インスペクト・ガルシア

大橋 知誉

インスペクト・ガルシア

 コンクリートの冷たい床と錆びた扉。

 あたしは計画通りにここへやってきた。もうすぐ時間だ。


 予定時刻きっかりに監視がやってきて、錆びたドアを開けた。私は後ろ手に縛られ部屋を出る。

 長い長い廊下を歩かされて、建物の外へ出ると、芝生の道を連れて行かれ、やがてレンガ造りの巨大な建物の中に入った。


 この中で行われているんだ。

 政府がその全貌を全く開示していない謎の更生プログラム、その名も ≪インスペクト・ガルシア≫ が。


 ≪インスペクト・ガルシア≫ から帰還するのは、現在のところ、全体の20%程度。まだまだ改良段階だとのことだが、無事帰還した社会不適合者、つまり罪人は、アホみたいに飼いならされた無害な犬みたいになって出てくる。


 そして、不思議なことに、この更生プログラムを受けた人間は実際に何をされたのかほとんど覚えておらず、皆口をそろえて、今までの自分は無知で未熟であった。自分は全ての煩悩から解放された、と言うのだ。


 これは強制的な解脱だ。非人道的な洗脳を含む記憶の改ざん、もしくは消去が行われているのではないかと真しやか囁かれている。


 あたしは、そいつの正体を暴くための駒として選ばれた。

 孤児だったあたしは組織に拾われ、アイスというコードネームを付けられて、如何なる洗脳や拷問にも耐えられるよう、長い長い訓練を重ねてきたんだ。


 そして、あたしの脳内には、絶対に記憶の改ざんや消去させないためのチップと、現在出回っている機器では探知できない電波で外部と通信ができるチップが埋め込まれている。

 ナノサイズの特性チップは、いくら政府の機関であろうと見つけることは不可能だろう。


 ≪インスペクト・ガルシア≫ がいったいどんなものなのか、あたしにはさっぱり見当もつかないけど、さあ、来るなら来てみろ。お前の正体を丸裸にしてやるからな。


 レンガ造りの建物の中は、病院のような施設になっていた。

 あたしは手を縛られたまま、その中の一室に連れていかれ、歯医者にあるような椅子に座らされると、何かの薬を注射され、ヘルメットのようなものをかぶせられた。


 だんだんと意識が薄れて、あたしの世界はヘルメットからかすかに聞こえるウィーンというモータ音のみとなった。


・・・・


 目を開ける。

 あたしは柔らかい土の上に寝そべっていた。身体を起こす。どこもなんともないようだ。見たこともない妙な服を着ている。


 思考を通信モードに切り替え、本部と連絡をとってみる。


(こちらアイス。おそらく ≪インスペクト・ガルシア≫ に潜入成功。聞こえる??)


 ガガガ…とノイズが入り、通信が生きてることをあたしに知らせた。


(よく聞こえる。こっちでの1時間がそちらの1日に設定されている。通信時のタイムラグを自動計算にした。聞き取れる?そちらの状況はどんなだ?)


 ガイスの声だ。組織のデジタル番長。ということは、≪インスペクト・ガルシア≫ はフィジカルな拷問はなしってことだな。


(うーんと、何かを注射され、ヘルメットを付けて、目が覚めたら、屋外のような空間にいる。まっすぐに伸びる植物…おそらく竹?が群生している。)


(アイス、君の現在地は変わらずガルシアセンターだ。状況からして、君は今、フルダイブ型のVRの中にいると思われる。)


 なるほど、異論はないよ。


 土に触ってみた。土なんてあまり触ったこともないが、とてもリアルだ。これが仮想現実の世界だなんて、今までの流れとガイスの説明がないと絶対に気が付けないな。


 ≪インスペクト・ガルシア≫ は、仮想現実を使った調教プログラムなんだ。あたしは背筋にゾッとするものを感じた。

 おいおい政府のお偉い方さんよ…なんてものを作ってくれたのよ。


(今ざっと調べたら、政府のシステムから記憶の改ざんの処理がチップに飛んで来ている。チップが正常に動作したみたいでよかったよ。じゃなかったら、君はそっちの世界の住民になってしまって、計画は全ておじゃんだった。これで、政府のシステムも逆探知できるかも、ちょっと待って。)


 沈黙がしばらく続く。

 あたしは、未だに自分自身であることに感謝した。


(よし、捕まえたぞ。げっナニコレ…。)

(何??どうした?)


