第7話 おい、ここで寝るなよ、帰らんのかーい


「「で?」」

菊市さんとオレはついハモってしまった。ちょっとげんなり

「田嶋兄ちゃんとした時のこと、思い出しちゃった…良かったんじゃないの?」

川町はドキドキしているようだ、頬を染めながら遠くを見ている。

小松は赤面してしまった、だよね!語りすぎ。


「泣いてた理由はどこ?」

「…あ、ち…違うんだ…」

小松がしゅんと俯いてしまった。

「…明智、待って何か違う理由があるんだね?」


「あ…」

「うん、大丈夫だよ」

菊市さんが優しく話しかける。

「菊市さん…今から嫌な話するけどいい?」

菊市さんはゆっくり頷いた。


「…僕、小学校の頃…男の人に身体を触られた…いたずらされたんだ。運よく近所のおばさんが助けてくれたんだけど、触られたところがずーっと黒いクレヨンで塗りつぶされて消えない。僕は真っ黒で汚いんだ」

「小松くんは汚くない!キレイだよ!!」

川町が声を荒げる。

「こら、川町落ち着けって!」

オレは川町を止めた。怒りでは解決しない。


「触られるのが苦手なのもそこからのトラウマか…小さい頃じゃカウンセリングもなかっただろうし…一人で抱えてきたんだね」

「うん…そんなこともあったのに、好きになったのは男の人で…おかしいよね。皆にも平野くんがおかしな人に思われてたらどうしようって…怖くて…」

「そんなこと、思ってないよ!平野くんも小松くんも普通だよ!!」


「おかしいなんて、思ってないから安心して?まだあるなら話してごらん。」

菊市さんの問いかけに小松が涙ぐむ、嫌なことだったろうに。強いな、小松。


「僕とHしたら…汚いのが平野くんにも移っちゃうんじゃないかって…心配で…ぐすっ、でも…ひっく言い出せなくなって…ぐすっ、もう…しちゃったし、どうしようって…ぐすん。」

ぽろぽろと泣きながら語る。根が深いなぁ…。


「どうしようか…話したほうがいいよね…菊市さん…」

「そうだねぇ」

「ぼくは小松くんが汚いなんて思ってないんだからね!!!」

川町はぎゅうと小松を抱きしめた。ちょっとびっくりしたようだが、小松も黙って受け止めている。嬉しいようだ。


「小松くん」

「…はい。」

菊市さんが語りだす。

「そういうことになったのは、君のせいじゃない。自分を責めたらダメだよ?私も小松が汚いなんて思ってないから。辛く感じることがあったら私でもいいから話においで?何回でも聞くから。」

「はい…。」

「それと…ちゃんと君の口から平野に言うべきだと思う。一人じゃ不安だったら誰か呼んでもいいから、ちゃんと話すんだ。…荒療治かもしれないけど、そのあとは気が楽になるんじゃないかな。」

「でも…それで…」

「そうそう、それで別れるような奴だったら、オレと付き合うっていうのはどう?」

オレは決めかねてる小松に提案してみた。小松はびっくりしている。


「何言ってんのさ、明智さん!!」

「小松ならオレOKよ?手始めにキスでもしてみる?ん~~」

小松に迫るオレ。菊市さんと川町が慌てて引きはがそうとする。

「ちょっと!本気なの?やめなってば明智!!」

「こらーー!!はーなーれーろー!!」

「!!い…イヤだ!!ひ…平野くんじゃなきゃ、ヤだぁ!!!」


ドンッと部屋の扉が開き、平野が息を飲む、表情は怒りに変わっている。

「明智!てめー、黙って聞いてりゃ、小松から離れろ!!」

平野は明智の服を掴むと右ストレートで明智の頬を殴った。

「っぐぇ!!」

「俺は小松と別れたりしない!!」

「ちょっと、平野くんやめて!!」

慌てて止めに入る小松


「…はぁ…、ばかだねぇ明智、他の手もあったろうに…。」

ため息をつく菊市さん。頬っぺたがじんじんする。川町はオロオロしている。

「えっ?何、何?」

「来るのがおっせーんだよ、平野!っ…ったく、痛ってーの…!!」

「ふっ…くっくっくっ!」

菊市さんが笑い出す、いてーんですけどオレは。?マークだらけの川町に菊市さんは

「…二人の本音がわかったでしょう?」

「あ!そーかぁ!!」

納得したようで。


程なく、西崎さん、田嶋さん、ついでに谷村までやってきた。


「おい!なんか物音がしたけど!?…喧嘩か?明智?」

「…名誉の負傷です、いてっ!」

「なんかあったんやな…明智、来い。湿布貼ってやる」

「わーい、貼ってーー。」

「川町、買い物行くぞ」

「先生~?菊市さーん!ここっすか?」

「谷村まで、来たか…見つかったな…。はいはい!!集わない!みんな出て出て!」

小松と平野を残し、後の面々を部屋から追い出す菊市

「平野!!あとはいいね!」

「はっ、はいっ!!すみませんでした!!」


バタンと扉がしまり、急に静かになる。平野は小松を抱きしめた。

「平野…くん?ちょっと、苦しい。」

慌てて腕の力を緩める。

「俺…ほとんど聞いてた…。ごめん、こんなに無理させて…。小松はキレイだよ。俺が汚してしまったんだ…。でも…後悔してない。」

向き合って小松の両手を顔の前で握りこむ

「少しずつでいい、待つよ。俺を受け入れて欲しい。」

「僕で…いいの?」

「小松がいい」

「!!…うん!…僕平野くんがいい!!」

小松が涙目でにっこりと嬉しそうに笑う。

平野は優しく小松を抱きしめた後、キスを交わした。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る