第3話 101号室には近づかないよ

田嶋の部屋に戻り、川町は少し緊張していた。田嶋の部屋は一階、一階は他に大家の西崎、菊市が住んでいる。部屋にはお風呂とトイレ付。一階は二階と違って部屋は広く取られている。ちなみに床は畳ではなくフローリングにリフォーム済み。川町が持ち込む植物が少しずつ増えていっている。花が咲いてるのもあってきれいだ。

 っと、川町の手を引いたままベッドへ移動する。ベッドに腰かけ、川町と向かい合う形で膝に座らせる。俯いた顔もこれで見える。


「不安…だったのか?」

「……うん……、ごめんなさい。」

「俺としては甘やかしてると思ってたけど…、…言葉は足らなかったな…」

「兄ちゃんは悪くないよ!!ぼくが勝手に…不安に…」

「川町はいつも気持ちをたくさん伝えてくれるもんなぁ」


川町の濡れた頬を拭いながら思う。

「甘えてたのは俺のほうか…」

首を引き寄せ、川町にキスをする。

「ん…ふぅ…」

「お前は昔から何も欲しがらない、その辺で摘んだ花に大喜びして笑ってる…ちゃんといってみろ、どうやったらお前は満たされる?」


目線をあわせ、返事を待つ。

川町は少し視線を外したが、俺の目を見て小さく言った。

「…好き…って言って」

「好きだ…」

言ってみたが気持ちが乗ってないように思う。

「…軽いな」

「か、軽くなんかない!僕には充分」

「愛してる」

ビクッとして田嶋を見つめる川町、頬がゆっくりと紅に染まっていく


「ちゃんと伝わったか?」

「うん…うん!!ぐすっ…嬉しい…!!」

涙ながらも、満面の笑みだ。この子はこういうところが可愛い。またキスをする。今度は舌を絡めて。

「…ふ、んん…ふぁ…」

少しずつ息が荒っぽくなっていく。川町も俺の首に手を回す。いい子だ。手を、下のほうへ背筋を辿っていく。

「兄ちゃん、好きも、愛してるもすごいよ、身体がぽかぽかする。」


俺は川町の笑顔に釘付けになった。こういうところはほんとに敵わない。普段、張り付いた笑顔でお金やら、権力やらやり取りしている疲弊した心にしみ込んでいく。


思わず、川町のお腹に顔を埋めた。俺のほうが不安になる。

「…?兄ちゃん?」

「俺から離れていかないでくれ」

川町は俺の頭をゆっくり撫でていく

「うん、側にいるね」

顔を上げると、相変わらずのほっとする笑顔だった。



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