Day.11 栞
祖母の遺品整理をしていた。祖母は読書家で、書斎に山ほどの本が残されていた。子供の頃の俺はその書斎に並ぶ沢山の本をわくわくしながら眺めた覚えがある。そのため書斎は俺が引き受けることになり、時間を見付けては整理をしていた。
その日、本棚の奥から一冊の本を見付けた。タイトルは見たことのない外国語で書かれていて、装画も具体的な何かの絵ではなく飾り枠のような模様だった。試しに開こうとすると、頁の間からひらりと何かが落ちた。
栞である。透けるくらい薄い、鳥の羽根の形をした栞だった。拾い上げて適当な頁に挟んだ瞬間、ぱっと目の前に閃光が走る。眩んだ目が落ち着くのを待って目を懲らした俺は、息を飲んだ。
見渡す限りの草原が目の前にあった。慌てて振り返ってもなにもない。手には本と栞だけ。唯一の手がかりである本を開いてみる。先ほど栞を挟んだところを確認してみると、主人公らしき人物が草原に辿り着いたところだった。
そもそも現状がまともな状況とは言えないのだから、まともな方法で解決することなんて出来ないだろう。本を捲り、一番最初の、自宅らしきシーンに栞を挟んでみると、また閃光が走る。恐る恐る目を開けると、見覚えのある書斎に立っていた。
まだ胸がどきどきしている。一体これは何だ。そういえば晩年の祖母はたまに不思議な話をした。どこか遠い外国の話を、まるで行ってきたかのように語るのだ。今思えばあれは外国ではなかったのかもしれない。
本を開いて挟まれたままの栞を眺める。もう一度他の頁に挟もうとして、やめた。俺がまだあの頃の子供だったなら、もっと色々試してみたかもしれない。だが今の俺には妻子もいて、冒険心はどこかへ置いてきてしまっていた。
そっとその本を再び本棚の奥へとしまい込む。俺が今でも一人で本を読んでいるような子供だったなら、あるいは。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます