Day.9 一つ星

 ある日空から天使が落ちてきた。

 己の職務を思えば放置することも出来なかったのでとりあえず教会へ連れて帰ったが、寝ずに見張ることは出来ず途中で眠ってしまい、日差しを感じ慌てて起きた私を覗き込んでいた天使に心臓が止まるかと思った。

 四足で立つ彼――彼女かもしれない――の頭とおぼしき場所には目も鼻も口もないが、兎の耳のような形のものがすらりと伸びている。全身は貝殻の裏側のようにつるりとした質感で、艶々と光っていた。そして、その背にある大きな白い翼と光輪が、彼が天使であることを証明している。

 天使は星の数ほどいる。というより、星が天使の数だけある。空の星は天使の光輪の輝きなのだ。私の前にいるこの天使がどこの空から落ちてきたのかはわからないが、空へ戻るその日までは私がお世話をするべきなのだろう。彼の翼は折れていて、飛べるようには見えない。

「天使様」

 呼び掛けると、彼はわずかに頭を傾けて、ぶうんと唸るような声を出した。虫の羽音に似ている。

「その御翼、治るまでお世話させて頂きます」

 また一度、唸る声。言葉として理解は出来ないが、あながち間違いではないのだろう。

 こうして私と天使の奇妙な同居生活が始まることになったのだった。

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