11月17日 午前 9時53分 3度目の再会


 朝の4時に目覚めた俺は、はるかと一緒に白布の車で撮影現場に向かった。朝日の中で俺とはるかが抱き合うシーンの撮影だ。


 ドラマの中で主人公は何度もヒロインに告白している。その度に退けられている。それでもめげずに告白する。いまどき流行らない、熱血ストーリー。ところがどっこい。結構な数字を叩き出しているらしい。


 世間では、1周まわってありだとか、妙に懐かしくっていいだとか、勝手なことを言っている。けど結局みんなはなまだしあが観たいだけなんだと思う。


 そんなドラマだから、撮影にもつい力が入ってしまう。俺が出演するシーンもそうで、俺は何度もNGを喰らった。その甲斐あって、俺なりに上手にできたと思う。だが、はるかのコメントは辛口。


「99点ってところね。演技も、抱かれ心地も!」

「どうすれば、100点になるんだろう……」


「それは、自分で考えてほしい」


 だよなぁ。自分の力で勝ち取らないと意味がない。あれだけの熱気のこもった現場にいながら、なまだしあが出したNGは0回。さすがとしか言えない。


「で、男としてってのは、如何でしょうか……」

「99点。満点には程遠いけど!」


 これも納得と言ってよい。俺は100点をもらって男の天才と呼ばれる存在になる! そして、はるかに告白するって決めている。それまでは何度でも試験を受けるんだ。




 撮影が終わり、俺たちが学校に着いたのが9時53分。校門から玄関に至る道筋には全く人影がない。大遅刻だ。


「じゃあ、はるかは急いで教室に行ってきな」

「うん。なるべく直ぐに来てね。一緒じゃないと寂しいから」


 一緒じゃないと寂しいだなんて、うれしいことを言ってくれる。俺は白布に付き合って駐車場まで行って、直ぐに玄関へと向かった。そこにはるかが待っていてくれると思ってのこと。実際、これまでにもはるかは何やかんやと言って待っていてくれたことが何度もある。

 出席日数の関係で授業を休めないはるか。急がないといけない。




 ところが玄関のどこにも、はるかの姿は無かった。当たり前と言えば当たり前なんだけど。ちょっと寂しい。

 代わりに見覚えのある顔があった。先一昨日、一昨日と新幹線で一緒だった女の子。痴漢被害に遭っていた地味な女の子。ちえみだ! 本名かどうかは分からないけど!


「あれっ、ちえみさんじゃないの」

「はいっ。ちえみです」


 独特な受け答えだ。白布もご挨拶した。新幹線の中では、別のシートだったから、2人はほとんど絡んでいない。


「あっ。私は佐藤白布です」

「たっ、多田野ちえみです……」


 どこかで聞いたことのある名前だな。たしか同姓同名のアイドルがいた。世間的には天使の天才。俺の中ではただのアイドルさん。そうは言ってもとても陽キャで、はるかでさえ扱いに困るほど。一昨日になってようやく慣れてきたのか、はるかとの息はぴったりだった。

 痴漢に襲われているちえみを助けるときに、とっさに浮かんだ女の人の名前がちえみだっただけ。それだけただのアイドルさんの印象は強烈だった。

 こっちのちえみは、しあモードで地味な女子を演じるはるかと息ぴったり。俺はそんなちえみを見ていてピンと来た。昨夜、ひな板が転校生が来ると言っていた。ひょっとすると……。


「あの、もしかして転校生ですか?」

「あっ、それ。私もそうじゃないかって思ったわ」

「はいっ。転校生です!」


「やっぱり。でも、どうしてここにいるの」

「あっ、それ。私にも謎なのよねぇ」

「はいっ。迎えがきません」


 詳しく聞いてみると、ずっと待っているらしい。


「じゃあ、俺たちが校長室に案内するよ」

「うんうん!」

「ありがとう……」


 俺を真ん中に、右に白布、左にちえみ。3人が横に並んで校長室に行った。2人とも俺の腕にしがみついている。




 校長室に着いた。そこにはひな板はもちろん、肉、鈴、はるかがいた。何やら騒がしい。ひな板は俺を見つけて言った。


「あっ、昴くん! ちょうどよかったわ」

「っど、どうしたの? ひな……」


「大変なの。事件よ。転校生が消えたの!」

「消えたって? ちえみならここにいるよ」

「はいっ。ちえみです」


 よく分からないけど、事件は1行で解決した。




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