(いや、こんなのは僕も初めて見たよ。これはただのVRじゃないな…。一つの歴史そのものだ…。君が潜入しているそのVR、≪インスペクト・ガルシア≫ は、ざっと1万年分ほどの架空の惑星の架空の文化・歴史が時系列順にシミュレートされているんだ。君がいる時点は…シミュレーションの開始からそっちの時間でおよそ五千年くらいたったところかな??)


 え?何それ?どういうこと??


 ガイスに説明を求めようとしたところで、前方に人の気配を感じて本部との会話は一時終了となった。

 通信は切らずに、本部の連中にもあたしのファーストコンタクトを一緒に体験してもらう。


「なーにしてんだおめぇ、ワシの竹林でぇ。」


 向こうから歩いてきたのは、変なしゃべり方と変な服を除けば、普通の人間と何の変りもない、どこにでもいそうなただの爺さんだった。

 あたしは、少し安心して、この爺さんに道に迷ったことを告げた。


 爺さんの名は、サヌキと言って、同居人は配偶者の婆さんだけとのことだった。

 爺さんたちには子供がいないために、右も左もわからない迷子のあたしを家に住まわせてくれて面倒を見てくれた。


 一見してのどかな田舎のように見えるこの世界に、人格を180度変えてしまうような仕掛けがあるようには見えず、それが不気味だった。

 あたしと、本部は頻繁にやり取りを繰り返し、この世界の研究を急いだ。


(今日、新たな発見があった。アイス、心して聞いてほしい。君にとっては衝撃の事実だ。)


 このところ日課になっている夜間の通信でガイスが言った。

 その声はふざけてはおらず、彼が本気で恐ろしいことを発見してしまったのだとあたしは悟った。


(いいよ、言って。)

(そっちの世界にいる人間だけど、僕は最初、絶妙にプログラミングされたNPC(ノンプレイヤーキャラクター)、つまり、AIか何かが作り出したバーチャルの人間かと思っていたんだ。)


(ちがうの?)


(君は彼らと接していて、どんな感想かな?)

(うーん、NPCにしては個性がありすぎるってゆうか、機械的なアルゴリズムで動いているようには思えない時があるね。)


(そう、その通りなんだよ。≪インスペクト・ガルシア≫ には数えきれないほどの登場人物がいる。こんなに大量のNPCをばらばらに動かすなんて、いくら政府のサーバだからって容量的に無理なんじゃないかなと思ったんだ。)


 それはあたしも感じていたよ。


(それで、ちょっとあり得ないんだけど、もしもそっちの世界にいる人物がすべて、君みたいに実体がいるアバターだとしたら…って考えてみたんだ。)


(え、ちょっと待って… ≪インスペクト・ガルシア≫ の中には何人の人物が設定されてるの?? 1万年分の時間軸があるならそれこそ星の数ほどいるんじゃない??)


(そう、そこなんだよ。その中の人物の動きを観察していると、どうしてもNPCには思えない、だけど ≪インスペクト・ガルシア≫ に同時にログインしている罪人がそんなにいるとも思えない。この矛盾はとてつもなく不気味だぞ。≪インスペクト・ガルシア≫ は我々が想像するよりももっと、やばいものなのかもしれない。)


 そして徐々に明らかになっていくこの世界の仕組みに、あたしたちは恐怖を通り越して畏敬の念に近い気持ちを抱くようになっていた。

 ガイスの予想どおり、どうやら ≪インスペクト・ガルシア≫ に存在している人間はどれもただのNPCではないようだった。彼らはおそらく全員、実際の人間がログインして使っているアバターと考えて間違いなさそうだ。というか、そう考えないとこの世界は破綻する。

 ただ、人数がおかしい。現在収容されている罪人全員がログインしていたとしても、こんな数にはならないはずだ。


 ではいったい、誰がログインして人々を操作しているのだろうか?


