第2話 平静を装うのも楽じゃないからしない

 噴き出したコーヒーを拭くために布巾をとる。

 話に出てきた田嶋だが、31才で営業をこなすサラリーマンだ。寡黙だが、そこが信用がおけると人気のようだ。まあ、人当たりは良いやつだ。オレとは腐れ縁。川町とは、仲がいいなとは思っていたが、付き合ってたんか…。…結構思い当たる節が…。

テーブルを拭いた布巾を流しに放り、元の位置に戻る。


「どこまでいっとんねん」

さっきまでの緊張感が嘘のように早口でしゃべる川町

「んとね、週3でデートとか田嶋兄ちゃんの部屋で過ごしたり散歩も楽しいよ!ご飯も食べるし話すしあとはキスとかHなこととかたまに一緒にお風呂も入ったり…」

「要するに!恋人としてちゃんと付き合ってんやな!もうええ…」

「詳細述べろって言ったぁ!」

「そんな付き合いの詳細はどーでもええねん!…悩みのほうを述べて!」

一旦二人して飲み物を啜る。川町はカフェオレを飲み干した。

「あのさ…田嶋兄ちゃんて、大人で包容力あるし、頭も良いし、胸板…厚いし…」

「胸板なんか関係あるんか!?で、なんで悩むんや身体の相性は…いいんじゃないの?」

途端に川町の頬が膨れる。何がまずかったんでしょうかね。

「胸板は重要だよぉ!ワイシャツ着た時にうっすら見えるとドキドキするんだ、ぼく…」

「わかった、胸板は外せないと…はい。で、本題は?

今度こそ本題だろう、川町の勢いが落ちる。


「うん…ぼく…好きって言われてないんだ…告白したのはぼくからだし、…Hに誘ったのもぼくからで…。」

(田嶋兄ちゃんは、小学生の頃からよく遊んでくれていた近所のお兄ちゃんだった。男としてかっこいいと憧れていたけど。中学の時、一緒に遊びに行った海で足がつって溺れた時、田嶋兄ちゃんに助けてもらった。力いっぱい抱き上げられた胸板の心地よさが忘れられなくて…好きだって気づいて…悩んだけど止まらなくて一方的に告白したんだ。)

西崎さんは静かに考えていたが、少しだけスマホを弄って置いた。


「それ、田嶋には話したんか?」

「……言えないよ…付き合ってくれてるだけでも贅沢だもん。きっと…ぼくが憐れで受け入れてくれてるだけなんだ…。」

「憐れって…はぁ。」

「……」

「田嶋はそんなやつだったか?」

「…やっぱり言えない。優しいんだもん。」


廊下にかすかに足音が聞こえる。オレの部屋の扉がゆっくり開き田嶋が扉に寄りかかる。川町は気付いていないようだ。田嶋と視線だけ合わせると田嶋はそのまま軽く頷いた。

「好きって言って欲しいってワガママだったね。うん、もう言わない。」

「ええんか?」

「ぼくって頭良くないし、お金もってないし、身体だけでさ…きっといつか飽きるかも。でも…」

想像したのだろう、途端に俯いてしまう。ぱたぱたとテーブルに小さな雫が落ちる。声が震えているが、川町ははっきりと決めたようだ。

「でも…もし…別れても、ぼくが田嶋兄ちゃんを好きって気持ちは変わらない……うん!それで良いんだよ。」

「俺は川町に別れられたら困るな…」

「田嶋兄ちゃん!?どうしてここに…?」

涙を拭わずに田嶋に振り返る。一度堰を切った涙は止まらないようだ。

「スマホで呼んだんや、直接聞かせたろ思うて」

扉に寄りかかったまま田嶋は片手を川町に伸ばした。

「川町、部屋に行こう。…西崎、悪かったな」

「ああ、はよ帰れ。生々しい話これ以上聞かされたら、たまらんわ」

途端に田嶋が不機嫌に眉を寄せる

「そんなに言ったのか?」

「お前!!思えばお前のあれは惚気とったやろ…素直なところと……あ“――腰が可愛いってな……はぁ」

田嶋の手を取り、川町がぐずつく

「え“――!お尻は?胸は?やっぱり飽きたの!?わーーん!」

本音を言ってしまってとまらないようだ。オレはやれやれと両手をあげた。


「なぁ田嶋…川町、重症やぞ…。」

「川町…こーら、かわいい泣き顔披露しちゃだめだぞ~?戻ったらおしおきだからな」

「兄ちゃん…はぁい…。」

「田嶋も重症やったわ!!えーーん!!早よ帰ってぇ~~!!」

オレは半泣きでテーブルに突っ伏した。砂をはけるなら今、吐いてるだろう。二人は手を繋いで仲良く部屋を後にした…。解決したんならまぁ…いいけど…。オレは暫くテーブルと仲良しだった…。



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