第8話 お社は小さくて可愛いからお気に入り
騒動があって数日、川町と田嶋は爽やかにいちゃつき、川町は田嶋の部屋から出てくることが増えたってか、居ついているよう。今日も元気に田嶋の部屋のドアから川町が出てくる。
「西崎さん、おはようございます~!」
オレも敷地の掃除と水撒きをしようと部屋からジャージで出た。
「おお、おはようさん、元気か?」
「うん!今日バイトなんだ!なんかお花いる?」
「…そうやな…、切り花何でもええから見繕ってくれ。」
「うん、いいよ~。お社さん用?」
「そうや」
アパートの敷地に小さな社が立っている。社と言っても形ばかりだが、我が家が個人的に建てたものや。
「…なんか最近、お花枯れちゃうの早くない?寒くなったからかな~?」
「そうやな…寒いのかもな…。お金先払いしとこか」
ポケットからお札を三枚取り出し、川町に握らせる。
「まだ、前のお金も残ってるよ?西崎さんのお花、売れ残りそうなのも買ってもらってるから値引きしてるし…。」
「…うーん、量があるに越したことはないんや…貰っといてくれ」
「…うん!またおまけしておくからね!!」
出かける用意をした田嶋も部屋から出てくる。
「おはよ…」
「おお、はよ。昨日もお楽しみでしたか~?」
「…まぁな…」
い~や~!リア充、爆破した~い!!
「西崎さん、いってきま~す!」
川町がリュックを背負い、こちらにひらひらと手を振り田嶋と並んでアパートを出る。
「いってら~」
さて、オレも仕事すっか。…にしても二階のお部屋は要るんか?上の部屋ぶち抜くのも考えたほうがいいかな…。
その10分後に小松と平野も各部屋から出てきた。ん?若干小松の元気がないような…。
「あ…、西崎さん、おはようございます。」
「西崎さん、はよっす。」
「小松、平野、はよ~。今からか?」
「はい、今日は平野くんが早いので僕もそれに合わせて早めに出るんです。」
「行ってくるっす」
「おお、いってら~」
オレは二人に手を振った。小松はあれから菊池のところで話をしているようだ、専門じゃないから治療とはいかないようだが。
大変やったな、小松…。事情が住人にいきわたったことで、小松は過ごしやすくなっているようや。
まだ明智は平野から警戒されている。冗談だったのになぁ。災難やな明智。
小松は菊市からのフォローで少しずつ自分の身体への認識について正常を取り戻しつつあるようや。悩みを一人で抱え込むより、話すことで負担が軽くなっているようだと菊市が言っとった。
その菊市が部屋からぼんやりと出てきて二人を見守ったあと、フラフラと庭に出てきた。
「菊市、おい」
「菊市~」
「ああ、西崎…」
オレと菊市は小さいころから一緒に住んでることもあり、兄弟のようなもんや。母ちゃんが小さい菊市を引き取って暮らし始めた。
「あんた!!兄弟欲しがってたやろ!ほれ!!兄ちゃんや!」
父ちゃんのシャツを着せられた、オレより少し背の高い子供を母が抱えて見せる。
「……よ…よろし…く?」
「!?いきなり兄ちゃんかい!かあtyann!」
…となったのは懐かしいはなしや…、母はいろんな意味で強かった…。
ぼんやりとしたまま菊市が返事をする。顔が白い。そういやまた痩せたかな…
「最近調子悪いみたいやな…、大丈夫か?」
「ああ、まだ大丈夫…悪いね…」
「小松のことで負担が増したん?」
「いや…そうじゃないよ…、小松くんは自分で立ち直っていってるような感じだから」
「そうか…なら…あれか…」
「そう…あれかな…」
そう言うと菊市はふらりと庭のほうへ歩いていった。
部屋に戻って寛いでいるとオレの部屋の扉にノックが響く。
「ちわー、西崎さん~」
「おおよ~…谷村、どした?どっか壊れとるか?」
扉を開いたまま、そこで話し込む。谷村はちらっと菊市の部屋をちらっと見た後向き直った。
「菊市さん、今日も部屋から出てこなくて、調子悪いんですか?」
「うーん…」
「西崎さん?」
「まぁ、最近疲れとったみたいやから休ませてやれ」
「…はぁ、そっか…」
「谷村、最近何か変わったことあるか?」
「…そういや、最近部屋が暗い?ような気がするくらいっすね。」
「へー、お前自身は?」
「は?元気ですけど…」
「そうか…ならいい。菊市はオレが様子見に行くから、…何かあったら知らせたる。」
「はい!ありがとうございます!」
その後、とたとたと二階から、谷村と入れ替わりで明智が来る。欠伸しながらまだ、目が覚めてないようだ…。
「西崎さん、コーヒー淹れて~」
「お前は…インスタントな」
「何でもいい~くぁー」
伸びをしながら、明智が部屋に入ってきた。オレも少し休憩しよ。
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