べることも増えた。てか明智自ら来るから仕方ないんや。うん。そういうことにしといて…。
「こういうの作るとこ見てたら食べたくなるよね~」
「みゃ~!みゃ~!みゃ~!」
うにちゃんは明智に抱っこされてジタバタしていたが、猫用のご飯皿を、目の前に出すと明智に降ろしてもらい、カフカフと一生懸命食べだした。今日も食いつきがいい。
今日も完食や。食べた後は休む間もなく運動会が始まってしまった。元気やね。
部屋をノックする音が響く。
飛び回るうにちゃんを抱っこすると扉へ向かった。
小松だ。
「西崎さん、こんばんは…うにちゃん!!触ってもいいですか?」
「おう小松、ええで~」
部屋に小松を招き、抱いていたうにちゃんを預ける。
「今日もお腹ポンポンだね~かわいい~」
最近は自然な笑顔が出る、小松はうにちゃんがお気に入りだ。うにちゃんの可愛さには誰でも陥落するやろう。うんうん♪
アパートは動物NGにはしていない。大学があるので飼うのはためらっているようだ。
飼い主としては人馴れして欲しいのでたくさん触られるのは歓迎や。
「あ、明智さんこんばんは」
「おう」
まだ小松は若干明智が苦手なようだ。がんばれ小松!!
「あ、西崎さん…あの…」
「ん?どしたん?」
「えっと、最近外アパート近くで視線を感じるですけど…」
「視線~?見られてるの?」
「不審者か?そんな情報、回覧板にあったかなぁ…」
「えっと、それが…変で…」
「変?」
「はい…視線を感じるところには誰もいなくて…」
「誰もいないって…」
「それと」
「どうした?」
うにちゃんをモフりながら小松が言う。ごろごろと喉を鳴らす、うにちゃん。大人しい。
「姿が見えないのもあるんですが、嫌な感じがしないんです」
「え?何でや?」
「それが僕もわからなくて…、明智くんなら何か知ってるかなって」
明智は嫌な地場を感じやすい。見えない何かかもしれないと考えたようや。
「あ~そういうこと。…いんや…最近はこの近くでは嫌なの感じてないんだわ。西崎さんは?」
「お前が分からんのやったら、オレはさっぱりやぞ」
「だよね」
「そうですか…」
小松は可愛らしい見た目をしているので確かに心配やな。
「…小松、暫く平野と一緒に過ごしといてくれ」
「はい…」
「オレも怖いから西崎さんとこいる~」
「お前は帰ってよし!!」
「みゃ~ん」
うにちゃんも同意見のようや。
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