 ランダムにピックアップした人物の逆探知を試みても、いずれもガルシアセンター内からログインしているらしいこと以外はわからなかった。

 まるで幽霊のようなアバターたちが、私の周りで変わらぬ日常を送っているんだ。ゾッとしちゃうよね。


 本来なら、あたしは、現実世界の記憶を失った状態でここへやってくる仕様になっていたようだが、他の人たちも全員記憶はないのだろうか?

 監視とかが紛れていたりするのだろうか? あまりに危険すぎて、彼らに直接聞いていろいろ確かめることは不可能だ。


(君の更生プログラムは既に始まっているようだ。複数のイベントが発生した痕跡がある。絶対に誘惑に負けるなよ。僕らは必ず君をその世界から出してやるから。)

(それなら心配いらない。どれだけ訓練したと思っているの?)


 そう強がって見せたものの、あたしは心細い気持ちでいっぱいだった。こんな得体の知れない世界で暮らしていくのは正気の沙汰ではない。

 いくら訓練を受けてたって、気が狂うのは時間の問題だ。早く帰りたい。


 ≪インスペクト・ガルシア≫ で暮らしてみて徐々にわかって来たのだが、この世界は平和で何の変哲もない暮らしをしているように見せかけて、その実、いたるところに誘惑が仕掛けられている。人間の欲望に巧みに付け込み、煩悩の沼へと引きずりこまれるような罠がそこかしこにあるのだ。


 現に、世話になっているサヌキの爺さんも金に目がくらんであたしを売り飛ばそうとしたこともあったし、求婚クエストのようなイベントでは、多くの男共が嘘をついたりズルをしようとした。

 この辺に配置されている人物たちはどうも色欲が強く、事あるごとに求婚してくる。めんどくさい。マジで煩悩を捨てないと、お前たちみんなこの世界に食われてしまうぞ。


 もしも、この人たちが全て罪人なのであれば、システムの思惑にしてやられて、その本性をさらけ出してしまっていることになる。

 この世界で ≪欲≫ や ≪執着≫ と無縁で暮らしていくにはそうとうな精神力が必要である。

 それら全てに揺さぶられずに生き抜けるようになったら、このプログラムを卒業…ということなのだろうか。


・・・・


(アイス、またもや知りたくなかった事実を発見してしまったよ。)


 ある満月の夜にガイスから連絡が届いた。


(この間、村はずれの爺さんが死んだだろう?)

(ああ、牛を飼っていた爺さんだ。)

(その爺さんを使わせてもらって、そっちで死んだ人がどうなるか追跡プログラムを埋め込んで調査してた結果が出てさ。)


 うわ、なんか聞きたくないぞ…。


(彼のデータは一旦システムの本体に戻って全ログをスキャンされた後に、今度は君らがいる時点から163年後に別の人間として再ログインさせられたんだよ。)


(それって、つまり…生まれ変わったってこと?)


(そうだ。記憶改ざんプログラムも走っているから頭の中も真っ新だろう。これで ≪インスペクト・ガルシア≫ に辻褄が会わない人数が存在している理由がわかったね。)

(あたしにはわからない。説明して。)


(うん。こっちとそっちの時間の関係はかなり入り組んでいる。こっちからは、そちらのどの時間にもいけるんだけど、こっちの人間がログインしてリアルタイムで進行中のできごとの先を見ることはできない。

 過去ログはいくらでも見れる。さっきの爺さんが亡くなる前まで戻れば、当然だけど、爺さんは生きている。わかりやすくするために、そいつの本体を罪人Aと言おうか。

 罪人Aは、君がいる時間帯で爺さんになるまで生きて死んだ。そんで、次は163年後に別の人間になったんだ。

 つまり、≪インスペクト・ガルシア≫ 上では2人は別の人間だけど、ログインしているのは罪人A一人っていうことだ。

 わかる? これで、実際にログインしている人数より ≪インスペクト・ガルシア≫ で動いている人間の数が多いことを説明できる。

 そっちでは人間の寿命は50~100年程度に設定されている。むろん、その前に死ぬケースもある。一定期間、同じ時代で過ごして更生できなかったら、生まれ変わって別の時代でも調教が試される…と言う仕組みのようだ。)


 あたしは、この状況を考えてみた。ここで暮らしている人たちは(監視も混ざってるかもしれないが)全員記憶を失った罪人たち。

 自分たちの素性を忘れて、人格の本質を試されている。この世界は誘惑で満たされていて、すべての煩悩から自分を開放するのは困難だ。

 あたしは、一生ここから出られずに、自分が死んでしまうことを考えた。


(ここから出られずに実体が死んだらどうなるんだ?どうしたらここから出れる?)


(残念ながら、こちらから本体の方の状況を探ることはできない。政府の発表では ≪インスペクト・ガルシア≫ から帰還するのは全体の20%だ。

 おそらく、そっちに入ったまま再び出ることなく本体が死んでしまったケースも多くありそうだ。アイス、君は何が何でも帰還組20%になるんだ。

 これから、どのようなログを持った人が帰還できるのか、徹底的に調査するよ。広範囲にモニタリングすれば、いずれ引っかかるだろう。)


 調査のためにガイスは行ってしまった。

 恐ろしいほどに美しい満月だけが、あたしを見ている。


・・・・


 それから数日後、やっとガイスから連絡があった。向こうでは数時間だけど。


(待たせてすまなかった。≪インスペクト・ガルシア≫ から帰還した奴をやっと捕まえたよ。

 そいつは、4回生まれ変わりを経験していて、最終的に大規模な戦争をしている時代に送られ医者になった。

 家族と友人を爆撃で失い、戦地に派遣され3年が経過したところで無の境地に至り、その結果 ≪インスペクト・ガルシア≫ から完全にログアウトした。)


(なるほど、そいつの解脱ポイントは戦争だったんだな。)


(そういうことだ。実際にログアウトの現場を観測することによって、意外なことがわかったよ。

 俺の予想では、ログアウトは密やかに誰にも気が付かれないように行われると思っていたんだが、その真逆だった。

 大々的にやるんだよ。まるで神仏降臨だ。なぜかプロイセラーズの3Dライブ映像を従えながら、ログアウトマスターのアカウントがド派手に天から降りてくるんだよ。)


 あたしはその場面を想像して思わず笑ってしまった。


(なんでまたプロイセラーズ?)

(わからない。もう一人、ログアウトの現場を観察できたんだけど、そっちは知らないアイドルだったから、もしかしたら、個人の好みが反映されているのかもしれない。)


 じゃあ、あたしの時はブルストップのライブで決まりだな。


(そんで、周りの人間に強烈な印象を植え付けながら対象がログアウトすると、すぐさま忘却のプログラムが走る。

 そして、ログアウト劇場を目撃した人たちは詳細を忘れてしまうんだけど、神秘体験の感覚だけが残される。その神秘体験をした奴らは、他よりも解脱しやすくなるみたいだ。)


 なるほど、そうしてログアウトできる人間の比率をじわじわと上げて行っているのか。

 あたしはここ数日で思っていたことをガイスに打ち明けることにした。


(なあ、聞いてくれよガイス。こっちの世界にいて、このごろ感じるんだけど、≪インスペクト・ガルシア≫ は、想像してたような非人道的な洗脳プログラムとは少し違っているように思わないか?)


(ああ、そうだ。まさに、そのことを本部の連中とも協議しているところなんだ。我々は ≪インスペクト・ガルシア≫ が ≪悪≫ であるという前提のもと、その正体を暴いてやると意気込んでいたけど、果たしてこれは ≪悪≫ なのか。

 正当なプロセスを踏んで人を更生させているだけではないのか?って。)


(現実の世界で罪人たちに教育をするよりも、これなら人員が大幅に削減できるもんな。でも仮想現実に入ったまま死んでるやつもいるとしたら、それは問題だよな。)


(まあ、どんなにまっとうなシステムでも、公表せずにこんなことをやってるのはどうかと思うけどね。)


 これから ≪インスペクト・ガルシア≫ はどうなっていくんだろうか。

 あたしが潜入したことで、多少は変化が起こってそうだし。本部はこいつを世間に公表するのかな?

 ここに暮らしている人たちにも真実を突き付けるのかな??


 何が正義なのかわからないよ。


・・・・


 ≪インスペクト・ガルシア≫ の概要がわかってきたところで、本部はこれからの方針について協議に入るとのことだった。

 それには向こうの時間で数時間、こっちでは数日がかかりそうとのことだ。


 本部からは、その間にやるべきことの指令が届いていた。


 ゲダツ デキル ヨウニ ショウジン セヨ


 わざと捕まったとは言え、あたしには一切の煩悩を捨てるのは難しい。

 この世界、特に世話になっているサヌキの爺さん婆さんには情が移って多少の執着心は芽生えてきている。


 そもそも解脱ってどういう状態?

 煩悩を捨て、この世の一切に執着しないというのは、全てがどうなっても構わないというのとは違う。

 全てに対して深い愛を持ちながら、一切の執着を捨てる。


 マジか。あたしにそんなことできるかな。


 この世の煩悩から解放されても、待っているのは一切の欲望を許さない超管理社会だ。

 あたしたちはそれと戦っていたのでは?


 ここに暮らす人々を、この欲望に満ち溢れた ≪インスペクト・ガルシア≫ から解放し、ガチガチの管理社会に解き放つことは果たして正解なのだろうか??

 欲まみれで生きていくのも、それなりに幸せなのでは?

 開放すべきは、むしろ、現実世界にいる人たちの方ではないのか?


 ああ、ダメだダメ。こんなことを考えていては一生かかっても解脱できない。


(誰か聞いてる? ガイス? あたしは、この世界に毒されてしまった。あれほど訓練したのに、こっちの人間に愛着を持ってしまった。このままでは解脱できない。)


(ガイスだ、聞いているよ。大丈夫、今さっき、君のところからログアウトプロセスが走ったことが確認された。理由はわからないけど、君、解脱したことになったみたい。

 ログアウト処理が完了するまで、こちらの時間で1時間の予測。そっちでは1日だ。)


 え?解脱した?

 あたしには何の実感もなかった。


(それで、さっき話した医者の時もやったんだけど、ログアウトの状況をこちらで記録して、何らかの形で、そっちの世界の書物的なものに変換して保存しておこうと思う。

 書物化すると、その時代の言葉になってしまうので、ちゃんと伝わるものになるかわからないけど、今後、ログアウトが起こると、その時代の言葉で記録が残るように ≪インスペクト・ガルシア≫ をちょっと改ざんさせてもらったんだよ。

 そっちの住民に真実を知らせるのは不可能だし、やっていいものか現時点で判断できない。かと言って、このままでよいとも言い切れない。

 だもんで、そっちの人たちが自分たちでいつか何かに気が付けるようなヒントを残してやろうということになったんだ。

 ギリギリの作戦だ。気が付かれる危険性もあるし、すぐに自動修復されてしまうかもしれない。でも可能性を残してやりたんだよ。)


 あたしもそれに賛成だ。

 明日、あたしがログアウトする様子が後の時代にまで残って、この世界の救世主の元へと届くことを祈ろう。


(じゃあ、アイス。長い時間よく耐えたね。僕たちは本部で待っているよ。この後のことは君が帰還してから考えるとしよう。)


 これが ≪インスペクト・ガルシア≫ であたしが聞いた最後の通信となった。

 翌日、ガイスの予告通り、あたしのログアウトが始まった。もちろんブルストップのライブ付だったよ。


 あたしは無事に ≪インスペクト・ガルシア≫ からログアウトし釈放された。ガイスたちと合流して、あたしがログアウトする時に記録された文章を読んだ。


 これが傑作だったんだ。


“大空より、人、雲に乗りて降り来て、土より五尺ばかり上がりたるほどに、立ち列ねたり。

立てる人どもは、装束のきよらなること、物にも似ず。飛ぶ車一つ具したり。”


 その後、≪インスペクト・ガルシア≫ がどうなったかって?

 それはあんたの知っての通りだよ。


(おわり)

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